ビーガン食で「チキン」は表示可? スイスで注目訴訟
スイスで製造される代替肉を使ったビーガン製品のラベルに「チキン」や「ポーク」と表示できるかどうかを巡り、スイス連邦裁判所(最高裁)は年内にも判決を言い渡す。この判決は、スイスに限らず欧州全体の先例となる可能性があるとして注目が集まっている。
最高裁の判決次第では、プランテッド・フーズ社は、エンドウ豆を使ったビーガン製品のラベルから「チキン」および「ポーク」の表示を削除するよう求められる可能性がある。これは昨年のチューリヒ州行政裁判所での判決を覆すものだ。同裁判所は、植物性食品のパッケージに動物由来の肉の名称を使用しても「ビーガン」と明記されていれば消費者の誤解は招かないと判断した。
プランテッド・フーズは、2019年にチューリヒ近郊のケンプタールで創業。スイス最大のスタートアップ企業で、ドイツ、オーストリア、フランスなど欧州数カ国で販売を展開している。同社製品の表示に異議を唱えたのは、チューリヒ州の食品と水の安全を監督するチューリヒ州研究所で、商品名に「プランテッド・チキン」や「ギュッゲリ」(スイスドイツ語で鶏肉)といった表示を使わないよう要請していた。プランテッド・フーズは行政裁判所でこれを拒否。行政裁判所は昨年11月、同社の主張を支持する判決を下した。
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スイス国民の健康政策も管轄する連邦内務省(EDI/DFE)は州行政裁判所の判決を不服とし、今年1月にスイスの最高司法機関である連邦裁判所に控訴。年内にも判決が下される見通しで、最高裁で内務省の主張が認められれば、スイスは植物由来の製品に動物肉の名称を使ってはいけない欧州初の国になる可能性がある。
法的な定義が曖昧
スイスの現行法では、植物由来食品の正しい表示方法は明確に定義されていない。チューリヒの法律事務所レンチ・パートナーの知的財産権弁護士、ファビオ・ヴェルソラット氏は「法律は非常に抽象的・一般的で、製品の表示について厳密な規制はない」と話す。スイスの食品法では「代替品および模倣品は、消費者が食品の種類を認識し、混同される可能性のある製品と区別できるよう特徴づけ、そのように広告すること」と定められている。
そのため、法的にはさまざまな解釈が生まれる。チューリヒの行政裁判所は、プランテッド・フーズのパッケージにある「まるで鶏肉」や「まるで豚肉」という表現が誤解を招くかについて、原料に植物由来と明記されていたことから、同社を支持する判決を下した。このような明記は食品法と同様、製品の使用に関する十分かつ明確な情報を提供する役割を果たすと判断。「エンドウ豆のたんぱく質から作った植物性食品」といった言い換えは、一般の人が肉の代替品だと理解しにくいという原告側の訴えを退けた。
また、これはプランテッド・フーズの精神にも反するという。同社の広報担当者は「こういった新製品をどのように利用し日常生活に取り入れるべきか、消費者がきちんと理解することを重視している。動物の説明はそのためのものだ」とswissinfo.chに電子メールで回答した。
一方、連邦内務省は、菜食主義者を対象とした代替肉の表示も、その他の食品全般と同様、消費者が食品の種類を識別し、他の食品と混同しないようにすべきであると主張。また国の食品法は、うその表示や誤解を招く不当な表示を規制する法律について、州裁判所とは解釈が異なるとswissinfo.chにコメントした。
ヴェルソラット氏は今回の訴訟に関し、植物性食品という新規かつ急成長中の分野において「最高裁の判決が先例となり、植物由来の代替品を製造するスイス企業に明確な指針を与えるだろう」と述べた。
スイスvs欧州
連邦最高裁が、プランテッド・フーズは製品ラベルから動物の名称を削除すべきとの判決を下せば、パッケージで肉に関連した表示の使用を認める欧州の法令に反することになる。
フランスとベルギーは、EUが2020年に指示した方針を覆し、「野菜ステーキ」「野菜チキンピース」などの名称を禁止しようとしたが、両国とも国内規制を実施するに至っていない。スイスは、最高裁の決定次第では、このような表示を禁止する欧州初の国になる可能性がある。
この問題は、依然として議論の余地がある。スイス遠隔応用科学大学(FFHS)の人間栄養分野の研究者、ディエゴ・モレッティ氏は、本当は鶏肉ではない食品をチキンと呼ぶのは完全に正しいとは言えず、「野菜チキンは、栄養面から本物のチキンと全く同等とは言い難い」と指摘する。ただ、この2つの製品が混同されるリスクは非常に低いとした。
一方、前出のヴェルソラット氏は、消費者保護の観点から、ネーミングを問題にするのは合理的だと考える。特に高齢者の中には、英語が分からず肉の代替品と気づかない人がいるかもしれない」と言う。
しかし、同氏の同僚でチューリヒの法律事務所の食品科学専門家/特許技術者のシャニン・アンデレッグ氏は、一般人でも植物性食品と動物性食品の区別はつくと確信する。今では数多くの代替品が市場に出回っているためだ。「10年前と比べ、スーパーの棚に並ぶ植物由来の商品は何百種類も増えた」とし、むしろ植物性の代替品が肉製品と競合するようになったことが論争に大きな影響を与えていると言う。「食肉業界が自社製品の名前を守ろうとする圧力は否定できない」(アンデレッグ氏)
英語からの翻訳:シュミット一恵
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