スイスの視点を10言語で

氷河が語る歴史 ススで仮説覆す調査結果

工場から上がる煙
スイスの氷河に含まれる古いススの残留物を1740年までさかのぼって分析することに成功した Keystone

スイスの研究所が最新の調査結果を発表し、アルプス氷河の融解は19世紀半ばの産業化と同時に始まったという既存の仮説を覆す結果が出た。

スイス公共放送(SRF)によると、多くの専門家はこれまで、氷河の後退は1860年頃、工業化で乱立する工場から出るススや煙が増えたことから始まったという仮説を提唱してきた。

ところが、スイス最大の自然科学・工学研究センター、ポール・シェラー研究所(PSI)が氷河のより深部にあるススを分析した結果、この仮説が間違っている可能性があることを発見した。

調査した氷河の中でも、ベルン州とヴァレー州(ヴァリス州)の間に位置するフィッシャーホルン氷河は、氷中に閉じ込められたススの粒子を1740年までさかのぼって調べることに成功した。こういった残留物はその当時、大気中に何が含まれていたかを示す真の「歴史書」だと研究者ミヒャエル・ジクルさんは言う。

面白いことに、1850年~75年に起こった氷河の融解は、産業によるばい煙のせいではない可能性が高いことが判明した。ススの大気中濃度はその後になって初めて中央ヨーロッパの自然レベルを超えたからだ。

従って、アルプスの氷河の体積がピークに達した「小氷河時代」(1300~1870年頃)と呼ばれる寒冷な期間は、人間の影響というより、むしろ自然の気候変動の結果として終了した可能性が高いと研究者らは見ている。

ジグルさんは「既に1875年の時点で氷河の8割は後退していた」とフランス語圏の日曜紙ル・マタン・ディマンシュでのインタビューで明らかにしている。

温暖化への関与は否定せず

しかしジグルさんは、この研究は人間が地球温暖化に関与していることを否定するものではないと強調。むしろ、人間の活動がいつから気候に影響を与え始めたのか知ることが重要だとした。その問いには、未だに答えが見つかっていない。

ジュネーブを拠点とするマーティン・ベンストン教授(気候学)もこれに同意し、「時間的なギャップはあまり重要ではない」とした上で、「人間の営みにより、温室効果ガスの排出が着実に増えている。これは基礎物理学」だと話す。

この報告書が出された週の16日、スイス科学アカデミーも最新調査の結果を発表。それによると、猛暑だった2018年は氷河の観測が始まって以来の壊滅的な年となり、今年だけでも氷河の量が2.5%も減少した。

おすすめの記事


人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

ジョン・レノンとオノ・ヨーコさん

おすすめの記事

ジョン・レノンの盗まれた腕時計、所有権はオノさん スイス最高裁が認定

このコンテンツが公開されたのは、 ビートルズのジョン・レノンさんが殺害される2カ月前にオノ・ヨーコさんから贈られ、その後盗まれた腕時計について、スイスの連邦最高裁判所はオノさんに時計の完全な所有権があるとの判決を出した。

もっと読む ジョン・レノンの盗まれた腕時計、所有権はオノさん スイス最高裁が認定
スイス証券取引所を運営するSIX本社

おすすめの記事

スイス証取、英プロバイダーを買収 MTF参入へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス証券取引所を運営するSIXグループは11日、英国の証券取引サービスプロバイダー、アクイス・エクスチェンジを買収すると発表した。今後、多角的取引システム(MTF)に参入する方針だ。

もっと読む スイス証取、英プロバイダーを買収 MTF参入へ
野菜

おすすめの記事

2022年の可処分所得は約95万円 スイス統計局

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦統計局は12日、2022年の1世帯平均の可処分所得はひと月6902フラン(当時レートで約95万円)だったと発表した。前年からほぼ横ばいだった。

もっと読む 2022年の可処分所得は約95万円 スイス統計局
研究所の外観

おすすめの記事

CERNとロシアの研究協力協定、11月末に期限迎える

このコンテンツが公開されたのは、 今月30日、ロシアの研究機関とジュネーブに拠点を置く欧州原子核研究機構(CERN)との協力協定が終了する。研究者はCERNのプロジェクトに影響を及ぼすと警告している。

もっと読む CERNとロシアの研究協力協定、11月末に期限迎える
クラスの風景

おすすめの記事

女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・バーゼル大と英ダラム大が1989年から2002年の間にスウェーデンで初等教育を修了した75万人以上の生徒のデータを用いて行った調査で、女子生徒の方が多いクラスを出た女性はより多くの収入を得る傾向があることが分かった。

もっと読む 女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査
雪山で写真を撮る観光客

おすすめの記事

11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ

このコンテンツが公開されたのは、 スイスアルプスで、季節外れの暖かさが続いている。スイスで最も標高の高い地点にあるユングフラウヨッホでは観測史上最高を記録した。

もっと読む 11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ
巨大な豆腐を切る人

おすすめの記事

スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで肉食をやめる人が増えている。植物性食品を推進するスイスベジ協会(Swissveg)は30日、スイスのベジタリアンやビーガンの数は過去5年間で約40%増加したと発表した。

もっと読む スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く
草原のツルの群れ

おすすめの記事

スイスを縦断するツルが過去最多

このコンテンツが公開されたのは、 スイス鳥類研究所によると、スイスでは今季、はやくも過去最多のツルが観察されている。なかには約800羽の大規模な群れもみられた。

もっと読む スイスを縦断するツルが過去最多
手

おすすめの記事

「金銭目的」で自殺ほう助 スイスの裁判所が元看護師に有罪判決

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部ティチーノ州ルガーノの州刑事裁判所は23日、利己的な動機で他人の自殺を手助けしたとして、自殺教唆・ほう助の罪に問われた同州の元看護師の女(67)に条件付き罰金刑を言い渡した。

もっと読む 「金銭目的」で自殺ほう助 スイスの裁判所が元看護師に有罪判決

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部