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国連サミットCOP15開幕 生物種の大量絶滅は食い止められるのか

蜜を吸うハチドリ
エクアドルのチョコ・アンディーノ・デ・ピチンチャ保護区でのハチドリ。同国は世界有数の鳥類多様性を誇る Keystone / Jose Jacome

生物多様性の喪失が地球の隅々にまで影響を及ぼし、もはや無視することができない規模にまで拡大している。カナダのモントリオールでは、今日から19日まで国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催される。スイスは高い目標設定と先進国による資金拠出の拡大を求める方針だが、農業補助金など自国内にも多くの問題を抱える。

「エジンバラ在住ですが、田舎で育ちました。子供の頃は色々な野花をスケッチするのが好きでした。家の周りにはどこかに草原があったものですが、今はどれも残っていません」

「インドネシアのロンボク島の海岸近くに住んでいます。毎日海で泳ぎますが、魚はほとんど見かけません」

「かつてルガーノのブレ山では、夕方になるとよくホタルを見かけたものです」

swissinfo.chの読者による投稿を見ても分かるように、地球上の動植物の豊かなバラエティを意味する「生物多様性」は世界中で減少している。

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10言語で意見交換
担当: Zeno Zoccatelli

あなたの住んでいるところで見かけなくなった動物や植物は何ですか?それらのために何ができるのでしょうか?

動物や植物の消滅を防ぐために、あなた自身は何をしていますか?

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これらの証言は、氷山の一角に過ぎない。既にその内容を実証する研究も無数に報告されている。

世界自然保護基金(WWF)の「生きている地球レポート2022外部リンク」では、1970~2018年の間に、脊椎動物の個体数が平均69%減少したと指摘されている。

一方、生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が発表した2019年の最新報告書外部リンクは、動植物の25%が絶滅の危機にさらされていると結論づけた。つまり、約100万種は既に絶滅寸前だということだ。

これは深刻な状況だ。一部の科学者らは、地球史上、第6の絶滅期が迫っていると警告する。

この喪失に歯止めをかけるべく、カナダのモントリオールでは今日から生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催される。2030年までに生物多様性の減少を食い止め、2050年までに回復させるという歴史的な合意を目指す(囲み記事参照)。

同協定案は、2050年までに「自然と調和した生活」を実現すべく、2030年までに達成する21の目標で構成される。主な目標は以下の通り。

  • 陸地と海域、特に生物多様性にとって特に重要な地域の少なくとも30%が、効果的かつ衡平に管理され、かつ生態学的に代表的で、適切に連結された保護地域システムを通じて保全されることを確実にすること。
  • 侵略的外来種の導入・定着率を50%防止・低減し、その影響を排除あるいは低減するための管理・根絶を行う。
  • 環境に流出する養分(余剰な肥料)を半分以上、農薬を3分の2以上削減し、プラスチック廃棄物の環境への排出をゼロにする。
  • 生態系に基づくアプローチを用いて気候変動の緩和と適応に貢献し、緩和には炭素換算で年間10ギガトン以上貢献する。緩和と適応の取り組みは全て、生物多様性への負の影響を確実に回避する。
  • 生物多様性に害を与える補助金およびその他のインセンティブは、転用、転換、改変、あるいは排除する。最低でも年間5千億ドル(約68兆円)の削減が必要。
  • あらゆる財源からの資金を、新規、追加、効果的な資金を含め、少なくとも年間2千億ドルに増やす。途上国への国際的な資金フローを少なくとも年間100億ドル増やす。

出典:Convention on Biological Diversity 外部リンク

COP15開催の経緯

生物多様性条約は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で気候変動枠組条約(UNFCCC)と共に署名が開始された。現在、スイスを含む190カ国以上が批准している。

UNFCCCの締約国会議では「パリ協定」が、生物多様性条約では「愛知目標」がそれぞれ生まれた。後者は2010年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催地にちなんで命名された。

だがこれまでのところ、その成果は期待外れに終わっている。生物多様性と生態系の研究推進を目的とするバイオディスカバリー外部リンクのディレクターを務めるチューリヒ大学の科学者、コルネリア・クルーク氏は、「生物多様性の重要性に対する人々の意識は高まり、保護区の割合も増えているが、2020年に設定した20の目標の達成はどれも不十分だ」と嘆く。同氏はCOP15にオブザーバーとして参加する。

気候変動は要因の1つにすぎない

人間の活動が自然に与える悪影響というと、まず気候変動や二酸化炭素(CO2)排出量を思い浮かべる。だが、地球温暖化は生物多様性に悪影響を及ぼす一要因にすぎない。その影響は強まっているが、決して主要な要因ではない。

クルーク氏は、「土地利用の変化、例えば農業は絶滅を加速する主な原因の1つだ」とし、「もう1つは環境汚染。海洋のプラスチック問題に加え、農薬や肥料の使い過ぎも主な要因だ」と説明する。

クルーク氏らバイオディスカバリーは、地球温暖化と生物多様性の喪失という2つの問題は、並行して同時に取り組むべきだとみている。これは温室効果ガスの排出を抑制するための取り組みが、野生生物の多様性を犠牲にしないためにも重要だ。例えば、バイオエネルギー生産に向けて大規模な森林再生を行う場合、ポプラの単一な植林では不適切だ。これではCO2を効果的に抑制できても生物多様性を欠く。またIPBESが警告するように、自給自足農業の土地がこういった単一樹種による植林に置き換えられると、地域社会の食糧安全保障も危険にさらされる。

カクレクマノミ
急ピッチで進む気候変動は、そのスピードに適応できない多くの生物種に脅威を与える。カクレクマノミもその一種だ Nature Picture Library / Franco Banfi

合意の障害は?

