コロナ禍、スイスでリビングウィルの作成を後押し
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を機に、スイスでは多くの人々が終活について考えるようになった。ロックダウン(都市封鎖)中に、「リビングウィル(終末期医療に関する事前指示書)」作成の依頼件数が急増した。
6月、ジュネーブ出身のシュザンヌ・ドジーヴさん(87)は、「植物状態で人生を終えたくはありません。植物状態になるような目には遭いたくありません。呼吸もままならない状態はごめんです」とフランス語圏のスイス公共放送(RTS)の取材で語った。「ある程度の年齢に達した人は穏やかに逝かせるべきだと思います」と話す。
新型コロナウイルスに苦しむ知人らの姿を見て、ドジーヴさんは彼女なりの結論にたどり着いた。知人らは集中治療を受けたが、いまだに完治していないという。「知人たちは話すことも、息をすることもできませんでした。2カ月経った今も具合が良くありません」
この出来事がきっかけとなり、ドジーヴさんは自分自身のリビングウィルを作成することにした。スイスではドジーヴさんの他にも多くの人が、人生の終末期に行われることを自分で決めることができるよう、リビングウィルを作成している。
リビングウィルは、延命措置としてどのような医療行為を望むか事前に意思を表明しておく文書。「医療に関する事前指示書」や「ペイシェント・ディクリー(患者の命令)」としても知られる。患者が必要とされる時に意思を表明・決定できない場合にのみ、リビングウィルは効力を持つ。
出典:プロ・セネクトゥーテ
言語圏それぞれに上昇傾向
「コロナ危機の前は、スイスのドイツ語圏では65歳超の半数がリビングウィルの作成手続き中だった。しかし今、手続きの完了件数は大幅に増加していると考えられる」と話すのは、スイスの全国規模の高齢者支援団体「プロ・セネクトゥーテ外部リンク」で広報を担当するタチアナ・キストラーさんだ。
2017年、プロ・セネクトゥーテがスイスに住む18~99歳、1200人に電話調査をしたところ、リビングウィルを作成済みの人は22%にとどまった。割合が最も高い年代は60~70歳だった(47%)。言語圏別では、ドイツ語圏(27%)が全国平均を上回ったが、フランス語圏(10%)やイタリア語圏(5%)は著しく低かった。
ところが、キストラーさんによると、ロックダウン中に、フランス語圏やイタリア語圏でリビングウィル作成の需要が50%以上増えた。
「この未曽有の危機の最中、テレビの映像が人々に恐怖を引き起こした」とプロ・セネクトゥーテのアラン・フーバー代表はRTSに語った。「良い人生を送り、今では90歳だ、あんな死に方はしたくない、というような声が高齢者から多く寄せられた」という。
リビングウィルだけではない終活
リビングウィルは、プロ・セネクトゥーテが提供する個人書類一式「DOCUPASS外部リンク」の一部だ。DOCUPASSには誰でも、重篤な病に冒された際のあらゆる指示、要望、希望を記録できる。リビングウィルの他に、委任状がある。署名者が意思の表明・決定ができない場合に、日常の事務を引き受け、財政を管理し、署名者を代理する人を任命する文書だ。また、臓器提供の意思表示など、死亡時の手はずを整えるための文書もある。遺言書のほか、緊急時の連絡先をまとめたカードも入っている。
キストラーさんによると、同団体はコロナ危機により、これらの準備に対する関心が高まっていることに気付いた。しかし、「すでにパンデミックの前から、より若い年齢層が終活に関心を示していることに気づいていた。自分の両親が終活を希望しているから、あるいは、できるだけ早く終活を始めた方が有利だという意識が強くなったからだ」という。
(英語からの翻訳・江藤真理)
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