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スイス地熱発電の行方

チューリヒで行われている地熱発電のボーリング Keystone

12月15日、バーゼルの地熱発電プロジェクトの工事が原因で起こった地震に対する裁判が始まった。裁判の結果とは関係なく、スイスにおける地熱によるエネルギー利用計画の根本的な検討はこれからが本番だとみる専門家は多い。

裁判となったマグニチュード3.4の地震は、2006年12月8日に起こった。バーゼル市民がいまも忘れることのできない出来事だ。

個人に対する訴訟

 地震の被害はバーゼル市内クラインヒュニゲン ( Keinhünigen ) 地区の地下奥深くにある地熱を利用するプロジェクト「ディープ・ヒート・マイニング ( Deep Heat Mining ) 」が、60メートルの長さのボーリングで地下を掘り進めて行った際に発生した。物的被害はあったものの、けが人などは出なかった。

 ボーリングはライン川の岸辺付近で行われ、
地下5000 mの岩を水圧で砕き、水温を200度まで上げて、電気や暖房にそのエネルギーを使う方法が試されていた。
 裁判の被告は「ジェオサーマル・エクスプローラーズ ( Geothermal Explorers Ltd. )」 のプロジェクトリーダー、マルクス・ヘーリング容疑者。地下シミレーションで故意に地震を発生させ被害を出すことも厭わなかったという疑いが掛けられている。しかし、スイス地熱協会 ( Schweizer Vereinigung für Geothermie ) のロラント・ヴィース会長は訴訟が個人に対して行われていることは全く理解できないという。
「州政府を始め各方面から支えられているプロジェクトに対し、個人が訴訟されているのは驚かされる」

 プロジェクト自体悪意のあるものではないとヴィース氏は続ける。
「ディープ・ヒート・マイニング」は結局、期待されるものは得られなかったという結果に至った。また、同等のプロジェクトで発生する地震より、大きな地震が起こったというリスク調査結果も出た」
 12月初旬に発表となったリスクの公的調査の結果から、地震後中断されていたボーリングは、バーゼル市議会の即断で完全中止に追い込まれた。

イメージダウン

 「計画中止になるなら、地熱発電にとっては、悪いニュースだ」
と残念がるのは、ヌーシャテル州大学の地熱発電専門家エヴァ・シル教授だ。
「バーゼルのプロジェクトは勇気あるものだった。地下5キロメートルで使える技術であることが分かったが、まだ何か小さな問題があるということだ」
 と言う。

 「地熱発電はまだ初期段階にある。始めは大きな進歩もあるが、逆風もある」バーゼルの地震で地熱発電全体がイメージダウンとなることは、間違っているとシル教授は残念がる。
「石油産業では、ボーリング8回のうち当たるのは1回だけ。スイスの地熱発電は、よっぽど効果的だ」
 と語り、スルツス・フォレ ( Soultzsous-Forêts ) でこれまで20年間、同じ方法で成功しているという例を挙げた。

経験から学ぶこと

 シル氏もヴィース氏も今回の経験から学び、先を見ることだという意見で一致する。地熱発電がスイスのエネルギー政策の将来に大きなチャンスを与えてくれるものだと、2人は確信しているからだ。シル氏は地熱発電の中でも、ハイドロ地熱発電方式がスイスには適しているとみる。掘る深さが比較的浅く、既に自然界に存在する深層地下水を掘り出す方法で「技術的に難しくない」上、地面を揺さぶる必要もないからだ。

 ヴィース氏もハイドロ地熱発電が有望だという意見だ。そのためには、地下、地面の状態や住宅のある位置など、適切な土地を選ぶ必要があるという。
「地面がどのように動くのか、地下の性質をより良く知らなければならない」
 と言う。スイスの地下奥深くのことは、まだよく分かっていない。地下3キロメートル以上のボーリングはスイスでは9カ所しかされていない。「スイス全土で9カ所の針の穴だ。もっとよく知らなければ」とヴィース氏は確信する。

ジレンマ

 その適切な土地だが、バーゼルは深くボーリングする地熱発電に理想的な条件が整っていた。「地震が起こるような土地なので、地下は浸透度が高い。こうした条件はプロジェクトに適していた」
 とシル氏。これを踏まえバーゼルの郊外リーエン ( Riehen ) の深さ1.5キロメートルの地熱プロジェクトは「全く地震を起こすことなく達成できたはず」

 地熱発電計画は現在、電力会社の支援を受けている。エネルギー配給会社の「エレクトラバーゼルラント社 ( Baselland Elektra ) 」は12月初旬、ほかの同業者と協力し、地熱発電研究所のようなものを作りたいと発表した。ヴィース氏もシル氏もこの動きを歓迎している。

クリスティアン・ラウフラウブ 、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )

2004年、バーゼル市内のクラインヒュニゲン ( Keinhünigen ) 地区で始まった。ライン川に近い場所で、地下5000 mの岩を水圧で砕き、水温を200度まで上げて、電気や暖房にそのエネルギーを使う計画だった。専門家からは、地震の可能性が示唆されていたものの、州議会からの強い支持もあり、州から3000万フラン ( 約26億円 ) の融資を受けた。
2006年12月8日、バーゼル市内でマグニチュード3.4の地震を観測。地震は地熱発電プロジェクトが原因だった。

2009年12月8日、バーゼル州政府はリスク分析データをもとに、計画の中止を決断。地震による被害は設備の建設費だけで4000万フラン ( 約35億円 ) に上った。
リスク分析報告では、被害は年間600万フラン ( 約6億円 ) になると算出している。州政府はなお、今回発表されたリスク分析結果は、ほかの場所に適用はできないと発表し、化石燃料は再生可能エネルギーにとって代わらなければならないと結論付けている。

2009年12月15日、バーゼル地熱発電責任者、ジェオサーマル・エクスプローラーズ ( Geothermal Explorers Ltd. ) のプロジェクトリーダー、マルクス・ヘーリング容疑者に対する裁判が始まった。容疑は、ボーリングを通し起こした地震の被害に対する疑い。判決は21日に下る予定。

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