新興ネット銀行、在外スイス人の救世主になるか?
祖国を離れて暮らすスイス人にとって、非居住者に課される高額の銀行手数料は頭痛の種だ。だが最近ではネット銀行が出現し、在外スイス人待望の代替手段を提供するようになった。
「クレディ・スイスの銀行口座を解約した。年間500フラン(約6万2千円)も手数料を取られるなんておかしい」「国外に住むスイス人というだけで、毎月40フランも手数料を払っている。ありがとう。でももうたくさんだ!」。
swissinfo.chに寄せられた銀行手数料に関するコメントは、辛らつだ。それには理由がある。口座を強制的に閉鎖させられたり、高い口座維持手数料を取られたり、海外に住むスイス人はこれまで、既存の伝統的な銀行から冷遇されていると感じてきた。
だがそのような中、新たな金融機関が登場し、過去の成功にあぐらをかいていたスイスの銀行市場を一新しようしている。「ネオバンク」と呼ばれるこうした銀行は、奇跡をもたらすものではないが、在外スイス人の金融ニーズを満たすことができるかもしれない。
ネオバンクとは?
ネオバンクとは、新世代のデジタル銀行のことだ。多くの場合100%デジタル化されていて、各銀行専用のスマートフォンアプリからアクセスできる。
完全なデジタルか伝統的なビジネスモデルかに関わらず、スイスの銀行は全てスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)の定める法的要件を満たす必要がある。FINMAのヴィンツェンツ・マティス広報担当者は、「したがってネオバンクも十分な資本と流動性を持ち、リスクを管理できるように組織化され、完璧な経営を保証しなければならない」と話す。また、顧客の預金を1人当たり10万フランまで保証する義務がある。
だが、オンラインバンクとネオバンクの間には、用語上は大きな違いがあることにも留意すべきだ。オンラインバンクは通常、既存の伝統的な銀行が提供するサービスで、銀行業務の大半がネット上で可能だ。一方ネオバンクは、FINMAから銀行またはフィンテック銀行業(テクノロジーを組み込んだ金融サービス業)の認可を取得し、基本的な銀行サービスを提供する金融企業だ。
ネオバンクの手数料が格安なのもそのためだ。スイス銀行協会は、「ネオバンクの多くは、透明性のある平均して安い手数料が特徴だ。だがそのほとんどは決済や基本的な残高照会など、ごく一部の限られたサービスしか提供していない」と話す。クレジットや住宅ローンを提供しない機関もある。また、実際に支店がなく、アドバイザーも存在せず、チャットボット(アルゴリズムで動くチャットウィンドウ・問い合わせ窓口)のみで対応している機関もある。
メリットとデメリット
また、ネオバンクは本質的にバーチャルな存在だ。取引は全てスマートフォンアプリで行われるため、新テクノロジーに苦手意識のある人にはハードルが高い。完全にデジタル構造であるため、ハッキングやバグでアプリが使用できなくなる可能性もある。
既存銀行の場合と同じように、法律や司法上の理由からサービスの対象外になっている国もある。外国で銀行業務を行うには、当該国で有効な銀行免許を取得して現地の規制を遵守する必要がある。そこにはリスクが生じ、銀行には追加作業が発生する。特に、世界で3番目に在外スイス人が多く住む米国はそうだ。
また、ユーロ圏内の数カ国に限定してサービスを提供しているネオバンクも多い。
それでも多くの利点はある。最も分かりやすいのは口座を開設するのに本人が直接スイスの窓口に行く必要がないことだ。迅速な支払いや送金、格安の口座維持手数料、有利な為替レート、複数通貨に対応した口座など、ネオバンクは在外スイス人にとって魅力的な点は多い。
在外スイス人に最適なネオバンクは?
スイスのオンラインバンクには、クレディ・スイスの「CSX」やクレール銀行の「Zak」、ヒポティカーバンク・レンツブルクと連携した「neon」などがある。だが、口座開設はスイス在住者に限られているため、基本的に在外スイス人は対象外だ。
それでもスイスの親戚宅に住所を指定し、家族に委任状を託すことで問題を乗り越えている在外スイス人もいる。
スイス市場には、非居住者でも利用できる外国のネオバンクがいくつかある。有名なのはドイツの「n26」や、英国の「ワイズ(Wise)」(旧Transferwise)、「レボリュート(Revolut)」などだ。
だがFINMA は、「外国のネオバンクを利用する際、スイスの顧客はその機関がFINMAの監督下にないことに注意すべきだ」と警告する。マティス氏は「つまり訴訟になった場合、口座所有者はその銀行の本社がある国で係争する必要があるということだ」と説明する。
スイスのネオバンクでは、「デューカスコピー(Dukascopy)」「フローバンク(FlowBank)」「スイスクオート(Swissquote)」「ヤピール(Yapeal)」「ユー(Yuh)」などが在外スイス人に合っているかもしれない。
デューカスコピー(本社・ジュネーブ州メイラン)は、FINMAの登録上は証券取引、資産管理、アセットマネジメントに特化している。スイス非居住者にもマルチカレンシー口座を提供する。
FINMAから外資系銀行に分類されているフローバンクは、ウェブサイトによれば「トレーディング・プラットフォーム」で、普通預金口座も利用できる。
スイスクオート(本社・ヴォー州グラン)もデューカスコピーと同カテゴリーに入る。「コアビジネスはトレーディング関連」とする一方で、その他の銀行サービスも提供する。
ヤピール(本社・チューリヒ)はスイス企業で初めてフィンテック銀行認可を取得した。主に在外スイス人や越境労働者をターゲットにする。
ユーはスイス郵便グループの子会社ポストファイナンスとオンライン取引銀行のスイスクオートの提携で誕生。同行のウェブサイトには「スイスクオート銀行の銀行免許の下で運営されているため、FINMAの監督下にある」と明記されている。
【各社のサービス概要】
デューカスコピー (Dukascopy) | フローバンク(FlowBank) | スイスクオート(Swissquote) | ヤピール(Yapeal) | ユー(Yuh) | |
FINMAの銀行免許またはフィンテック認可 | √ | √ | √ | √ | √ |
無料普通預金口座(開設費・維持費なし) | √ | √ | √ | √ | √ |
デビットカード | √ | 2022年中に開始 | √ | √ | √ |
クレジットカード | √ | X | √ | X | X |
その他の銀行サービス(貯蓄預金、融資、住宅ローンなど) | √ | X | √ | X | √ |
サービス対象国 | 米国とイランを除く全ての国 | 米国、カナダ、イスラエル、イラン、北朝鮮、ベルギー、その他の制裁対象国を除く全ての国 | 制限国を除く全ての国 | ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、リヒテンシュタイン(2022年に他国へ拡大予定) | ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、リヒテンシュタイン |
どう選ぶ?
在外スイス人の自助組織「ソリスイス(Soliswiss)」のニコール・テッパーヴィーン会長は、「良い解決策を見つけるには、自分のニーズを正確に把握する必要がある」と話す。「クレジットカードは必要か?決済に使うのか、それとも貯蓄や投資がしたいのか?住宅ローンや老齢・遺族年金(AHV/AVS)はどうするか?といったことを自問するべき。国やニーズによって、様々な選択肢が出てくる」という。
ソリスイスはまた、海外移住を計画している人には、できるだけ早く各銀行に問い合わせることを勧めている。とはいえ、「満足いく解決策が見つからない場合もある」とテッパーヴィーン氏は言う。そうなると残念ながら、自分自身で最適な設定を考えるしかないだろう。
(仏語からの翻訳・由比かおり)
JTI基準に準拠
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