スイスのCO2対策は「落第点」だが国際比較では「良」
13日の国民投票では、スイスの気候政策の柱の1つである改正CO2法が否決された。これによりスイスのカーボンニュートラル(炭素中立)達成はさらに遠のいたが、国際的に見たスイスの位置づけは?
航空チケット税、化石燃料への炭素税強化、ガソリンやディーゼル燃料の値上げ――。スイス人は気候危機に対処するための代償を払うつもりはないようだ。少なくとも、議会が提案した方法では。
今回の国民投票における改正CO2法の否決は、パリ協定に基づく国の温室効果ガス削減策を、スイス国民が拒否したことを意味する。
シモネッタ・ソマルーガ環境相は13日夕の会見で、この否決によりカーボンニュートラル達成がより困難になったが、国は引き続き目標達成を目指すと述べた。欧州連合(EU)、米国、そして世界の排出量の半分を占める中国をはじめ、世界の約100カ国は、2050年か60年までに二酸化炭素(CO2)排出量を正味ゼロにすると表明している。
スイスは15位
国際的に見たスイスの位置づけを見てみよう。
スイスは19年にCO2換算で約4600万トンの温室効果ガスを排出した。これは世界の排出量の約0.1%に相当する。また、スイスでは国民1人が平均して年間4.4トンのCO2を排出する。これはブラジルでは2人分の排出量に相当する。
ここでは燃焼とセメント製造からのCO2排出量のみを考慮し、全ての排出源はカバーしていない。このため、スイスの値は連邦環境省環境局(BAFU/OFEV)の出している値よりも低い。
上記の数字は、国レベルで発生する排出量のみを示す。輸入された排出量も考慮した場合、スイス国民1人当たりの排出量は年間14トンに跳ね上がる(世界平均は6トン)。この世界ランキングではルクセンブルクが1位、スイスは15位にランクインした。
2050年までの目標、太陽エネルギー
スイスは2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で半減させ、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると国際的に約束した。長期的な戦略として、輸送、建物、産業からの排出量を約9割削減することを目指す。削減の一部は、外国における気候変動対策プロジェクトへの資金援助という形で達成する。
農業や廃棄物処理などで生じる回避が難しい温室効果ガスは、CO2を回収・貯留する技術を用いて相殺する。
スイス政府の計画では、交通機関や暖房の電化に伴う電力需要の増加は、再生可能エネルギー、特に太陽光発電の拡大で対処する。30年後にスイスの原子力発電所が全て停止した時点で、太陽エネルギーがスイスの消費電力の45%を占めるものと予想される。現時点ではまだ約4%だ。
米国は風力発電を推進
中期的にはEUの計画の方がより野心的で、2030年までに1990年比で少なくとも55%排出量削減を目指す。また、2050年までのカーボンニュートラル達成に向け法的拘束力のある目標を盛り込んだ「欧州グリーン・ディール 」の中核を成す気候法には、特に運輸、エネルギー、農業、建物など、あらゆる分野での対策が定められている。
目標達成に向けた最も重要な手段の1つに排出権取引制度がある。スイスは20年から同制度に参加している。同制度は現在、発電、産業、国内航空に適用されているが、道路交通や暖房にも拡大される可能性がある。
また中国も、30年の排出量目標、ならびに60年までにカーボンニュートラルを達成するために、炭素市場に望みを託している。2月初旬に始まった世界最大の排出権取引制度は、当面はエネルギー企業を対象としている。実際、中国のエネルギー生産は、未だ6割を石炭に依存している。炭素市場は、将来的にはセメントや製鉄所など他の産業にも拡大される予定だ。
パリ協定に再び参加した米国は、2005年比で排出量50~52%削減を目指す。ジョー・バイデン米大統領は、とりわけ建物の改修に20億ドル(約2213億円)を投じ、よりクリーンな自動車生産を財政支援する方針だ。新政府はまた、主に海洋上で風力発電を行う洋上風力発電所を新たに建設するなど、再生可能エネルギーによる発電を増やしたい意向だ。
スイスの政策は「落第点」
スイスの化石燃料に対するCO2税は現在1トン当たり96フラン(約1万1700円)で、世界で最も高い部類に入る。世界の気候政策を監視する独立団体クライメート・アクション・トラッカー(CAT外部リンク)が指摘した。
だがスイスの政策は「落第点」と手厳しい評価だ。CATの試算では、現在スイスで実施されている対策を通し30年までに排出量26~31%の削減が見込まれる。このままではスイス政府は20年の目標のみならず、30年の目標も達成できない恐れがある。
かろうじて国際比較において、スイスは大半の欧州諸国や先進国よりも優れている。国際的な気候政策を考慮した「気候変動パフォーマンス・インデックス 」では、スイスは61カ国中14位。目標こそ達成できなかったが、過去30年間で排出量を削減した国の1つに数えられている。
今世紀末の気温はどこまで上昇?
最新のCATレポートによると、有言を全て実行しても、地球の平均気温は今世紀末までに産業革命前と比べ2.4度上昇する見込みだ。これでは温暖化を「2度よりはるかに低い温度」に抑えるというパリ協定の目標を達成できない。
だが国際的に著名なスイスの気候研究者、ソニア・セネビラートネ氏は楽観的だ。気候変動に関する政府間パネルの報告書の共同執筆者である同氏は、パリ協定の目標達成は「不可能ではない」とswissinfo.chに語り、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で時間をロスしたが、米国の政権交代により政治面での状況が改善された。今年グラスゴーで開催される国連気候変動枠組条約締約国会議が決定的な役割を果たすだろう」と述べた。
(独語からの翻訳・シュミット一恵)
(Übertragung aus dem Französischen: Balz Rigendinger)
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