スウェーデン王立科学アカデミーは4日、2017年のノーベル化学賞を、「クライオ電子顕微鏡」を開発したスイス・ローザンヌ大のジャック・デュボシェ名誉教授(75)ら3人に贈ると発表した。スイス人で化学賞を受賞するのは8人目。
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受賞したのはデュボシェ氏と、米コロンビア大のヨアヒム・フランク教授、英MRC分子生物学研究所のリチャード・ヘンダーソン博士の3人。
3人はたんぱく質などの分子構造を、組織を壊さずに高精細に調べることができる「クライオ電子顕微鏡」を開発。細菌やウイルスの分子構造が解析できるようになることで、感染症の仕組みや新薬開発に役立つ。同アカデミーは3氏の研究功績を「生命化学に対する基本的な理解と製薬の発展にとって非常に重大。この技術によって生物化学は新しい時代に突入した」とした。
水をガラス状に
同アカデミーによると、デュボシェ氏の功績は「水を急速冷却し、生体試料の周りに液体の状態で凝固させることで、生物分子を単独で本来の形状を保つことが出来る」技術を開発したことだという。
デュボシェ氏は4日の記者会見で、試料を凍らせて水を氷にするのでは「水中に浮いているすべての物質が壊れてしまう」ため、解決方法にならないと述べた。デュボシェ氏は、低温でも液体の水の構造を保つ技術を成功させた。
ノーベル賞の声明では「現在の技術では生命の分子構造のイメージを作り出すことが困難だったため、生物化学の地図には長い間、余白があった。クライオ電子顕微鏡がそのすべてを変えた」とした。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。3氏には賞金900万クローナ(約1億2400万円)が贈られる。
識字障害と暗闇恐怖症
スイスのドリス・ロイトハルト連邦大統領は4日、デュボシェ氏の受賞を素晴らしい研究の成果だとたたえ、スイスを誇りに思うと述べた。
デュボシェ氏は1942年生まれ。バーゼル大、ジュネーブ大を卒業し、現在はローザンヌ大の名誉教授(生物物理学)。ドイツにある欧州分子生物学研究所に勤めていたこともある。
ローザンヌ大は、同氏の経歴をユーモラスに表現した履歴書外部リンクを公開。「楽観的な両親の元に生まれ」、幼い頃は識字障害や暗闇恐怖症を抱えていたという。デュボシェ氏は以前のインタビューで「私にとって、恐怖と向き合うこと、恐ろしいものを理解することはとても大切だった」と述べている。
スイスのノーベル化学賞受賞者は、2002年の連邦工科大学チューリヒ校のクルト・ビュートリッヒ博士が最後。受賞理由は「たんぱく質など生体高分子の構造解析における手法の開発」だった。この年は、島津製作所の田中耕一氏も化学賞を受賞し、日本で大きな話題を呼んだ。
(英語からの翻訳、編集・宇田薫)
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