スイスの幾つかの州で新学期が今日22日、始まった。しかし、教育現場は疲弊している。障害を持った子どもを教える特殊訓練を受けた教師の不足など、さまざまな要因から教師の間に不満が充満。教師を辞める人も増えている。
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「より多くの教師が訓練を受け、外国人スタッフも採用されているのに、慢性的教師不足が続いている」とスイス教職員組合外部リンクのベアト・ゼンプ氏は、開口一番こう言った。
「一つの理由は、スイスでは障害を持った子どもが普通の子どもと一緒に同じクラスで勉強するため、基本的に2人の教師が必要だからだ。1人が授業を進め、もう1人が特別指導の必要な子どもの面倒を見る。例えば、地理の授業中に失語症の子どもの面倒をもう1人の教師が見るといった具合だ」
しかし、例えばチューリヒ州では、この障害を持った子どもを担当する教師が、必ずしも特殊訓練を受けていないという現状がある。
また、もう一つの教師不足の理由として、この特殊訓練を受けるには修士レベルの教育が必要であり、それには長い時間がかかるからだとゼンプ氏は付け加える。
疲労している
仏語圏・教職員組合は新学期を迎えるにあたり、「教師たちの事務作業が驚異的に増加し、そのことで教師たちが疲労している」というレポート外部リンクを発表。それによると、新人教員の6人に1人が1年後に仕事を辞め、2人に1人の教師が5年後に他の仕事を探しているという。そのため同組合は、教師にかかる負担と健康問題に関する調査をただちに開始するとしている。
一方、ゼンプ氏によれば、計7万人のメンバーからなる二つの教職員組合は、定期的に教育現場の調査を行っており、そうした調査の14年版によると、教師の不満を引き起こす主な要因は、給料の低さ、(事務作業の増加による)授業時間の減少、教育改革推進のための資金不足などだという。
スイスでもモンスターペアレント
こうした点に加え、スイスでもモンスターペアレントの存在が、教師が現場を離れていく要因の一つになっているという。「現在ある種の親たちは、学校で起こることをじっと監視し、教師との話し合いの場に弁護士を連れてくる。こうした親たちが、問題を起こす要因であり得る」(ゼンプ氏)
21日付の仏語圏の大衆紙ル・マタンによれば、学校に対する苦情は増加の一途をたどっているという。そのためフリブール州では、新学期からある種の決定に関する苦情は受け付けないことにした。
ゼンプ氏は、最後にこう付け加えた。「教師不足の多くの要因の一つには、もちろん教師の75%が女性だということもある。家庭との両立のために仕事量を減らしたり、他の仕事に就くためのトレーニングを開始したり、辞めたりするからだ」
(英語からの翻訳&編集・里信邦子)
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チューリヒ州の公立小学校で行われている英語、フランス語の二つの外国語科目について、住民らが言語の習得に十分な授業数が確保されていないなどとして、1カ国語に絞るよう求めた提案を発議した。小学校での外国語教育をめぐっては、国際共通語の英語だけとする方針を打ち出した州もあるが、公用語の一つであるフランス語がないがしろにされれば他の言語地域との連帯感を失うと反発は大きい。
ドイツ語圏地域では近年、児童に何カ国語を教えるべきかという議論が高まりを見せている。チューリヒ州では現在、児童は7歳(小学2年)から英語を学び、11歳(小学5年)からフランス語を学ぶ。
ただ、スイスにとってはセンシティブな問題でもある。公用語が4カ国語あるこの国では、国際共通語の英語を優先するか、他の地域の言語を学ばせて地域間のつながりを維持するべきかというジレンマに突き当たるからだ。
冒頭の発議は住民ら15人が提起。発起人らは、学校で2カ国語を教えること自体に反対はしていないが、小学校で一度に2カ国語を学ぶことが好ましくないと主張している。
発起人の一人でチューリヒ州のハンスペーター・アムシュトゥッツ州議員(福音国民党)は、「ほとんどの児童が、2カ国語の外国語学習で良い成績を出せていない。授業は週にそれぞれ2時間しかなく、言語の習得には不十分だ」と訴える。
アムシュトゥッツ氏は中学校教諭でもある自身の経験から、2カ国語教育についていけるのは成績の良い児童だけで、大半は問題を抱えるという。教師にとっても負担が大きく、外国語以外の科目がおろそかになると訴える。
この住民発議はチューリヒ教職員連合など、複数の州教職員連合が賛同。小学校でまず第1外国語に集中し、中学校で第2外国語を学ぶシステムにすれば、2カ国語を一度に勉強するより、第2外国語の習得が早いとしている。ただ、英語とフランス語のどちらを先に教えるべきかには触れていない。
なぜ住民発議なのか
なぜ住民発議が必要だったのか。それは、小学校のカリキュラム変更には州法改正が必要だからだ。通常は州教育委員会が決定するが、住民が発議を通して法改正のきっかけを作ることができる。
アムシュトゥッツ氏は「州の教育方針はこれ以上動かない。外国語教育が、教育にかかわる政治家の威信につながってしまっている」と批判。そのため、住民発議で政治的な議論を呼び起こし、スイス相撲「シュヴィンゲン」の投げ技のように「(制度改革に反対する)相手をひっくり返したかった」と話す。
住民発議の提起には6千筆以上の署名が必要だが、アムシュトゥッツ氏らは9270筆を集め、今年2月26日に州の司法当局に提出。3月14日に受理された。
一方、同州では2006年11月にも似たような発議が住民投票にかけられたが、59%の反対で否決された経緯がある。
アムシュトゥッツ氏は「あれから10年近く経ち、人々は(早い時期に二つの外国語を同時に教えることが難しいという)事実を知って我に返ったはずだ」として、前回と同じ結果にはならないと期待する。
フランス語?英語?それとも両方?
小学校で何カ国語を教えるべきか、また英語、フランス語のどちらを先に教えるか。ドイツ語圏のトゥールガウ州、ルツェルン州、グラウビュンデン州では新たな教育方針などをめぐって波紋が広がっている。
トゥールガウ州は2018年以降、小学校の外国語の授業は英語だけとし、フランス語は中学校から始める方針を4月に決定。
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