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留学生がスイスの大学で学ぶのは難しい?

スイス留学、コロナ禍でも人気健在

学生
2020年9月、再開された大学で過ごす学生たち Keystone / Gian Ehrenzeller

スイスは外国人学生からの人気が高く、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にもかかわらず留学生がやってくる。しかし、コロナ禍の留学生活にはこれまでに無い苦労がある。

修士課程で学ぶジュゼッペ・グルッタダウリさんは、昨年8月、イタリアからスイス西部の町フリブールにやって来た。その頃スイスでは一連のウイルス感染拡大防止措置が緩和され、各地の大学も徹底した衛生管理とマスク着用の下ではあったが、秋学期から対面授業を再開することになった。学期開始前に行われるフランス語準備コースへの出席が叶い友人もできたグルッタダウリさんは、町の土地勘もつかみ、幸先の良いスタートを切ることができた。ところが、11月に入り状況は一変した。

スイスも欧州の大半の地域と同じくコロナの強力な「第2波」に襲われ、大学は授業をその年2度目のリモート(遠隔)方式に戻すことになったのだ。

だが、フリブール大学(スイス)と東ピエモンテ大学(伊)で公共経済学と財政学の修士課程を同時履修しているグルッタダウリさんは動じなかった。

グルッタダウリさんがswissinfo.chに寄せてくれたメールには「イタリアの大学で受け持っている数学と統計学の補習のアルバイトは、パンデミックのため1年中オンラインでできるようになった。それならばスイス滞在を(最小単位の1学期から)1年に延ばし、研究プロジェクトも含めて修士課程修了までスイスで学ぼうという気になった」とある。

母国イタリアの感染拡大防止措置がスイスよりも厳しかったせいもある。「細心の注意を払い規則を守るのはもちろんだが、その上でスイスの方がもっと自由を感じられた」(グルッタダウリさん)。彼自身オンライン授業は嫌いではないが、留学生活の社会的側面となると話は別だ。「気軽に友情を築いたり、現地の文化に触れたりする」ことは難しくなった。

留学生の増加

グルッタダウリさんのようなケースは珍しくない。スイスの高等教育機関の統括組織スイスユニバーシティーズが行ったアンケート調査*によると、懸念されていた秋学期の留学生数減少は必ずしも当たらなかった。

もちろん、一つにはスイスが留学生の入国を許可しているためでもある(囲み記事参照)。

欧州連合(EU)および欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国からの外国人留学生は、通常の入国ルールと、場合によっては隔離義務に従った上で、スイスに入国できる。

第三国の学生は、通常の要件外部リンクを満たしていれば90日を超える教育・訓練課程への参加が許可される。これは英国や南アフリカを含む全ての第三国に適用される。

第三国からの学生は、在住国のスイス在外公館でスイス入国の申請を行う。提出された申請書は学校や大学の所在地がある州の移民局に送付され、移民局は就学に必要な滞在許可証を発行するため、申請書の審査と処理を行う。

出典:連邦移民事務局(SEM)外部リンク広報官

スイスでは高等教育レベルの国際化が著しい。これは同領域における成功の秘訣でもある。最新の統計によると、スイスの学生の30%外部リンク、博士課程では56%を外国人が占めている。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国中でも2番目に高い水準だ。

しかし、同じく留学生に人気の英米とは違って、留学生の存在は財政上、重要なものではない。名高い連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)でも学費は年間約1500フラン(約17万6千円)と、スイスの大学の学費は低く抑えられており、その方針は留学生に対しても変わらない。

ジュネーブ大学やイタリア語圏ティチーノ州のスイスイタリア語大学(ルガーノ大学・USI)では実際に留学生が増加したが、これは国境を接するイタリアとフランスからの学生が増えたためだ。USIはswissinfo.chの取材に対し「授業が中断していないこと、ランキングが高いこと、スイスのパンデミック対策に対する伊メディアの報道が好意的なこと」をその理由に挙げる。フリブール大学でも2020年は外国人学生の数が増加した(前年比約47%増)。内訳は57カ国164人で、ドイツとフランスの出身者の割合が最も高く、続いてイタリアが3位となっている。

