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未来の織物デザイナー、始まりは「ガラクタ」から

インスピレーションの源となる「ムードボード」を机の前に飾り、デザインのアイデアを懸命にひねり出すルツェルン大学の学生 swissinfo.ch

スケッチ、写真、布きれ、ワイヤーなど、一見ガラクタに見えるものがテーブルや床を覆い尽くす。ルツェルン応用科学芸術大学の学生たちはこうしたものからインスピレーションを得て、オリジナリティあふれる織物デザインを生み出している。

 「プロセスは面白くなくてはいけない。君たちはコレクションを生み出すことを楽しみなさい。物を足したり引いたりする。それが『創造』することなのです」。熱弁を振るうイザベル・ローザ・ミュッグラー講師の話に学生たちは耳を傾ける。ある学生は、ニットウェアのアイデアをまゆをひそめて考えていた。

 ここは、ルツェルン応用科学芸術大学テキスタイルデザイン科。このような学科コースを設けているのはスイス全国でここが唯一だ。ミュッグラー講師は3・4年生の授業を受け持つ。学生はファッションやインテリアなど、織物にまつわるさまざまなものを多面的に学んでいく。

 11月7日から10日まできらびやかなファッションショーが開かれるチューリヒから、車で約1時間。ルツェルンではそんな華やかさはほとんど、いや、全く感じることはできないが、コレクション開催を目指す未来のファッションデザイナーたちがここでデザインを学んでいる。

 学生は各自ティーカップやハンガーなど単純なものを選び、それをベースにしたスケッチやアイデアを2、3週間使って考える。学生たちの発想は無限だ。「最初はこれが何だか分からなかったけれど、いくつかアイデアが浮かんだんです」。カルメン・ボーグさんが選んだのは、自転車のハンドルグリップ。まずはゴム製スタンプのように使った。ハンドルグリップにインクを塗り付け、グリップのゴム部分で太い線を引く。ボーグさんが描いたのは上品な花のスケッチだ。

 「このプロジェクトでは、自分の前回のデザインから前進することが求められています。前のエレメントに戻ることは許されないから、少し難しいと思いました」。ボーグさんは自分で仕上げた100点以上の作品からほんの数点を選び、二つのコレクションのベースを作らなければならなかった。その後、他人の視点を取り入れるため、同じ課題をクラスメートと一緒にこなした。最終的には、他のクラスメートと自分たちの作品を組み合わせたデザインを作り上げた。

ものづくり

 「私たちにとって、ものを作ることはとても大事。実際に作業することで色々なことが学べる。編み物の授業を行い、見た感じはどうか、どんな感触があるかを教えている」と、テキスタイルデザイン科のティナ・モール学科長は話す。編み物に加え、刺しゅうやプリント技術も授業に含まれる。「どの技術にも専門用語がある。学生は自分で布を製造することはしないが、布を製造する技術者と話せるようでなければならない」

 モール学科長の部屋からホールへと下ると、2年生の2人が昼休みを使って織機の使い方を勉強していた。織機からはあらゆる方向に編み糸が飛び出ている。使いこなすのはいかにも難しそうだ。

 「この織り機を使うのは今日で2回目。覚えることはたくさんあるけれど、出来ないことはない」と、マルタ・アルファロさん。2色を組み合わせたジャガード柄を織っているという。

 クラスメートのカルミナ・イバネスさんは赤と緑を選んだ。「メキシコ国旗の色を使いたかった」と冗談を言う。「この色の組み合わせはあまり好きではないけれど、一度作業に取り掛かるとあまり気になりません。重要なのは技術を学ぶことだから」

学際的な視点

 テキスタイルデザイン科の学生たちは、視野を広げるために同じルツェルン応用科学芸術大学の別の学科の学生と協力することもある。

 例えば、2年生の学生は地元の歴史博物館や建築学校と共同でプロジェクトを手掛けている。テーマはイノベーションと伝統。ルツェルンにかつて存在した工芸を蘇らせることがアイデアにある。

 2年生のコーネリア・シュタールさんは中世の商工業組合、ギルドに注目した。「最初は興味あること全てをリストに並べました。次に、自分がイメージするものを一つに集めた『ムードボード』を作るために、インスピレーションを与えてくれるようなイメージを探しました。素材、モチーフ、ストラクチャー、手芸品など、テーマに合ったものです。そこから色を思いつきました」。大学のアトリエにある自分の作業場を指しながらシュタールさんは語る。

 テキスタイルデザイン科の学生には一人ずつ作業場が与えられる。学生はここで新しいデザインのアイデアを生み出していく。1クラスには17人前後の学生がおり、そのほとんどが女性だ。

将来の展望

 シュタールさんがこの分野を学ぼうと思ったのは、織物の用途がファッションやインテリアデザインなどさまざまな分野にまたがっているため、仕事の幅が広いことからだという。

 スイス繊維協会(TVS)のナタリー・リッゲンバッハ広報担当は、若いテキスタイルデザイナーがスイスで仕事を得ることは可能だと話す。「スイスにはシェラー・テキスタイル社(Schoeller Textile)やクリエーション・バウマン社(Creation Baumann)など、織物分野の大手がいくつか存在する。こうした企業はイノベーションに力を入れているので、若いデザイナーへの需要は常にある」

 しかし、外国に行けばもっと仕事があると、ルツェルン応用科学芸術大学テキスタイルデザイン科を2007年に卒業したアニナ・ヴェーバーさんは指摘する。「スイスでは選択の幅が狭い。私はベルギーのアントワープでインターンをしていたが、2005年にスイステキスタイル賞を受賞したクリスチアン・ウェイナンツも同じくそこでインターンをしていた」。ヴェーバーさんは今、ザンクトガレンでインテリア向けのテキスタイルデザインを手掛ける一方、スイス織物博物館にも務めている。

 ルツェルン応用科学芸術大学には、他の分野から転向してくる学生も少なくない。アニナ・フレイさんは洋裁を学んだ後、テキスタイルデザインを目指すことにした。「洋服など織物と関係する職業につきたかったけれど、洋裁はやれることが限られている。だけど、ここではもっとクリエイティブな仕事ができる」

 最も重要なことは創造力だと、前出のモール学科長は強調する。「いつもアイデアがなくてはいけない。アイデアを持ち続けることが、最良の仕事だ」

メルセデス・ベンツ主催のファッションデイズ・チューリヒ(Fashion Days Zurich)は11月7日から10日まで開催。一般客の来場可。

パリ出身のデザイナー、バルバラ・ビュイや、ニューヨークのシャルロット・ロンソンなど有名デザイナーが出展。デザイン賞やコンサートなどもプログラムに盛り込まれている。

スイスの織物・衣類の輸出額は減少が続いている。2011年では前年比でマイナス5.2%の29億9000万フラン(約2500億円)。輸入額も減っており、前年比マイナス1.1%の75億9000万フランだった。

(出典:スイス繊維協会)

スイス繊維協会(TVS)は2000年から2010年まで、優れた若きデザイナーを表彰。今年はファッションデイズ・チューリヒのプログラム内で授賞式が行われる。賞金は数千フラン分の商品券。

スイス繊維協会は11月15日にゴールデン・ヴェルヴェット賞の授賞式を開催。スイスの織物分野におけるイノベーションを映像化した若い映画製作者が表彰対象者となる。

(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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