スイスでは銃の所持許可の申請件数が2015年、全国的に急増していたことがわかった。原因となったのは果たして犯罪だろうか?
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スイスの治安は向上している。警察の最新発表では、2015年の犯罪発生率は7%減少し、過去7年間で最低だった。特に、2014年の殺人発生率は過去30年間で最も低い。
殺人で最もよく使われる凶器は、ナイフなどの鋭器だ。銃を使った殺人事件あるいは殺人未遂事件の件数は、2012から2014年にかけ51件をピークに18件にまで減少した。ただし2015年には、その倍の36件と増加に転じている。
一方、2011年以降、銃による重傷者の数は横ばいで推移している。2015年に64%にまで減少しているのは、前年の数値が突出していたためだ。ここで留意したいのは、重傷者のうち銃が原因となったケースは昨年で3%とごくわずかで、ほとんどの場合は刃物か身体的暴力ということだ。
また、強盗事件では身体的暴力が最も多く、去年の銃の使用率は12%で、前年に比べ15ポイント減少している。
つまり、銃が絡んだケースでは、死亡者数は増加で負傷者数は減少ということになる。他にも相関関係があるだろうか。
スイスインフォのまとめでは、2015年の銃所持許可の申請はスイス全体で増加した。
しかし、その原因は犯罪ではないようだ。オプヴァルデン準州は人口約3万6千人の山に囲まれ、観光業が盛んな小さな自治体だが、過去5年の犯罪発生率はほぼ横ばいで、2015年には9ポイント減少している。それにもかかわらず、銃所持許可の発行数は2014年の100件から149件へと大幅に増加した。
発行数でトップを行くのはアールガウ州だ。スイスで最も人口密度の高い地域の一つで、昨年の発行数は前年比で478件も増加した。一方、州内の犯罪発生率は2012年から23ポイント減少している。
許可証の発行数が減少した唯一の州は時計製造業と農業が盛んなジュラ州で、230件から221件に減った。犯罪発生率は、2013年まで小幅に上昇したのち減少に転じている。
オプヴァルデン準州警察は許可証発行の増加について、射撃場で使用される銃が多種多様になったことが主な原因だろうとコメントしている。銃の種類ごとに必要な許可証も増えるからだ。またスイスの農村地帯では、多くの人が銃を収集するなど昔から銃が身近だったという事情もある。スイスフラン高に対し中古武器市場の価格にもかなりの値打ち感がある。また、同準州では猟師になるための訓練を受ける人の数も多い。ただし、これらはあくまで準州警察の憶測に過ぎない。
アールガウ州警察は、銃所持許可の増加は必ずしも実際の銃所持の増加につながらないと指摘する。例えば許可申請は、銃を売った時や、すでに流通している銃に対して出される場合もあるからだ。
スイス犯罪防止協会のマルティン・ベス氏は昨年12月、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)の取材に対し、問題となるのは「使い方がよく知られていない新しい武器が市場に出始める時。非常に危険であり、スイスにとって好ましくない状況だ」と述べた。
銃の文化
国民皆兵制を採用しているスイスでは、国民の銃所持率は世界でもトップクラス。連邦国防省の調べでは、人口830万人に対し個人所有の銃は推定200万丁。そのうち自治体で登録されている銃はおよそ75万丁だ。国民皆兵制では、兵士の銃は自宅に保管される。
ここ数年、有権者は銃規制の強化案に反対し続けている。2011年、自動小銃の購入を禁止して銃の使用をライセンス式にするという銃所持制限を目指した法案が国民投票にかけられ、否決された。
(英語からの翻訳・フュレマン直美 編集・スイスインフォ)
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スイスの犯罪件数、5年連続で減少
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連邦統計局は26日、昨年の犯罪統計を発表し、刑法犯認知件数は43万9千件(前年比6.1%減)で、2012年から5年連続で減少したことがわかった。2012年比では17万件の大幅減となった。
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スイスの銃、登録数が増加
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スイス国内の銃の登録数が昨年比で9%増加したことがわかった。銃所持者本人が登録する国内プラットフォームで判明した。大衆紙ブリック日曜版が11日に報じた。
