福島原発事故から10年、原発のない未来は来るか
2011年3月11日の東日本大震災で発生した福島第一原発事故は、スイスにおける脱原発の始まりだった。一方で、地球温暖化防止には有効だとして、原発政策を続ける国もある。
福島はスイスから遠く離れていて、日本ならこの種の事態を真剣かつ専門的に対処するだろう――。それがチェルノブイリ以来最悪の原発事故に対する当時のエネルギー相、ドリス・ロイトハルト氏の最初の反応だった。
この発言は、仏語圏の日刊紙ル・タンが4日、インタビュー記事として掲載した。同氏はこのインタビューで、事故がどれほど深刻であるか、またこれが日本の国境を越え世界的な影響を及ぼすことになると認識したのは、少し後だったと振り返る。
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放射線の影響に関する国連の科学委員会(UNSCEAR)は9日、福島原発事故の影響を分析した最終報告書を発表。被ばくによる住民の健康被害はなかったと結論付けた。13年版の前回報告書を本質的に踏襲する内容となった。
被ばくした子供たちの間で甲状腺がんが急激に増加したことについては、スクリーニング技術の改善により「これまで検出されなかった有病率」を明らかにした、とした。
環境保護団体グリーンピースは、除染エリアの85%が依然汚染されていると指摘する。また日本政府はこの間、除染プログラムの有効性を称賛し、放射線のリスクを無視することで国民を欺いてきたと批判している。
事故発生から3日後の3月14日、スイス連邦政府は原発建設計画の一時停止(モラトリアム)を命じた。その2カ月後、連邦内閣は国内総発電量の約3分の1を供給していた原子力発電からの段階的脱却を決定した。
17年5月の国民投票では、原発の新設を禁止し、代わりに再生可能エネルギーを推進する政府の「エネルギー戦略2050」が58.2%の賛成で可決。脱原発はスイス国民からも支持された。
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世界最古の原発は今も稼働中
19年末、ベルン州にあるミュールベルク原発が、国内にある原発5基では初めて運転を終了した。廃炉作業には約15年かかる見込みだ。
世界最古と言われるベツナウ原発1、2号機(アールガウ州)など残り4基は、連邦核安全監督局(ENSI/IFSN)が安全だと評価する限り、今後数年は電力供給を継続する見込みだ。
最新の「世界の原子力産業現状報告外部リンク」によると、スイスの原発の平均年齢は44.8歳。世界平均(30.7歳、2021年2月末時点)を大幅に上回る。
19年、スイスの発電量の約2割を原子力発電が占めた。世界平均のほぼ2倍だ。
世界には443基の原発
福島第一原発事故後、スイスやドイツ、スペイン、ベルギーが段階的な脱原発に舵を切った。イタリアでは原発再開の計画が国民投票で否決された。
だが未曽有の事故を経ても、トルコ、アラブ首長国連邦、ベラルーシ、バングラデシュなどの国々は原発政策を推進した。スイスの通信社Keystone-SDAの報道によると、11~20年に世界で新規建設された原子炉のうち、約半分は中国のものだ。
現在、世界で稼働している原子炉は443基(2010年末では429基)。最も多い国は米国、フランス、中国だ。
原子力が地球を救う?
原発を取り巻く問題は安全性や放射性廃棄物だけではない。近年では低コスト化が進む再生可能エネルギーとの競合にさらされている。2009年以降、風力発電のコストは70%、太陽光発電では89%低下外部リンクしたのに対し、原子力発電は33%上昇した。
しかし原子力は依然、関心を集めている。推進派は二酸化炭素(CO2)の排出量が少なく、風力発電や太陽発電とは違い必要量を発電できる利点があると強調する。
国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、エネルギーシフトには原子力が不可欠だと主張する。米国のビル・ゲイツ氏が支援する原子力開発ベンチャー企業のテラパワーは、何百という第4世代の小型原子炉の建設を計画している。冷却材には液体ナトリウムを使用し、再生可能エネルギー発電と統合される。
原子力エネルギーの専門家で連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のミヒャエル・プラッサー教授は、再生可能エネルギーの拡大には膨大な貯蔵容量が必要となること、またそれによりコバルトやリチウムといった希少金属の需要が増加することを考慮すると、ただちに脱原発とはならないと指摘する。
プラッサー氏は、放射性廃棄物が生じるという問題を考慮しても、ゲイツ氏のアイデアは良いと評価する。
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(独語からの翻訳・シュミット一恵)
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