ホームスクールは憲法で保障されず スイス最高裁判決
スイス連邦裁判所(最高裁判所)は16日、親が通学年齢に当たる子供に自宅で学業を受けさせるホームスクールの権利は憲法で保障されていないとする判決を下した。教育制度に責任を負う各州に対し、ホームスクールの禁止など厳しいルールを作る権利を与えたことになる。
2017年、バーゼル・シュタット準州に住む母親が8歳の息子へのホームスクールの許可を申請したが、州の教育当局が却下。母親が州裁判所に異議を申し立てたが、これも却下された。
母親は連邦裁判所に提訴。州裁判所の判決はホームスクールの禁止に等しく、私生活や家庭生活を尊重する憲法上の権利(私的領域の保護)が侵害されたと訴えた。
州の管轄
連邦裁は判決でこの母親の訴えを却下。判決理由で、憲法の保障する私的領域の保護にホームスクールは含まれないとし、国際条約でもそのような権利は保障されていないと述べた。
ホームスクールを法的に認めるかどうか、認めるとすればどの範囲かを決めるのは各州の管轄との判断も示した。バーゼル・シュタット準州では、通学が不可能だと申請者が証明できればホームスクールが認められる。
連邦裁は過去の判例で、連邦法はホームスクールの権利を保障していないとの判断を示していた。適切な基礎教育を担保するために連邦が定めた法的要件をどう満たすかは、州に決める権限があるとしていた。
判決に対する反応
ドイツ語圏教職員連盟(LCH)外部リンクは通常のシステムで子供に十分な教育機会を提供できるとして、連邦裁判決を歓迎した。「公共の学校は、専門的な訓練を受けた教師や学校マネジメントが整い、子供たちが教育課程に則った能力を獲得できるようになっている。社会的なスキルも重要だ」。ベルン州で教頭を務めるLCHのブルーノ・ルップ理事はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)外部リンクにこう話した。
ホームスクールから通常の学校に復帰した子供は、社会的にも学業的にも適応に苦労するという。
一方、スイス・ホームスクール協会外部リンクのウィリー・ヴィリガー会長は判決に落胆。スイスでもホームスクールに対する認識は少しずつ変わってきていると期待していた。
自身も教師のヴィリガー氏は、妻と共に10人の子供全員に自宅で授業をしてきた。「ホームスクールを通じて家族は一つのチームになる。子供と共に外を出歩いて、生き方を共に学んでいくためだ」とSRFに語った。ホームスクールを受けた子供が社会で苦労するという話は否定した。
ホームスクールを研究する法学者のヨハネス・ライヒ教授は、判決により各州のホームスクール規制が厳しくなる可能性があるとみる。
「政治的には、ホームスクールのルールを厳しくする資格が存在するという意味に理解できた。つまり自宅での授業を認めないとか、(許可には)極めて厳しい条件を課すことなどだ」
2000人がホームスクール
ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーによると、スイスでは約2千人の子供がホームスクールを受ける。専門家によると、数字は増える傾向にある。
現在、ヴォー州はスイス最多の650人にホームスクールを認めている。ベルン州は576人。ヴォー州やヌーシャテル州などいくつかの州では単に申請を出すだけでホームスクールができるが、ベルン州やジュネーブ州は許可制だ。ヴァレー(ヴァリス)州やフリブール州では、親が教員資格を持つことが条件となっている。バーゼル・シュタット準州は事実上ホームスクールを禁止。仏語圏のスイス公共放送(RTS)外部リンクによると、ヌーシャテル州やヴォー州など多くの州はルールを厳格化する方向に動いている。
ドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクによると、スイスではもともと宗教上の理由でホームスクールを選ぶ人がわずかにいるだけだった。今では学校システムに対する不信や新しい家族の理想像など、いろいろな理由がある。現在、全小学生のうちホームスクールを受ける児童は0.2%だという。
各国のホームスクール事情
米国では、全ての州でホームスクールが認められている。宗教的または教育的な理由で子供を学校に通わせないことができる。BBCによると、英国ではホームスクールを受ける子供の数が「激増」している。英政府は、家庭で教育を受けている子供の登録制度を作るべく協議を進めている。
ドイツは原則としてホームスクールを禁止。学校への通学を拒否したために子供4人が施設に送られ、両親が欧州人権裁判所(ECHR)に提訴した事案で、ECHRは両親の人権は侵害されていないとして訴えを退けた。
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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