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昨年のスイスの小型武器輸出先、仏と米が最多
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連邦経済省経済管轄局(SECO)は21日、スイスが2016年、拳銃などの小型武器を輸出した最大の相手国はフランス、次いで米国だったとの統計結果を発表した。輸出総量は減少したものの、輸出相手国は70カ国に上る。
小型武器はSALWと呼ばれ、一人で携帯や使用が可能な拳銃などの「小火器(Small Arms)」と、数人で運搬や使用が可能な重機関銃などの「軽兵器(Light Weapons)」、弾薬及び爆発物の3種類があるとされる。昨年は、国際安全保障上の理由で国から輸出許可が出ないケースが増えたにも関わらず、輸出量は前年比28%増だった。
フランスへの輸出額は450万フランで、その大半がグレネードランチャー。輸出総数は約5千超で、うち3626の武器がフランスの警察当局へと輸出された。警察関係への輸出に占めるフランスの割合は前年に比べ2割超の伸び。
米国は430万フランで主に回転式拳銃、自動装てん式拳銃など。他には機関銃、カービン銃となった。その他の主要輸出先はスロバキアとドイツだった。
昨年、連邦政府が出したSALWの輸出許可件数では、申請者の6割が武器の販売業者だった。警察は26%、軍は4.6%、市民は3.2%だった。前年は業者が79%、警察当局はわずか4.3%だった。
SECOがまとめた昨年の武器
輸出統計によると、輸出総額は4億1190万フラン(約462億円)で、前年比7.8%減少。06年以来で最小値だった。
輸出先の半数超を欧州諸国が占め、4分の1がアジア、米国は11.2%だった。アフリカ諸国は前年比207%の伸び。南アフリカ共和国への輸出が5130万フランに上ったのが理由で、輸出額では2番目に多い。
輸出先の上位5カ国には、政治的な対立が続くインド、パキスタンが入る。インドはミサイル射撃指揮装置とミサイル誘導システムで3450万フラン、パキスタンは銃器で2550万フランだった。
輸出が認められなかったのは26件
昨年、輸出の許可が認められなかったケースは26件に上った。前年はゼロ。相手国はロシア、バーレーン、アラブ首長国連邦、サウジアラビアで、安全保障上の理由のほか、人権問題や国際的な経済制裁によるものもあった。
スイスは人権侵害に悪用される恐れがある国への武器輸出を禁じている。また、個別の事情に応じて国が可否を決める。
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スイスの銃器所持擁護派、EUの銃規制に反対
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欧州議会は今月14日、銃規制案を可決した。スイスは欧州連合(EU)に加盟していないが、シェンゲン協定加盟国としてこの新規制を適用する必要がある。これに対して、スイスの銃器所持擁護のロビー団体が異議を唱えている。
欧州議会が可決した新規則は、武器登録の導入や半自動銃のカードリッジ(薬包)の上限を20発から10発に制限するなど、銃器の所持をより制限する内容となっている。
スイス国内で同規則を適用するには議会の承認が必要となる。スイススポーツ射撃協会(FST-SSV)は、議会がこれを承認した場合、レファレンダムを視野に入れていると話す。
同協会のドラ・アンドレス会長は「新銃規制はテロ攻撃を阻止することはできないし、スイスの現行法は武器の違法取引に十分対応している」と話す。さらに同氏は、「スイスは銃器の所持において、とりわけ猟師、射手、コレクターの間で長い歴史がある」と付け加えた。
右派・国民党のヴェルナー・ザルツマン議員も同じく、新規制の導入に異議を唱えている。
しかし、左派・社会民主党のシャンタル・ガラデ議員は、「射手も警察官も、従来どおり銃器を使用できる」とドイツ語圏のスイス公共ラジオに対して話した。
スイス、適用外となるか?
シモネッタ・ソマルガ司法警察相は昨年3月、EUが計画する銃規制は、軍隊で使う武器を家庭で保管するという、スイスの伝統には影響しないだろうと話していた。
スイスでは1割以上の徴集兵が公務を終えた後、軍隊で使用した銃器を家庭に持ち帰っている。そのため、EUの半自動銃に関する規制案は当時から、スイスで大きな議論を引き起こしていた。
今回の新規制の導入に対する反対派は、銃登録データの統括を求める案件が2011年の国民投票で否決されたことを反対理由の一つに挙げている。
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