スイス・ルツェルン大学に留学中の台湾人女性は、新型コロナウイルスの感染が広がる欧州で、アジア人であることでさまざまな差別的言動を受けた。
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新型コロナウイルスの感染拡大で不安が広がるなか、私に最も大きな影響を与えたのはウイルスそのものではなくウイルスのもたらす恐怖心や噂、アジア人に対する烙印(らくいん)だ。コロナウイルスの集団感染が発生して以来、身の周りやニュースでアジア人が差別される事件を多く耳にしてきた。だが私自身は差別を受けてこなかった。今月7日までは。
その日の昼過ぎ、私はルツェルンの市街地のテアター広場にいた。地元の高齢者グループとすれ違ったとき、大きな声で大げさに「気を付けて!気を付けて!」と叫ばれた。
私が近づいた時、私に一番近い所にいた人は私から距離をとる素振りをみせた。その間中、彼らはずっと笑っていた。私の反応を待っていると分かるまで、それらの行動が私に向けたものだと気づかなかった。
私は立ち止まり、彼らに向かって「本気なんですか?ただのジョークでやってるんですか?」と聞き返した。
彼らは笑い続けた。謝りもしないし、自分たちの態度を反省する様子もなかった。
外見からして教養のある高齢者のようだった。この年代の人間が、相手がどう感じるかも考えずに差別的なジョークを飛ばすことにショックを受けた。警察に通報すると脅したが、彼らは意に介する様子はなく、同情も見せなかった。
もっと傷ついたのは、私が友人にこの出来事を話すと、みんな似たような話をしたことだった。多くは学校で、国籍はスイスでも出自がアジアという子供たちに向けられた刃だった。外見だけでいじめを受けたのだ。
共感と尊敬
いじめは絶対に容認すべきではない。実際、スイスに住む人は人種差別撤廃法で守られている。一定の形態の人種差別を禁じる法で、体系的な中傷や名誉棄損は口頭、書面、絵画、ジェスチャー、攻撃行為やその他の手段による人間の尊厳を侵害する行為が処罰される。
スイスの人種差別撤廃法はあらゆる理由の差別を禁止する。例えば人種や性別、宗教、そして最近国民投票で性的指向を理由にした差別も対象に加えることが決まった。スイスの法律では、他人の保護される権利を侵害する場合は「言論の自由」も制限される。この場合は個人の尊厳。
人は他者に共感し他者を尊重しなければならない。これは私たちが今最も必要としていることだ。いじめの発生は、人が態度を変えない場合、正義を実現できるのは法律しかないということを思い出させてくれる。
あらゆるいじめに苦しんでいる人、特に立場の弱い人や子供たちには、まず強くあること、そして必要な場合には個人の尊厳を守るために法的手段を取ることを私からお勧めしたい。
※swissinfo.chでは、スイス国内のテーマやスイスに関係する国外の話題など幅広いトピックスに関して外部の専門家などが書いた記事を配信していきます。さまざまな人の意見を紹介することで、みなさまの意見形成に貢献していきます。社内外の見識者の見解は、swissinfo.chの見解と必ずしも一致するものではありません。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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