COP15開催を巡る経緯は波乱に満ちていた。当初は2020年10月に中国の昆明で開催される予定だったが、数回に及ぶ延期の末、開催地がカナダに変更された。

中国は議長国に据え置かれたが、この会議をあまり重視していないと見える。事実、中国は各国の国家元首は招待しておらず、閣僚とNGOのみにとどまる。近平国家主席も自らは出席しない模様だ。習氏は先ごろエジプトのシャルムエルシェイクで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)にも出席していない。

また、ウクライナにおける戦争の影響で、エネルギー危機や食糧問題が各国の優先順位の上位を占めつつあり、中国の消極性を助長している。

協定案を巡り各国が対立するのは必至だ。そこへこういった外的要因が加わっている。

合意の障害となりうる主な項目として、クルーク氏は以下の3点を挙げる。全て資金と関わる問題だ。第一に、合意を実行に移すための財源をどこから捻出するかというシンプルな疑問だ。既にCOP27でも、経済先進国の消極的な姿勢が浮き彫りになっている。

第二に、利益の衡平な配分を巡る問題だ。つまり、ある国の生物資源から得られる利益が、その天然資源を搾取する多国籍企業ではなく、資源を所有する国にも平等に還元されるよう保証することだ。

最後に、公的補助金の問題がある。スイスの法的補助金の中にも、生物多様性に害を及ぼす農業その他の活動が含まれている。協定案にはこういった補助金の削除も盛り込まれているが、政治的な風当たりはかなり強くなることが予想される。

こうした難題にもかかわらず、希望の光は差しているとクルーク氏は言う。気候変動を巡る目標達成には、自然の保護と回復が不可欠だ。これはCOP27でも明らかになった。COP27ではまた、気候変動の悪影響による損失と損害に対して脆弱(ぜいじゃく)な途上国を支援する基金を設立することで合意した。生物多様性は一般に途上国の方が豊かであるため、この合意は多様性保護に向けた重要な一歩と言える。

COP15におけるスイスの優先課題とは?

2030年までに地球の陸地・海洋の少なくとも30%を保護することを目指す「自然と人々のための高い野心連合外部リンク」のメンバーであるスイスの目標は高い。

スイス自然科学アカデミー(SCNAT)外部リンクの科学担当官でスイス代表団の一員であるエヴァ・シュペーン氏は、「スイスはCOP15で、期限付きの高い目標や、進展を測ることを可能にする指標導入への合意を求めて戦うことになる」と説明する。「支援できる立場にある国は、より多く効果的な資金を提供すべきだ。また民間資金も目標に見合うように拠出するべきだ」と話す。

スイスの生物多様性を巡る取り組みは?

だがその野心的な目標とは裏腹に、スイスの生物多様性保全の実績は決して優れているとは言えない。

スイスは1979年、自然環境保全政策の促進を目的として欧州評議会が策定した国際条約(通称ベルン条約)に署名。最初に署名した国の1つだった。最近、スイスが保護区に関して無策であることが問題視され、この分野におけるスイスの取り組みが欧州で最下位であることが明らかになった。

連邦環境庁とInfospecies外部リンクが来年発表予定の絶滅危惧種のレッドリスト外部リンクの概要によれば、スイスには植物、動物、菌類など約5万6千種が存在する。専門家はさらに2万9千種が生息すると見積もる。SCNATが発行する雑誌「Hotspot外部リンク」の2022年版には、その調査結果の概要が掲載されている。スイスでは観測された種の約35%(1万844種)が絶滅の危機に瀕しているとシュペーン氏は強調する。

同氏はswissinfo.chに対し、生物多様性の損失を防ぐための取り組みは行われているようだが、減少傾向を逆転させるには今以上の行動が求められると書面で回答。そのためには、生物多様性の損失を引き起こす要因が与える脅威を軽減しなければならないと指摘する。農業や建築、インフラの開発、生息地の分断などがこれに当たる。1985~2009年の間に、スイス国土の15%が変化したと同氏は強調する。

また前述の政府補助金の問題も忘れてはならない。2020年にSCNATとスイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)は、農業、エネルギー、運輸、観光などの分野で生物多様性に有害な補助金を162件外部リンク特定した。これら補助金の総額は400億フラン(約5兆8112億円)に達し、生物多様性促進への施策に充てられる金額の30~40倍に相当する。

編集:Veronica DeVore英語からの翻訳:シュミット一恵

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