自動車デザインに革命
現代の車の性能はパラシュートを引きずって走る飛行機のようなレベルで、環境の面からみた技術は悲惨であると、革新的な技術者ペーター・マスクス氏は語る。
ルツェルンの技術者マスクス氏が開発した未来車「アカビオン ( Acabion ) GTBO」は、われわれの交通手段に革命を起こす可能性を秘めている。
750馬力のアカビオンGTBOは、F1のレーシングカーと戦闘機の中間のような外観で最高時速545キロを出す上、ガソリン1リットル当たりの走行距離が42キロメートルと燃費が非常に良い。車輪のついたロケットのようにも見えるアカビオンGTBOの名はアメリカのアカディア国立公園とバイオニックス ( 生体工学 ) に由来する。
鳥のような形の車
ドイツ人技術者マスクス氏がこの未来車の構想を抱いたのは、学生時代の1986年で、以来ポルシェやメルセデス・ベンツなどの伝統的な自動車メーカーを経た後、「カイゼン」の専門家としてトヨタに勤務した。2004年にルツェルンに設置されたコンサルティング会社の本部で現在主任調査員として働いている。
1995年にマスクス氏は生産最適化の分野のコンサルタントになり、イノベーション ( 技術革新 ) が自分の天職であることに気づいた。自動車の生産過程の効率化はさておき、自動車本体の性能の向上はどうか、この疑問がマスクス氏を空気力学に基づいた鳥のような形の車の構想へと引き戻した。
「車体前部のサイズは車を動かすために必要なエネルギーの量に正比例します。つまり乗客が隣同士に座るようにすると、2倍の効率と燃費が必要になるのです」
とマスクス氏は説明する。そのためアカビオンGTBOの乗客は、グライダーの座席のように運転手のすぐ後ろに座るようになっている。マスクス氏は、この技術の応用によって今後50年分の石油が節約され、太陽エネルギーを開発する時間ができるという。
アカビオンGTBOはガソリンで一般道路を走行できるが、マスクス氏は専用の高架道路の上を太陽エネルギーで走らせることを考えている。専用道路上なら自動操縦装置使った高速走行を可能にすることができる。
専用地下トンネル
住宅街では、専用の地下トンネルに小型車を走らせればより静かで安全、そして緑豊かな環境になる。同じ技術を使って、4人乗りと9人乗りの家族向けの車を作る計画もある。
「ハイブリッドのSUV ( スポーツ用多目的車 ) は進化ではありません。進化するには、型にはまらない考え方をしなければなりません」
と語るマスクス氏は、個々の人々がもっと高速で移動できるようになるべきだと思うように説得したいと考えている。現在47歳のマスクス氏は、トヨタのカローラに乗っているが、80キログラムの自分を運ぶ車体が1.4トンもあると嘆く。他方、アカビオンGTBOは300キログラム強しかない。
アカビオンGTBOの公道走行はまだ許可されていないものの、認可が見込まれており、サンモリッツ ( St. Moritz ) の近くのエンガディン ( Engadin ) 空港などの場所で走行試験が行われた。
「ここには強い人脈とサポートがあります。スイスは素晴らしい場所で、本物の、そして効果的なイノベーションを実現するためには世界でも最もすぐれた国の1つです」
とマスクス氏は語った。
アカビオンGTBOの製造には約3年の月日と300万フラン ( 約2億9000万円 ) が必要で、現在のところ1台しか作られていない。しかしマスクス氏の素晴らしい構想が尽きることはない。
「われわれを止めることはできない。われわれは進み続ける」
とマスクス氏はほほ笑みながら誓った。
swissinfo、スーザン・フォーゲル・ミシカ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
「アカビオン ( Acabion ) GTBO」の技術的なデータ
GTBO=Grande Tourismo Bionic Optimised ( 生体工学的に最適化された高性能車の意 ) の略
最高速度:スロットル半開、自動制御で時速545キロ ( 時速340マイル )
30秒以内に0から時速480キロ ( 時速300マイル ) に加速
スロットル開度1.7%で時速160キロ ( 時速100マイル ) 、1リットル当たりの走行距離42キロメートル
スロットル開度4.3%で時速240キロ ( 時速150マイル ) 、1リットル当たりの走行距離26キロメートル
スロットル開度17%で時速400キロ ( 時速250マイル ) 、1リットル当たりの走行距離10.5キロメートル
生体工学とは自然の中にあるシステムをいかに技術に応用するかという学問。
例えば飛行機が鳥に非常に似ているのは偶然ではない ( 他方、大半の車は亀のような形だ ) 。
カイゼンは継続的な向上を実現するプロセスを表す日本語で、特に工場で使われているコンセプト。
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