スイス、ネット投票を再開 6月の国民投票で3州が試験運用
4年前に頓挫したスイスの電子投票(インターネット投票)が息を吹き返した。6月18日の国民投票での復活に向け、既に試験サイトが立ち上がっている。
「晴れた日は好きですか?」「雨の降る日は好きですか?」―これは本物の投票案件ではなく、スイス郵便が19日に公開した試験ネット投票の模擬質問だ。有権者が投票手順に慣れるためだけに設けられたもので、質問に意味はない。
だが6月18日の国民投票では、トゥールガウ、ザンクト・ガレン、バーゼル・シュタットの3州の国外在住有権者ら約6万5千人がこのシステムを使ってネット投票できるようになる。
計5種のコード
スイスのネット投票事業は2019年、セキュリティー上の欠陥のためいったん中止され、在外スイス人を落胆させた。連邦内閣が今年3月、スイス郵便の再開発したシステムを承認し、同時に3州による導入を許可した。
スイス郵便は特設サイト外部リンクで、実際の投票時にどのような手順を踏めばいいかを詳しく解説し、模擬投票を提供している。
模擬投票では、有権者はまず各種コードの記載された「投票カード」をダウンロードする。実際のネット投票では、このカードは投票資料とともに州から郵送される。
そこからはやや複雑だ。投票者はまず投票案件を選んだ後、24文字の初期化コード(下記イラストの三角形の下の数列)と誕生年を入力する。続いて案件に対する「賛成」「反対」を選び、次の画面で表示される確認コードが投票カードのものと照合する。合っていれば、「投票内容を暗号化して送信する」を選択する。
その後、カードに記載された確認コード(下記イラストの五角形の下の数列)を入力する。そうすると「投票済み」ページが表示され、最後のコードが現れる。これを自分の投票カードの番号と合っているかチェックする。これで投票は完了だ。
投票の回答欄を全て空のままにして、空票を投じることもできる。
安定したインターネット接続が必須
セキュリティー上の事情から、一部の作業は処理に長い時間がかかる。安定したインターネット環境が不可欠で、接続が不安定だと投票システムがフリーズしやすくなる。
スマートフォン用の電子投票アプリを開発する計画は今のところない。スイス郵便でネット投票を担当するシャビエル・モナ氏は「投票ページは当然、スマホでも利用できる。ウェブサイトでシステムの安全性が確保されている以上、特殊な仕様を提供する意味はない」と説明する。
またネット投票の導入で紙による投票がなくなるわけではない。スイス郵便通信部門のニコル・ブルトゥ最高経営責任者(CEO)によると、引き続き紙の投票資料も提供することが法律で定められている。スイス国外に住む有権者にも、ネット投票用のカードが紙の投票用紙と一緒に郵送される。
対象州の有権者であれば自動的にネット投票用のカードが送られ、自ら申請する必要はない。ただ、州がネット投票について積極的に周知することも予定されていない。
スイス郵便は近く、在外スイス人協会(ASO/OSE)にネット投票サイトを紹介する。同協会はホームページ「SwissCommunity」で関連情報を告知する予定だ。
協会のアリアンヌ・ルスティシェリ事務局長は「スイス郵便が透明性を高めようとする意思の表れであり、これを歓迎する。だが本当の試験は、6月18日の国民投票だ」と話す。
秋の総選挙への導入は未定
グラウビュンデン州は4番目の州として、2024年からネット投票を導入する方針だ。他にも検討中の州がある。
ただ導入を決定済みの3州も、10月に予定される連邦議会総選挙でもネット投票できるかどうかは未定だ。別途連邦政府の承認が必要で、連邦内閣事務局が対応する申請を審査している。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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