世界一周のチャレンジを続けるソーラー・インパルス2。この太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機が今日日本時間午後10時、名古屋の小牧空港に着陸する予定だ。中国の南京を昨日5月31日午後2時45分に出発したが、悪天候のため当初のハワイまでの6昼夜ノンストップ飛行予定を変更し、日本への着陸を決行する。
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「バッテリーは十分にある。夜間に名古屋に着陸するための(操縦士と機体の)コンディションも完璧だ。たとえ、小牧空港の受け入れが遅れるとしても十分やっていける」と、ベルトラン・ピカールさん(56)はウェブカムで話した。ピカールさんは、この冒険を思いたった精神科医でスイス人の冒険家。地上から、もう1人の元戦闘機操縦士アンドレ・ボルシュベルクさん(62)の飛行を見守りながら、コメントした。
「日本は、この着陸を快く受け入れてくれた」。「われわれは、向こう見ずなタイプの人間ではない。周到な準備を重ねて『冒険』に挑んでいる。今回のこの着陸も準備がうまくできていた証拠になる」
また、今の気持ちを聞かれ、こう答えている。「人生の不思議なときの一つだ。高揚感と失望感との間を行き来している」
天候には勝てない
この気持ちは、冒険を見守る多くの人の共感を呼ぶものだ。2003年から12年の歳月をかけ準備し、アブダビをついに今年3月9日に出発したソーラー・インパルス2。その後ミャンマーなどを経て南京に到着したが、悪天候のため何週間も待機状態が続いた。そして、やっとスタートした矢先に再び悪天候に襲われたからだ。
しかも、太平洋横断は最大の難関とされ高揚感も高まっていた。コックピットには1人しか入れないため、今回はボルシュベルクさんがハワイまでの8172キロメートルを6昼夜ノンストップで操縦することになっていた。彼はヨガのテクニックを使い20分ごとの「仮眠」を取る準備を整えた。出発前に南京で、「この太平洋横断は、人生で決して忘れられないものになる」と語っている。
「南京出発後の初めの夜をうまく乗り切れば、後はうまくいく」と、世界一周のスタート前に語っていたピカールさん。第一日目の夜のバッテリーが心配だったからだ。しかしそれは今回クリアされた。
南京までの飛行と不時着も含めて総括し、ピカールさんは言う。「われわれは可能な全てのことをやってきた。しかも成功裏に行ってきた。ただ一つコントロールできないこと、それは天候だ」
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ソーラー・インパルス2で世界一周 パイロットは催眠・ヨガで活力維持
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太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機「ソーラー・インパルス2(Si2)」が、ついに世界一周飛行に挑戦する。だが、この冒険で利用されるのは、太陽のエネルギーだけではない。2人のスイス人パイロットは、自己催眠や瞑想、そしてヨガの「エネルギー」も活用する。
翼幅はボーイング747より 広いが、重量は自家用車程度のSi2。革新的なクリーンテクノロジーや工学的設計に費やされた膨大な時間と労力については、これまで多くが報じられてきた。
しかし最先端技術が用いられてはいても、今回の世界一周の旅は飛行機が発明された頃に似た部分がある。パイロットはたった1人で、困難な状況に対応しなければならないところだ。人間の精神力と耐久力が試される。
3万5千キロメートルに及ぶこの挑戦の旅では、スイス人冒険家ベルトラン・ピカールさん(56歳)と元戦闘機操縦士アンドレ・ボルシュベルクさん(62歳)が交代で操縦する予定だ。合計25日かかり、途中で12回着陸することになっている。
しかし、地球一周の間には極限状況が予想される。気温は、高度8千メートルでのマイナス40℃から、一部地域の高度3千メートルでの40℃まで大きな幅がある。暖房がなく与圧されていない3.8立方メートルのコックピットでほとんど眠ずに最長5昼夜連続の単独飛行を行うのは、身体的にも精神的にも極めて過酷な試みだ。
「技術面では飛躍的な進歩を遂げたので、残っているのは人間の生理的な限界に対する挑戦だけだ」とピカールさんは言い切る。
この人類史上初の冒険に挑む2人のパイロットは、リラックスし、健康を保ち、エネルギーレベルを維持し、睡眠を管理するために、少し変わった方法を取ることにした。
ピカールさんとボルシュベルクさんはいずれも、20分間の睡眠ないしは休息を何度か取り、1日合計2〜6時間の「睡眠」を確保するという「多相性睡眠」を行う予定だ。睡眠・休息期間中は自動操縦に切り替える。
しかし、この変わった睡眠管理のアプローチは2人のパイロットでそれぞれ違う。精神科医・心理療法士の資格をもつピカールさんは、自己催眠法の利用を好む。
「疲れているが眠ってはいけないときに注意力を維持するには、催眠が必要だ。また、疲れていないが眠らなければならないときにも必要になる」とピカールさん。
飛行中は、親指に注意を集中したり、数を数えたりといった方法を用いる予定だ。また、「大洋の上空を飛ぶ退屈な時間」で長いと感じる感覚を縮めたり、20分間の仮眠の短いと感じる感覚を引き延ばしたりする「時間ひずみ」を感じる技術を、ドイツ人心理学者・催眠術療法士ベルンハルト・トレンクルさんなどから学んでいる。
