科学分野で女性のキャリアには「水漏れパイプ」現象が起きている
© Keystone / Ennio Leanza
スイス国内の科学研究分野で活躍する女性研究者の数は国際的にも少ないことが国の統計で分かった。
このコンテンツが公開されたのは、
2019/03/13 06:00
連邦統計局が8日、国際女性デー外部リンク にちなみ発表した。統計では、スイスは多くの研究分野で欧州平均を下回った。統計のデータは、欧州圏内の科学研究分野における男女格差をまとめた欧州委員会の2018年報告書外部リンク を基にした。
科学を学ぶ女性はこれまで以上に増加し、2016年に大学に入学した学生の51%が女性だった。学士、修士課程を修了した学生のうち54%が女性だった。
「水漏れパイプ」
しかしその後、女性たちは研究職のキャリアから徐々に「脱落」していく(「水漏れパイプ」現象と呼ばれる)。職の地位が高くなるほど、女性の数は減るという。
>>スイスの深刻な「水漏れパイプ現象」とは
これは博士課程の後の段階で顕著になる。
女性の博士号取得が非常に少ない分野もあった。IT・通信技術(2016年は15%)、エンジニアリング(27%)などがそれにあたる。一方、農業・獣医学(76%)と教育(61%)は女性が多数を占めた。しかし、女性が多数を占めるこれらの分野でも、管理職の女性は圧倒的に少ない(農業・獣医学で29%)。
女性研究者の数も所属先でばらつきがあった。大学などの高等教育機関は39%、連邦政府は36%、民間企業は23%だった。
リーダーは男性
学術界のマネジメント職の大部分がいまだに男性だ。 2017年時点で、学術会議のメンバーに占める女性の割合はわずか27%。大学の学長では30%にとどまった。
統計局は声明で、こうした状況はこの数年で改善が見られたもののわずかだったと指摘。2009年以降、博士号を取得し、研究職のキャリアをスタートさせた女性は2%増。同局は「この分野の男女平等が実現するにはまだしばらく時間がかかる」とした。
なぜ?
バーゼル大学のスーザン・ガッサー教授は、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)に対し、女性が研究職から遠のく理由はいくつかあると語った。
一つは女性が教授職に立候補するには多大な自信を要すること、もう一つは家族・子供を持つ時期とちょうど重なるために、女性が管理職に挑戦するのを思いとどまってしまうことが理由にあるという。さらにもう一つは、共働き夫婦の場合、夫のキャリアが必ず優先されるためだと説明した。
同教授は、必要なのはメンター制度とロールモデルとなる女性教授の存在だと強調した。
世界でもトップクラスの高等教育機関である連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は8日、9人の新任教授を発表。女性はそのうち4人だった。
問題発言
ジュネーブ近郊にある欧州原子力研究機構(CERN)外部リンク は7日、講義中に女性は男性よりも物理の才能がないと述べたイタリア人研究者との関係を切ると発表した。
ピサ大学のアレサンドロ・ストルミア氏はCERNの客員講師だった。問題となったのは、昨年9月の高エネルギー理論とジェンダーに関する講義での発言だ。
CERNは当初、ストルミア氏を停職にしていたが、今回正式に客員講師の任を解くことに決めた。ストルミア氏はBBCの番組で発言を撤回しない方針を示していた。
おすすめの記事
スイス、PFASの規制強化を検討
このコンテンツが公開されたのは、
2025/02/19
スイス連邦政府は「永遠の化学物質」の異名を持つ有機フッ素化合物(PFAS)の規制強化に着手した。飲み水の上限値は来年から引き下げられる。
もっと読む スイス、PFASの規制強化を検討
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール 韓国高校生男子が優勝、安海さんが3位
このコンテンツが公開されたのは、
2025/02/09
ローザンヌ国際バレエコンクールの最終選考が8日に行われ、韓国のパク・ユンジェさんが優勝。群馬出身の安海真之介さんが3位で入賞した。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール 韓国高校生男子が優勝、安海さんが3位
おすすめの記事
スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
このコンテンツが公開されたのは、
2025/02/05
世界有数の試験・検査・認証機関であるスイスのSGSは、本社をジュネーブ州からツーク州に移転する。大手多国籍企業の移転は、ジュネーブ州の税収にも影響を及ぼしそうだ。
もっと読む スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
このコンテンツが公開されたのは、
2025/02/04
スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
おすすめの記事
スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/30
スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。
もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
おすすめの記事
スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/30
スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。
もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
おすすめの記事
スイスに感染症情報解析センター発足
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/23
感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。
もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
おすすめの記事
ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/15
スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。
もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
おすすめの記事
スイスでX離れ進む
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/14
スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。
もっと読む スイスでX離れ進む
おすすめの記事
スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/10
スイスの研究者たちが、キノコで発電する電池を開発した。農業や環境研究に使われるセンサーに電力を供給できるという。
もっと読む スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
続きを読む
次
前
おすすめの記事
研究も子育ても バーゼルで両立に挑む日本人女性
このコンテンツが公開されたのは、
2017/10/23
化学・医薬分野で世界の先端を行くスイスでは、約7万人が研究者として働く。その3割超は女性研究者で世界のトップ研究者が集まるスイスに活躍の場を求める日本の「リケジョ」も少なくない。女性研究者にとって最大の「壁」とされる育児との両立にも果敢に挑む。
もっと読む 研究も子育ても バーゼルで両立に挑む日本人女性
おすすめの記事
イケアCEOが語る スイス流・ジェンダーギャップの縮め方
このコンテンツが公開されたのは、
2019/01/23
スイス・ダボスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会。ジェンダー(男女共同参画)が重要テーマの一つだが、参加者は圧倒的に男性が多い。女性参加者の一人、イケア・スイス支社のシモナ・スカーパレジャ最高経営責任者(CEO)が、男女比を同率に引き上げるまでの秘訣を語った。
もっと読む イケアCEOが語る スイス流・ジェンダーギャップの縮め方
おすすめの記事
女性が男性より左派政党を好むのはどうしてなのか
このコンテンツが公開されたのは、
2018/07/23
今年5月初め、男女別の投票行動に関する大規模な調査結果が各国メディアをにぎわせた。調査によると、女性は男性に比べ、より左派に票を投じる傾向が見られた。特にスウェーデン、ノルウェー、オランダで以前から見られる傾向だが、スイスでも2015年末の総選挙で似たような現象が起きた。
もっと読む 女性が男性より左派政党を好むのはどうしてなのか
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。