安楽死マシン「サルコ」、スイスでの実用化に期待
3Dプリンターで作られたカプセル型の安楽死マシン「サルコ(Sarco)」。同装置を開発した「死ぬ権利」推進団体エグジット・インターナショナルは、スイスでの実用化に期待している。
《読者の皆様》
本記事は初版(英語)でサルコが「法的な問題はないとの見解を得た」と記載していましたが、これは、AP通信によるファクトチェック外部リンクで明らかになったように、誤りでした。このような誤解を招く見出しと内容の記事を配信したことについて、深くお詫び申し上げます。
12月8日付watson.ch外部リンク記事で、フィリップ・ニチケ氏が来年のサルコ発売に向けてスイスの複数の団体と交渉中であると主張していることが確認できなかったため、記事を修正しました。同記事によると、スイスの主な自殺ほう助団体であるディグニタス、エグジット、エックス・インターナショナルのいずれも、同機器の導入を検討しているとは言っていません。フィリップ・ニチケ氏が本記事の初版で言及した組織は、ペガソス外部リンクでした。また12月11日、AP通信の情報をもとに、下記コラムを追記しました。
SWI swissinfo.ch総編集長 ラリッサ・M・ビーラー
スイスでは、一定の条件の下で自殺ほう助が認められている。
医療製品の規制を所管するスイスメディック(Swissmedic)はAP通信に対し、カプセル「サルコ」を承認していないことを確認した。
ニチケ氏はAP通信に対し、同氏の非営利団体「エグジット・インターナショナル」が承認を求めなかったのは、独フライベルク工科大学でインフラ法・新技術を担当するコンサルタントから、同機器の使用に公的な許認可は必要ないとする外部の法的見解を得たからだと語った。
スイスの自殺ほう助団体「エグジット」(エグジット・インターナショナルとは無関係)は、サルコやエグジット・インターナショナルが得た法的見解に疑問を感じているという。
エグジットのユルク・ヴィラー副会長は、「合法化に当たり具体的にどのような法的見解が付されたのか分からない」とメールで回答。「またカプセルの試験は実施されたのか。エグジットは、我々がスイスで実施している医師による自殺ほう助の代替手段にサルコがなるとは考えていない」という。
スイスでは昨年、約1300人が国内の2大自殺ほう助団体であるエグジット(エグジット・インターナショナルとは無関係)とディグニタスのサービスを受けて自死した。自殺ほう助では、医師が処方した液体のペントバルビタールナトリウムを患者本人が体内に取り込む方法が取られている。
この薬物を致死量摂取すると、手法にもよるが2~5分以内に眠りに落ちる。その後昏睡状態となり、まもなく死に至る。一方、サルコは規制薬物を使わずに安らかな死を迎える別のアプローチを提供する。
サルコはエグジット・インターナショナル創設者のフィリップ・ニチケ博士が開発。棺のような形をした「サルコ」がどんなものなのか、またスイスの自殺ほう助業界でサルコがどう位置付けられると期待しているのかを聞いた。
swissinfo.ch:サルコとはどのような装置ですか。仕組みを教えてください。
フィリップ・ニチケ:サルコは3Dプリンターで作ったカプセルです。死のうとする人がカプセルの内側から装置を起動します。このマシンであれば、死に場所を選びません。例えば、のどかな野外でも自殺ほう助団体の施設でも構わないのです。
利用者はカプセルの中に入り、横たわります。内部はとても快適です。いくつか質問を出され、それに答えると、カプセル内部にある起動ボタンを自分の思うタイミングで押せるようになります。
ボタンを押すと、カプセルの台座部の装置によって内部に窒素が充満し、30秒間で酸素濃度が21%から1%まで急速に低下します。利用者は意識を失う前に、少し頭がぼんやりしたり、わずかな陶酔感があったりするかもしれません。利用者は低酸素症と低炭酸症、つまり酸素と二酸化炭素の欠乏により死に至ります。パニック状態や、窒息するような苦しさを感じることはありません。
swissinfo.ch:サルコの開発や実用化はどのような段階にありますか。
ニチケ:スイスでサルコを自殺ほう助に使うことの合法性について、私たちは昨年、上部機関に助言を求めました。この審査が終了し、私たちは結果にとても満足しています。何も見落としていませんでした。法的な問題は全くありません。
今のところ、サルコの試作品は既存の2台のほか、オランダにおいて3台目を(3D)プリンターで作成中です。全て上手くいけば、3台目が来年、スイスで使用開始される見込みです。
1台目のサルコは、ドイツ中部カッセルの埋葬文化博物館外部リンクで今年9月から来年8月まで展示されています。2台目は見た目が美しくありませんでした。その他にも様々な理由があり、実用に最適とは言えません。
サルコの補完的プロジェクトには、(新型コロナウイルス感染症の)パンデミック(世界的大流行)により遅れているものがいくつかあります。例えば、利用者とカプセルの外にいる人が通信できるカメラの開発です。利用者のインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)の記録が必要になりますから。カメラは委託開発しており、次の段階は製造です。
swissinfo.ch:博士は、死に至るプロセスから医療の関与を排除することが目標だと公言しています。そのためには何が必要ですか。
ニチケ:現在は、ペントバルビタールナトリウムの処方と利用希望者の判断能力の確認に、1人または複数の医師が関与しなければなりません。私たちは死に至るプロセスから一切の精神医学的な審査を排除し、個人が自分で手段をコントロールできるようにしたいと考えています。
私たちは、人工知能(AI)を使って利用希望者の判断能力を証明するスクリーニングシステムの開発を目指しています。当然ながら精神科医を中心に懐疑的な意見が多くあります。しかし、利用者がオンラインテストを受けて合格すれば、サルコへのアクセスコードを受け取れるというのが私たちの考える本来のコンセプトなのです。
(英語からの翻訳・江藤真理)
(注)フィリップ・ニチケ氏によると、酸素が1%以下の環境では意識を失ってから約5〜10分後に死が訪れる。
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