熱波に見舞われるスイス 「ゼロ度線」上昇で氷河に黄信号
猛烈な熱波が欧州を襲い、スイスも8月中旬から最高気温の記録更新が相次ぐ。国内に1400カ所ある氷河の融解が早まるとの懸念が強まっている。
アルプスを擁するスイスは理想的な避暑地とみなされてきた。だが今年は、夏終盤に欧州全域に発達した異例の高気圧がアルプスを覆い、欧州南西部・北アフリカから来る暖かい空気と相まって、上空の高気圧が熱い空気を閉じ込める「ヒートドーム」を形成。記録を塗り替える水準に気温を押し上げている。
8月後半に入って過去最高気温の更新が相次ぐ。山の上の気温も例外ではない。
スイス気象台(メテオ・スイス)は21日、気温が氷点下になる高度「ゼロ度線」が標高5298メートルに上昇し、昨年7月に樹立された最高記録5184メートルを更新したと発表外部リンクした。
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各季節で上昇
メテオ・スイス外部リンクによると、ゼロ度線は1864年から観測されている。「植生や積雪線、水循環に影響を及ぼし、人間、動物、植物などの生息環境にも重大な影響を与える」ため、特に山岳地帯で重視される気象指標だ。
1970年以降、気候変動によりゼロ度線の高度は「どの季節も大幅に上昇」した。各季節の最高記録はいずれも過去10年に樹立。特に春と夏は10年で100メートル超上がった場所もある。
氷河学者の懸念
スイスの氷河学者らは、ゼロ度線の新記録は凶兆とみる。スイスの氷河モニタリングネットワーク(GLAMOS)のマティアス・フース代表はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)で、これは「レジームチェンジ(体制転換)」であり、「氷河への追い討ち」になると指摘する。
フース氏は「この暑さで氷河の解けるスピードが加速しているのは明らかだ。今年は例年より悪化していた。6~7月にはすでに大量の氷河が解けていたが、足元の暑さは拍車をかけている」と語った。
昨年は冬の積雪が少なく、3月にサハラ砂漠の砂塵が飛来し、5月から9月初旬にかけて熱波が襲ったことで、アルプスの氷河の解けるスピードは最速記録を更新した。スイスの氷河が2021年から2022年にかけて失った氷の体積は全体の約6%。2001年以降の累積では全体の3分の1を失った。
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連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の氷河学者、ダニエル・ファリノッティ氏はAP通信に「ゼロ度線が5千メートルを大きく超えたことで、アルプスの氷河は最高地点に至るまで融解する気温にさらされている」と語った。「このような状況が長期的に続けば、氷河は不可逆的に失われることになるだろう」
フース氏も悲観的な長期シナリオを描く。「50年後に氷河が消失する―これはかなりありうるシナリオだが、特に今夏のような暑い時期には、水の量は大幅に減る。それは低地での水供給や灌漑だけでなく、生態系や水力発電にとっても問題となる」
ユングフラウヨッホも「まるで谷」
スイスでは7月中は涼しく雨の多い日が続いたが、8月中旬から猛烈な暑さと熱帯夜が続いている。20日午後には全国の多くの地域で気温が33~35度に上昇した。
メテオニュースのフレデリック・グラッシー気象部長は21日、RTSの番組で「8月最後の10日間にこのような猛暑が発生するのは、スイスにとって全く前例のないことだ」と語った。
ユングフラウヨッホ山頂に程近いスイス最高峰の山小屋「メンヒスヨッホヒュッテ」の管理人ヤン・ルーレット氏は、ドイツ語圏の日刊紙ターゲスアンツァイガーで「この夏はここでも暑い日があったが、20日以降の暑さは異常だ。標高3657メートルではなく、谷にいるような気分になる。私たちは皆Tシャツを着て歩き回っている」と語った。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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