一方、バーゼル大学などスイスの他の大学では、学士課程の留学生数に若干の減少が見られた。マティアス・ゲーリング同大学広報担当は「渡航制限や隔離措置が理由で留学を見送った学部生や院生がいる」と述べる。

反対に、修士課程は留学生の間での人気の高まりを反映し、増加を記録した。

交換留学は減少

欧州学生交流プログラム「エラスムス」など短期プログラムに参加する交換留学生の数は、今回の調査の対象となった全ての大学で減少していた。例えば連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は、通常、複数の提携大学から650人を受け入れているが、現在は233人にとどまっている。

チューリヒ大学では、交換留学のほとんどが欧州内の大学との間で行われているという仮集計が出ている。大学側は「入国や渡航制限が学生の流動性に及ぼす影響は、欧州の外の地域でより大きかった」とする。

なお、スイスの大学入学予定者の間でギャップイヤーを見送る動きがあったため、国内在住者の入学者数は多くの大学で増加している。

その他の地域

その他の地域の状況は様々だ。米国では、2020年秋学期の留学生数は前年比で43%減少外部リンクした(トランプ政権が打ち出した留学生に対する強硬措置外部リンクの影響もあった)。

オーストラリア外部リンクは、パンデミック対策の一環として今も外国人留学生の入国者数に上限を設けている。一方、英国外部リンクでは秋学期、英国・EU域外からの留学生数が9%増加した。スイスの隣国ドイツ外部リンクでは、スイスと類似した傾向が見られる。

長期や短期の留学でスイスを訪れた学生が現地の教育機関に慣れるまでの支援を行う「スイス・エラスムス学生ネットワーク(ESN)」でも、学生の流動性(外国人学生数は各地域で平均して最大5割減少しているという)に対するインパクトの大きさを実感している。同組織の仕事にも影響しているという。

ボランティアによるサポート

スイスESN代表のダナ・モザファーリさんはswissinfo.chの取材に対し「言葉の壁や高い生活費、煩雑な役所の手続きといった通常のハードルに加え、今の留学生は渡航禁止やコロナ検査、入国時の検疫措置にも直面している」と説明する。

「地元の学生ボランティアは新たに到着した学生のために『隔離生活サポートプログラム』を立ち上げ、食料品の買い出しや各種手続き、精神面のサポートといったサービスを提供している。

ところが、一部の大学では留学生の事務手続き負担が増えている。今のような厳しい状況では避けるべきだ」(モザファーリさん)

「留学生」の定義は「スイス国外で中等教育を修了し、現在スイスの高等教育機関に在籍している学生」となっている。

スイスに来る留学生の大半は、独、仏、伊、オーストリアなど近隣諸国の出身者。統計によると、欧州連合(EU)域外では中国、インド、米国、ロシア、トルコからの留学生が最も多い。

出典:連邦統計局外部リンク/NCCR (国家主要研究)on the move

パンデミックにもかかわらず学生たちが留学に関心を持ち続けるのはなぜなのか。モザファーリさんは「1つ変わらないものがある。それは留学生が自らの安全圏を脱してスイスで学ぼうというモチベーションだ」と話す。

授業はオンラインになったとしても、その国や文化を発見することも留学体験の一部だ。モザファーリさんは「留学生は、スイス高等教育の戦略上の最優先事項である『国際化』に貢献する存在だ」と付け加える。

今後についてはどうか。学生流動の長期的変化に関してはグローバルな議論が進行中だ。例えば、スイスでも大きな集団を形成する中国人留学生(囲み記事参照)の場合、留学先として自国周辺の国外部リンクを選ぶ傾向が出てきた。その中国を始め、インドやイタリアの留学先としての人気も高まりつつある。スイスへの長期的影響については今後を待たねばならない。

* アンケート調査は2021年1〜2月にスイスの州立大学と連邦工科大学の計12校を対象に行われた。

(英語からの翻訳・フュレマン直美)

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