トレンクルさんとピカールさんによると、こういった高度な技術によってパイロットは最大20分間トランスに似た状態に入ることができる。身体は脳から切り離されたようにリラックスし、一方の脳は注意力を維持する。それにより、元気を回復できるという。
「催眠を使えばより素早くリラックスし眠りに入ることができ、20分後に目覚めたときには気分がすっきりし、頭も冴えている」とピカールさんは言う。2013年に72時間のシミュレーション飛行を行ったとき、催眠によるトランス状態にあったが、技術チームが合図のアラームを鳴らした1.5秒後に、彼は操縦パネルの前に座った。それは極めて早い反応だったという。
2人のパイロットを検査したヴォー州立病院(CHUV)の睡眠管理専門家ラファエル・ハインツァーさんは、2人とも適切な準備ができていると話す。
「睡眠時間が普段より短くても、このような短時間の仮眠を24時間にわたって繰り返すことで、パイロットたちは72時間後も反射反応を維持していた。神経学的検査の結果も良好で、安心できるものだった。ピカールさんの普段の睡眠時間は1日8〜9時間と長い方で、一方のボルシュベルクさんの平均睡眠時間は5〜6時間だが、2人とも全く問題なくテストに合格した」
ただしハインツァーさんは、テストは5日間に及ぶものではなかったこと、未知のリスクが存在することを認めた。
ヨガの実践
ピカールさんの催眠法に対し、ボルシュベルクさんが集中力の維持と睡眠パターンの管理に用いるのは、ヨガと瞑想だ。「手段は違っても似た結果が得られる。リラックスし、精神的に疲れる思考から逃れるために瞑想と呼吸法を用いる。そうすることで心臓の鼓動が落ち着き、数分で眠りにつける」
10年以上前からヨガをしているボルシュベルクさんは、ラジャスタン出身の経験豊富なインド人ヨガ行者サンジーヴ・バーノさんに頼んで、今回のための特別プログラムを組んでもらった。プログラムには、体温を上下させるプラーナーヤーマ呼吸法や、血流と筋肉の緊張を整える伝統的なヨガのポーズが含まれる。多くは目隠しをして行われる。
脊椎マッサージ機能が備わった操縦席は、後ろに倒せば平らなベッド兼ヨガマットになる。コックピットは狭いが、ボルシュベルクさんはこのシートの上で肩立ちのポーズなどを行える。
長距離飛行の懸念
バーノさんは、2人のパイロットは十分な準備をしているが、特に長距離の飛行については懸念が残ると話す。
「コックピット内には圧力や温度の調節装置がない。電熱式の手袋と靴と衣服だけだ。しかし、マイナス40℃の環境で座った状態では、厚着をしていても厳しい。体を動かせれば何とかなるが、マイナス40℃の中で座りっぱなしなのは難しい」
「同じ場所でほとんど動かず、20分しか眠らない状態が2、3日続くと、認識調整機能が完全に狂ってしまう。幻覚症状が出たり、体内の窒素量が激増したりする可能性がある。また血液の循環も悪くなる」
バーノさんは地上から飛行機の進行状態を見守り、上空のパイロットがヨガのポーズや呼吸法で助けが必要なときに備えて、コミュニケーションツール「グーグル・ハングアウト」で連絡を保ちながら待機するという。
「例えば3日目頃から、睡眠不足と疲労、窒素過多、体のむくみなどから深刻な影響が現れる可能性がある。これらはいずれも解決すべき課題となり得る」
数字で見るソーラー・インパルス
飛行距離 3万5千キロメートル
合計飛行時間 500時間
最高巡航高度 8500メートル
速度 毎時36〜140キロメートル(高度による)
プロジェクト期間 5カ月(2015年3〜8月)
コックピット容積 3.8立方メートル
1人乗り 最長で5〜6昼夜連続で飛行
天候条件 マイナス40〜プラス40℃
酸素ボンベ 6台搭載
パラシュート 1台
救命ボート 1台
1日に食料2.4キログラム、水2.5リットル、スポーツドリンク1リットル
翼幅 72メートル(ボーイング747より広い)
平均的自家用車と同程度の重量(2300キログラム)
リチウム電池 633キログラム
電池 4×260ワット時毎キログラム
太陽電池パネル 1万7千枚(厚さは各135ミクロン)
構想開始 2003年
チーム構成員 70人
パートナー企業 80社
予算 1億5千万ドル(約178億円)
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この前人未到の挑戦は、12年かけた研究・開発で周到に準備された。その結果、2.3トンの機体に太陽電池パネル1万7千枚を載せた高性能の飛行機が誕生した。出発前のインタビューで、パイロットの1人、アンドレ・ボルシュベルクさんは「機能的に、機体はほぼ完ぺきな状態だ。これからはパイロットの体力的・精神的なチャレンジになる」と語っている。
中でも最大のチャレンジは、太平洋および大西洋の横断になる。120時間、つまり昼夜問わず5日間をノンストップで飛行しなければならない。その間、食事はどうするのか?そしてトイレは?操縦室は1人のパイロットしか入れない超小型。自動操縦に任せて仮眠を取りながら飛行するとはいえ、問題が起きれば直ちに手動に切り替える。それはいつ起こるかわからない。
ではどのように休息・仮眠を取るのか?スイステレビの記者が、操縦席に座るもう1人のパイロット、ベルトラン・ピカールさんにインタビューした。
なお、ソーラー・インパルス2はアブダビを3月9日に離陸した後、オマーンの首都マスカットでパイロットをボルシュベルクさんからピカールさんに替え10日の23時25分、インド・アーメダバードに着陸した。この1465キロメートルの飛行は、電動飛行機が飛んだ距離としては世界初で、国際航空連盟(FAI)に登録される予定だ。
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