北京の大気汚染対策、スイスが一役買う
北京は今年1月、過去最悪のスモッグに覆われた。市民の危機感は募る一方だが、政府が対策に本腰を入れるのかはまだ未定。そうした中、スイスは官民を挙げて問題解決に力を貸している。政府は中国に環境汚染の法改正を提案し、民間はクリーンテックのビジネスを展開する。
「政府は大気汚染対策を十分に行っていない。北京の空は工場の黒い煙で覆われ、車の排気ガスがよどんでいる」とマーさんは嘆く。わずかにのぞいた青空に、孫娘と散歩に出てきた男性の退職者だ。もう1人の女性の退職者リーさんは「私は肺がんをわずらっている。息をするのもやっとだ。風が吹かないときは、一歩もアパートから出られない」とため息をつく。
北京は今年1月、歴史始まって以来の最悪の大気汚染を記録した。25日間もスモッグが都市を覆い、微小粒子状物質「PM2・5」が1立方メートルあたり1000マイクログラムを記録したこともある。一方、世界保健機関(WHO)は、健康の基準として20マイクログラムを超えないように勧告しており、基準の50倍の汚染になる。
昨年まではマーさんもリーさんも大気汚染を甘く見ていた。しかし、今年のひどさに、すっかり考えが変わった。政府とメディアが実情を明らかにしたせいもある。ただ、政府の情報公開は今年が初めてだった。
大気汚染のピーク時に呼吸器系疾患で入院する人の数が、北京で急増している。
特に大病院の小児救急科に駆け込む人の半数が、呼吸器系疾患といわれる。
「中国日報」に掲載された2011年の記事によれば、過去10年で肺がんにかかる人の数が6割増加。一方、喫煙者の数は一定している。
北京の大気汚染の原因は、工場や暖房に使用される石炭と、毎年増加する車の排気ガスによる。(AFP通信)
スイスの空気洗浄機
中国政府は、「2030年に北京は大気汚染から解放される」と表明した。「2030年では遅すぎる!」と批判するのは、グリーンピース・北京のツー・ロンさんだ。そもそも世界の石炭消費の半分が中国でなのだと指摘する。
そこで注目を集めているのが、スイスのクリーンテック(環境ビジネス)のアイキューエアー(IQAir)社だ。ザンクト・ガレン州に本社を置く、業務用の空気洗浄機を生産する同社の名前が中国のインターネット上でひときわ目立ってきた。
デザインはもう一つなのだが、性能はそれを超えるほど優れているとあって、同社の空気洗浄機は北京で飛ぶように売れている。「1月の大気汚染のピークから、売上は約3倍伸びた」と同社の販売担当者。今、買い手はリスト待ち状態だという。
北京を脱出
ほかにも多くのクリーンテックのビジネスが、中国で展開している。それには2010年に設けられた、「スイス貿易振興会(Osec)」が一役買っているからだ。
最近成功したプロジェクトは、「スイス・中国のツェンジアン・エコパーク」。環境に配慮した産業パークで、その事務所となる6万平方メートルの建物は、スイスの企業ケラー・テクノロジー(Keller Technologies)によって建設された。
スイスのクリーンテックの組合で上記の企業などを包括するクリーンテック・スイス(Cleantec Switzerland)の、マルコ・リナー中国支局長は、「もちろん、中国にとって経済成長のプライオリティーは高い。しかし、国民は北京の大気汚染をもうこれ以上許せない。限界にきている。もし、政府が真面目に問題に取り組まないとしたら、北京から避難できる人は皆脱出する。それは確かだ」と話す。
政府はどう動くか?
一方、スイス政府の連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)は、約700万フラン(約7億円)を投じて中国の気候変動問題を支援しようとしている。これは従来のスイスの中国支援金の7割を占めている。
この資金は、大気汚染改善に向けた中国の法改正のために使われる予定で、同開発協力局のィリップ・ツァーナー中国部長は「今年、または遅くとも来年には、具体的な対策が行われ、結果が出る」と約束する。
しかし、経済成長にブレーキをかけてまで、本当に中国政府は環境問題に取り組むのだろうか?「取り組む。今回政府は初めて環境問題を公表した。それは、真剣に取り組もうとしている証拠だ」と、ツァーナー部長は続ける。
「いや、確かではない」と言うのは、清華大学で環境問題を専門にする社会学者のリ・ドゥンさんだ。政府にとっては環境問題よりもっと大切なものがあるからだ。そして、こう主張する。「口では色々なことを言うが、実行に移すのはわずかなことだけだ。この国では言論の自由が認められない限り、(しかし憲法の35条にはきちんと保障されているのだが)、市民は環境問題に関し政府に十分な圧力をかけられない」
(仏語からの翻訳・編集 里信邦子)
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