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皮膚移植の進歩 やけど患者に希望

毎年約400人の子どもが皮膚移植手術を受けている Valérie Jaquet

人間の皮膚に限りなく近い代用皮膚を開発し、見た目にも美しい皮膚移植の実現に、スイスの科学者と医師が取り組んでいる。

チューリヒ大学病院の小児やけどセンターは、スイスで初めて子どものやけどを専門に扱う機関としてスタートし、毎年約400人のやけど患者を扱っている。

患者の6割は3歳以下

 このセンターに来る若年患者の多くは重度のやけどに苦しみ、中には全身の50%以上にやけどを負っている子どももいる。
「患者の5割から6割は0歳から3歳の子どもで、大抵は熱湯によるやけど。ほかの4割はもう少し年上の子どもで、ほとんどが火遊びでけがをした男の子たちだ」
 とセンター長のクレメンス・シエストル氏は言う。

 そのほか、大人がバーベキューやフォンデュを早く始めようと灯油を使い、突発的に燃え上がる炎で子どもがけがをするケースもあり、
「灯油が原因で、子どもの体の60%にやけどを負わせてしまうことは父親にとってもつらいことだ」
 とシエストル氏は言う。

 このような重度のやけどの場合、病院での迅速な医療行為が必要だ。まず、シエストル氏のチームは、ショック状態が引き起こす血液循環障害が起きていないかを確認する。この段階で、子どもたちは大量の水分を投与される。普段の体重が20キログラムの子どもなら40キログラムにまで増えることもあるが、医師は子どもの命を救うことができる。

 子どもが安定状態に入ると、やけどをした皮膚は体内に有毒な物質を放出する可能性があるため、取り除かれる。広範囲にわたるやけどの場合はさらに傷を広げることになり、感染を防ぐ必要がある。

現在の皮膚移植

 ここからが皮膚移植の出番だ。皮膚移植には患者自身の皮膚、通常、頭皮が使われる。1日おきに手術がおこなわれ、最高5週間と長くかかることもあり、
「患者には非常につらい時期だ」
 とシエストル氏は説明する。

 皮膚の状態が安定してくると、患者には加圧服の着用が義務付けられる。もし移植した皮膚が子どもと共に成長しなければ、接合部分は再度移植される必要があるだろう。全身の50%から60%にやけどを負った患者は3、4カ月後に退院できる。ここで、センターのスタッフが自宅の風呂場が患者に適しているかを点検したり、子どもの復学を手伝ったりして、患者の親を支援する。

 赤く腫れていた皮膚は次第に落ち着き、本来の色をいくらか取り戻す。リハビリプログラムは通常1年間で終了するが、その後の子どもの成長を見届けることがこのセンターの基本方針だ。
「子どもが学校に通い始めたり、10代になって初めて恋をする時など、あらゆる問題の面倒を見ている」
 とシエストル氏は言う。

 多くの場合、顔や腕にやけどを負うため外見が傷つけられ、10代は難しい年代になりうる。しかし、やけどの犠牲になった子どもたちの約9割は、普通の生活を送っているという。

未来の皮膚移植

 皮膚移植をすると必ず傷跡が残ると指摘するシエストル氏は、
「この状況を改善できる唯一の望みは、まったく普通の皮膚のように見える代用皮膚を、あと10年で実現しようと研究に取り組むライヒマン博士のような実験チームの存在だ」
 と共同研究者のライヒマン氏について語る。

 エルンスト・ライヒマン氏は細胞生物学者で、皮膚の研究をおこなっている。チューリヒにある実験室は最先端の皮膚移植研究を進めている世界でも数少ない実験室の1つだ。2001年創設のこの実験室は、小児病院の1部署として、やけどセンターとも緊密に連携している。
「現在ではまだ不可能なことだが、医師が1回の手術で患者に適用できる全層代用皮膚を作りたいと思っている」
 とライヒマン氏は言う。

