ソーラー・インパルス 新居へ
2009年12月にチューリヒ近郊で行われた短いテスト飛行の後、ソーラー・インパルスは、高い高度と夜間時の初飛行に備え、ペイエルンへ本拠地を移した。
デューベンドルフ ( Dübendorf ) 軍飛行場から三つに分けて無事に搬送された幅64メートルの翼が、2月9日にペイエルン ( Payerne )
の軍飛行場で組み立てられた。
テスト飛行に向けて
2012年の世界一周飛行という長期的な目標に向けて、今年3月中旬に第1回目の大規模なテスト飛行が予定されている。
「 ( チューリヒ州の ) デューベンドルフで満足していましたが、ペイエルンはプロジェクトの継続にとって理想的です」
とソーラー・インパルス・プロジェクトの最高責任者アンドレ・ボルシュベルグ氏はペイエルンで報道陣に語った。
ボルシェベルグ氏は、1999年に熱気球で世界一周無着陸飛行を果たしたスイス人の冒険家ベルトラン・ピカール氏と共に、副操縦士としてソーラー・インパルスに搭乗する。
「( チューリヒの民間機用空港 ) クローテン空港上空のような混雑がなく、飛行場の広大な平原はテスト飛行に完璧です」
とボルシェベルグ氏は説明した。
1億フラン( 約84億円 ) をかけたスイスのソーラー・アドベンチャーに携わっている70人のメンバーのうち、十数人はローザンヌの北に位置するペイエルンにとどまりテスト飛行を見守る。その中には、スイス人の元宇宙飛行士クロード・ニコリエ氏率いるテスト飛行チームも含まれる。
これと同時にデューベンドルフでは、炭素繊維を使った試作機の開発が引き続き行われる。ソーラー・インパルスの翼長は、「エアバスA340」の翼長に匹敵するほど巨大だが、重量はわずか1600キログラムと、平均的な車よりも軽い。さらにソーラー・インパルスの四つのエンジンの馬力は、小型スクーターほどしかない。
より高く、より遠く
「開発作業の面では、現在プロジェクトの約中間地点まで来ています。現在のモデルは、滑走路の上を飛ぶことはできます。しかしもっと高く、そして遠くまで飛べることを証明しなければなりません。そしてその次には地球の周りを一周できるより高性能のモデルを開発します」
とボルシェベルグ氏は語った。
プロジェクト・チームは、現在の試作モデルで3月中旬に高度1000メートル上空を1時間半飛行する計画を立てている。
「これは12月中旬にデューベンドルフで初めて地上50センチメートルを飛んで以来の、新たなステージです。前回は明らかに、一般人にとって目を見張るようなものではありませんでしたが、この飛行機が飛べることを証明しました」
とボルシェベルグ氏は説明した。
4月からピカール氏とボルシェベルグ氏は、高度8500メートルでの初飛行を目標とした計画の指揮をとる。さらに2人は6月または7月に、世界初の昼夜連続36時間の無着陸飛行を行う計画だ。
「化石燃料を使わずに世界中を飛ぶことができたら、同じように車を走らせることを不可能だと言う人はいなくなるでしょう」
とピカール氏は語った。
モーニング・サンシャイン
この計画では、飛行機は日中高度8500メートルまで上昇し、飛行機に動力を供給するために、ソーラーパネルが太陽光エネルギーを吸収する。またそれと同時に、リチウム重合体バッテリーに充電することによって、夜間は高度を2500メートルに下げ、エンジンを動かし続けることができる。
「朝に太陽光を浴びられるよう気象学者と計画を立てることが極めて重要になります」
とボルシェベルグ氏は言う。
この春以降は、テスト飛行の結果をもとに、エンジニアが修正点を組み込んだ第2号機の設計に取りかかる。
「たった1回の試行錯誤で最高のモデルを作ることはできません」
とボルシェベルグ氏は語った。
世界一周旅行
長期的なゴールは、新しい飛行機が、天候にもよるが平均時速70キロメートルの速度で5カ所に立ち寄りながら、合計20日間から25日間をかけて世界一周をすることだ。
「飛行距離が長く、好天に恵まれる必要があるため、ところどころ立ち寄らなければ世界一周は不可能です」
とボルシェベルグ氏は言う。
寄港予定地は、ヨーロッパ、中国、米国、ハワイ、湾岸地域で、行く先々で飛行機を披露し、再生可能エネルギーへの興味を喚起する予定だ。
「昼夜飛び続けることによって、再生可能なエネルギーを使えば無制限にずっと飛び続けられることを示したいのです」
とピカール氏は先月アブ・ダビで開催された「世界未来エネルギーサミット ( TheWorld Future Energy Summit ) 」でAFP通信に語った。
「もし化石燃料を使わずに世界一周飛行ができたら、車や暖房、冷房、コンピューターなどを燃料無しで動かすことは不可能だと主張することはもう誰もできなくなるはずです」
2人は世界一周飛行を実施する前に、化石燃料の要らないソーラー・インパルスで、チャールズ・リンドバーグで有名な大西洋横断航路を辿る飛行テストを行う予定だ。リンドバーグは1927年に大西洋単独横断無着陸飛行に初めて成功した冒険家だ。
「リンドバーグが燃料を満載した飛行機で大西洋単独横断飛行を敢行した時、乗客を1人も乗せることができないのだから意味が無いと言われました。しかし25年後には200人も乗せて太平洋を横断する飛行機が開発されました。われわれは同様の状況にあります。そして第一歩を踏み出そうとしているのです」
サイモン・ブラッドレー 、ペイエルンにて、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )
ピカール氏とボルシェベルグ氏は、太陽光エネルギーで稼働する飛行機で飛ぶ初の飛行士となるが、ほかにもすでに太陽光エネルギーを利用した無人飛行は行われている。
アメリカ航空宇宙局 ( NASA ) が「アエロ・ヴィロンメント社 ( Aero Vironment) 」と共同開発した無人の軽量飛行機「パスフィンダー号 ( Pathfinder ) 」は、1997年に高度2万1793メートル上空での飛行に成功した。
2001年には無人飛行機の「ヘリオス号 ( Helios ) 」が高度2万9524メートルでの飛行に遠隔操作で成功し、太陽光エネルギーの飛行機として非公式だが世界最高記録を樹立した。しかし2003年の飛行中にハワイ沖で墜落した。
世界的に名を知られるようになった初の太陽光エネルギー飛行機は、1981年7月に英国海峡を横断したアエロ・ヴィロンメント社の「ソーラー・チャレンジャー号 ( Solar Challenger ) 」。
完成までに、70人のチームによる7年間の作業、計算、シミュレーション、テストを要した。
翼長は「ボーイング747-400」と同じ、機体の重量は平均的なファミリー車の重量160kgと同じ。
翼の上に1万2000枚のソーラーパネルが搭載されており、合計4基の電気モーターが各々最高10馬力の動力を供給する。
また日中にリチウム重合体バッテリー ( 400kg ) を充電し、夜間飛行を可能にする。
ベルトラン・ピカール氏は、1999年に熱気球で行った世界一周無着陸飛行によって「科学冒険家」としての名声を得た。飛行冒険家であると同時に精神科医。祖父のオーギュスト・ピカールは成層圏を探検した初の冒険家で、ベルトラン・ピカール氏の父親ジャック・ピカールが海洋最深部に到達した際に使用したバチスカーフ ( 深海用潜水艇の一種 ) を発明した。
20世紀最大かつ最後の冒険家と言われたジャック・ピカールは、去年11月にレマン湖畔の自宅で86歳で死亡した。
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