コロナで大気汚染改善?
中国のスモッグが減り、イタリアのヴェネツィアの運河がきれいになり、スイスのある地域では空気の質が良くなったー。世界で起こるこうした環境の変化に、新型コロナウイルス対策がどれだけ関係しているのだろう。長期的に見て気候へのメリットはあるのか。
スイスでは3月中旬以降、生活必需サービスを除くすべての店、サービスが停止している。公共交通機関は本数を減らし、可能な人は在宅勤務に切り替えた。
スイス連邦材料試験研究所(Empa)で大気汚染を研究するクリストフ・フューグリン氏は「都市部ではロックダウンの効果が見られる。特に二酸化窒素(NO2)が減った」と指摘する。 「ただ地方では効果が見られない。好天により、空気の質はすでに良いからだ」
スイスの「ロックダウン」が3月のNO2濃度にどう影響したかを調べるため、Empaの研究者たちは観測値を通常の経済活動時、気象学に基づく予測値と比較した。データは国内各地の観測所のものだ。
ベルンやルガーノでは、大気中のNO2が予想よりかなり少なかった。しかし、ルツェルン郊外の農村部ベロミュンスターでは、NO2のレベルは予想よりはるかに高かった。
研究者は、これはセンサーが道路交通から比較的遠いこと、この農村地域では全体的な濃度が非常に低いこと、モデルの不確実性、そのような低い値での測定といった要因があるとみる。
家にいるほうが悪いの?
スイス連邦工科大学の一機関、パウル・シェラー研究所(PSI)の大気化学研究室のウルス・バルテンスペルガー室長は「人が家にいると、エアロゾル(大気中の汚染物質などの粒子)のレベルは増加する可能性がある。人々は困難な状況の中で快適さを求めようとして、薪に火をつけたりすると、それが排出を生み出す」と話す。
さらに、3月末にスイスに吹き込んだサハラダストが関係している。この粒子は、気温が低く風がない環境だと、雲を増やしたり、大気汚染を引き起こしたりする。
新型コロナウイルスがスイスの大気の質に及ぼす影響を調べた報告書で、Empaの研究者は、窒素酸化物(NOx)の濃度が「ロックダウンにより、スイスのほとんどの交通関連地点で最大50%減少した」と結論付けた。オゾン濃度は低かったが「一般的に国内で増加した。この汚染物質[オゾン]とNOxとの反比例の関係によるものだ」とした。
これが示すのは、正確な結論を出すのがいかに難しいかということだ。バルテンスペルガー氏はNO2の観測結果と比べると、ロックダウンがエアロゾル濃度にどう影響したかを突き止めるのは非常に難しいと話す。より長期間、詳細に分析しない限りは「雲をつかむようなものだ」。
衛星画像はどう?
過去2カ月間のスイスの衛星画像を見ると、空気の質はロックダウン後、明らかにきれいになっているようだ。
Empaの大気汚染・環境技術研究室のルカス・エメネッガー室長は「ほぼすべてが非常に特殊な気象状況によるもの。これほどの暖冬は今まで経験していないので」と理由を話す。ただ今月、衛星画像を詳しく分析し、ロックダウン後の影響を調べるという。
とはいえ、スイスは製造大国・中国のような劇的な結果は得られないだろう。中国ではコロナ危機の間に排出量が劇的に減り、その後は再び上昇している。
一方、スイスの大気の質は、イタリア北部の国境付近で行われた措置により、ポジティブな影響が出ている。イタリア北部では感染拡大を受けて地域全体を封鎖、隣接するティチーノ州でも全国に先駆けて休校や店舗の営業停止に踏み切った。連邦環境省環境局はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)に対し、こうした影響が特にティチーノ州で現れていると語った。
気候へのメリットは?
今回のコロナ危機に乗じ、環境保護団体グリーンピース・スイス外部リンクは政府に対し、環境配慮型・危機対応型の経済を目指す長期的措置を求めた請願「スイス・グリーンニューディール」を立ち上げた。
フューグリン氏は「現在の状況は温室効果ガス排出に影響を与える地域で、何らかの行動が加速するのに寄与するかもしれない」と話す。ただ同氏とエメネッガー氏は、それには長い時間がかかるとみる。
一方、パンデミックは多くの意思決定者を地球温暖化の方向へ向かわせた。ベルン大学エッシュガー気候研究センターのディレクター、マーティン・グロジャン氏は、危機が長引くほど環境には悪い影響が出るという。
「気候に関して言えば、新型コロナウイルスが発生しなかった方が良かった。パリ協定の実施に集中することができたから」。グロジャン氏はニュースメディア、ワトソンとのインタビューでそう述べた。 次回の国連気候変動会議(COP26)は英スコットランドで11月に予定されていたが、ウイルスの感染拡大を受けて延期された。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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