 現在、重度のやけどには、シリコン膜で覆われた牛などのコラーゲンが使用される。時間がたつにつれ、このコラーゲンは人工の真皮 ( 皮膚の真ん中の層 ) となり、患者の組織に置き換えられる。その後、表皮 ( 皮膚の最外層 ) であるシリコン膜が取り除かれ、患者の皮膚が移植される。
「場合によっては、医師は皮膚にいくつもの穴を開けメッシュ状にして引き伸ばし、さらに組織を得る必要がある。しかし、多くの場合、外見は満足のいくようなものではない」
 とライヒマン氏は説明する。現在、彼の研究チームは患者自身の細胞から作られる真皮と表皮の両方をもつ移植用の皮膚の開発に取り組んでいる。

細胞と血管

 患者の細胞は小さな生体組織から得られ、実験室で人工的に増殖される。問題は、この過程で自己複製をおこなう皮膚の細胞がすっかり失われてしまうことだ。つまり、新組織を生成する細胞が無いため、移植用の代用皮膚は「消えてしまう」のだ。そこで研究チームは、皮膚が患者に移植される前に、そこに十分な数の自己複製細胞があるかを確認しなければいけない。

 2つ目の問題は、代用皮膚の真皮にあたる部分には血管が通っていないということだ。つまり、真皮の維持に必要な栄養と酸素を供給する血管が無いのだ。移植後すぐに代用皮膚が患者の血流につながるようにするため、科学者は事前に代用皮膚に血管を通さなければいけない。

 今のところ、「生物学的に非常に活性なヒドロゲル ( 水を含むゲル ) 」である直径約3センチのサンプルができているが、これを手術に使える大きさの10センチから15センチまでにするのが目標だ。これは非常に緻密 ( ちみつ ) な作業だが、
「さらに、皮膚が本来の色を取り戻せるようにするのもわたしたちの目標で、なぜなら、現在の皮膚移植では色細胞は失われ、皮膚は白くなるからだ」
 とライヒマン氏は付け加える。

 研究は医師との緊密な協力関係で行われている。シエストル氏とライヒマン氏の両氏が認めるように、まず、2つの別々の分野が「お互いの言語を話せる」ようになる必要があった。しかし、今ではこの協力関係は順調だ。
「新しい皮膚が出来上がるまでは、しばらく時間がかかる」
 とシエストル氏は言い、
「しかし、毎日わたしたちは病院と実験室で働いている。少しずつ目標に近づいていることは確かだ」
 と自信を持つ。

swissinfo、チューリヒにて イソベル・レイボルト・ジョンソン 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

深度1度は、表皮のみのやけど。症状は発赤と痛み。水ぶくれはなく、やけどで負傷した組織の水腫 ( 体液がたまって膨れること ) はごくわずか。日焼けは深度1度。

深度2度では、損傷が表皮すべてと真皮の1部まで及ぶ。症状は、発赤、水ぶくれで、多くの場合、かなりの腫れが見られる。深度1度と2度では強い痛みを伴うことがある。

深度3度のやけどでは、皮膚の全層が壊死。損傷部分の表面は堅く、茶色、黄褐色、黒色、白色、赤色などになる。真皮に加え、痛みを感じる受容体が完全に破壊されているため、痛みは感じない。血管、汗腺、皮脂腺、毛穴はすべて破壊される。深度3度では、緊急医療措置が必要になる。

参照:ブリタニカオンライン

皮膚は体の最大の器官で、体の表面を覆っている。

3層の組織からなり、表皮は1次保護構造を持つ最外層で、角質層。真皮は表皮を支え補強する繊維層。皮下組織は真皮の下にある皮下脂肪層で、上の2層に栄養を運んだり、外からの衝撃を和らげ、断熱材としても働く。

皮膚には血管が張り巡らされ、動脈、静脈、毛細血管が複雑ながらも秩序を持って絡み合っている。

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