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「不安」は怖くない! 見えない不安への対処法とは

不安は生物学的に大事な感情だが、極度の不安は日常生活に支障をもたらすこともある Keystone/Munch Museum

人はいつの時代も「不安」を抱えて生きている。クモやヘビへの恐怖。閉塞空間でのパニック。原発への不安、将来の金銭面や家族の心配など不安は尽きない。しかし、仕組みを理解すれば不安とうまくつきあえることを、チューリヒ大学動物学博物館の特別展示(12月14日まで)がユーモラスに解説する。

 不安をテーマにした特別展示「Keine Panik!(Don’t Panic!)」の入り口には、きょとんとした表情の顔が来場者を楽しく迎える。中に一歩足を踏み入れると、神経回路をイメージした黒い線が全面に描かれた部屋が現れる。

最初の部屋では不安は頭の中で始まることが説明されている Olivier Zimmermann

 この部屋のパネルが説明するのは、不安はそもそも頭の中で始まるということだ。脳の一部、扁桃体はいわば不安の司令官で、これまでの情報と照らし合わせて今の状況を判断する。危険と判断すると、神経回路を通して体のいろいろな部位にアラームを鳴らし、それに応じて体がさまざまな化学反応を起こす。

 「生物学的に、不安は生き延びるために大事な感情。だが、我々の社会では否定的に捉えられている。そこで、人々に不安を正しく理解してもらおうと思った」と、主催者で神経生物学者のイザベル・クルスマンさんは企画のコンセプトを説明する。

 この展示はチューリヒ大学とジュネーブ大学が世界脳週間をきっかけに共同企画し、ジュネーブでの開催を終えて、今回、チューリヒにやってきた。

不安でおなら

 次の「不安の森」というコーナーでは、体の部位のイラストが描かれた特殊なランプが、天井からいくつもつるされて淡い光を放つ。体のどの部分が不安に反応するのかを紹介したものだ。

「不安の森」では体のどの部位が不安に反応するかが解説されている swissinfo.ch

 不安になると、体はどうなるか。腎臓の隣にある副腎からストレスホルモンのコルチゾールやアドレナリンが放出され、体は緊張状態に突入する。筋肉はこわばり、その筋肉にたくさんの血液を送り込もうと心臓はバクバクし、血圧が上がる。さらに、肺はより多くの酸素を取り込もうとするので、呼吸が荒くなる。こうして体はとっさに逃走したり、敵に攻撃したりする準備をする。

 「不安は、特に動物界では生死に関わるほど重要。人の場合、今では外敵から殺される危険性は減ったかもしれないが、大昔はヘビやクモを見たら逃げなければならなかった」と、クルスマンさん。こうした状況にあっては、不安を感じられたおかげで人類はこれまで生き延びてこられたと言っても過言ではない。

 また一方で、体は不安に対して時に不可解な反応を見せるときもある。展示の説明によると、例えば、人が強い不安を感じた場合、おならが出そうになったり、便意をもよおしたりするなど、危険な状況を回避することとは一見関係ないような現象が起こることもある。こうした現象が生物学的にどういう意味があるのかは、科学的にはまだ解明されていない。

時代によって変わる不安

 会場には、中に手を入れられるが外からは中身の見えないボックスや、先に進むほどぐらぐら床板が揺れる小さな橋、立体的に見えるコミック風のクモのホログラムなどが設置されており、来場者が楽しみながら自分の不安の感じやすさを実感できるようになっている。

外から中身が見えないボックスに手を入れて肝試し swissinfo.ch

 どんなものに不安を覚えるかは、人によってさまざまだ。「興味深いことに、新しい恐怖症は次々と出てくる」と、チューリヒ大学のミハエル・ルーファー教授(精神医学)は説明する。

 「例えば、エイズ恐怖症はエイズという病気が発見されてから出てきた。また、鉄道が発明された当時は、列車のスピードに不安を覚える鉄道恐怖症などもあった」。あまり知られていないものでは、本恐怖症、コンピューター恐怖症、人形恐怖症などもある。

 文化や国によっても恐怖症の種類は異なるが、「恐怖症や不安症の人の割合はいつも一定」(ルーファー教授)だ。スイスでは、例えば未来に対する漠然とした不安で日常生活に支障をきたしてしまう人の割合は、人口の4~6%、約28万人から42万人いる。

遺伝とストレス

 不安の感じ方には遺伝的な要因も大きく関わっており、「両親や祖父母が怖がりだと、その子供も不安を強く感じる傾向にある」と、ルーファー教授は言う。また、特定の物や事象などに強い不安を感じる恐怖症は、子供のときの経験で起きることが多い。

 さらに、遺伝的に不安になりやすいタイプで、慢性的なストレスを抱えている人は、何かのきっかけでパニック障害などの不安障害を引き起こしやすいという。

 「ストレスで大事なのは、それをどう評価するかだ。『自分ではどうにもできない』、『他人に縛られている』など、どうしようもない無力感を抱き、その状況がいつ終わるか分からないような感覚に陥ると、そうした障害が起きやすくなる」

薬は長期的な解決策にならず

 では、不安はどうすれば克服できるだろうか。展示では、認知療法や薬の服用などさまざまな方法を紹介している。「例えばヘビに極端な不安を覚える人は、自分がそばにいてもヘビは襲ってこないなど良い経験を積んでいく方法がある」(クルスマンさん)

 ルーファー教授は、自分から積極的に助けを求めていかない限り、不安は克服できないと強調する。「不安感が自然と消えるのを待つ人は多いが、それはあまり現実的ではない」。例えば、専門家が指導する自助グループに一度参加するだけでも効果はあるという。

 「まずは薬を使わない方法を試すべきだ。不安の原因に落ち着いて向き合い、情報を得るなどして理解を深めれば、不安はおのずと消えていくことが多い。こうして不安に向き合えれば、うつになったり、パートナーとけんかしたり、仕事で問題があったりした場合でも、対処できるようになる。薬を使っても、何も新しいことは学べないので、長期的な解決策にはならない」

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