難民たちが自国で取得した大学入学資格や学位がスイスで認められることはまれだ。この問題に取り組むスイス学生連盟は、難民にもスイスの大学への門戸がより開かれるよう、当局に要求している。
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シリアやイラクなどの国から逃れてきた難民がスイスで大学教育を受けるのは困難だ。隣国のドイツでは、ある一定レベル以上の教育を受けた難民を対象とした統合プログラムが用意されているが、こうした特別なプログラムはスイスにないからだ。
しかし、問題はこれだけではない。チューリヒで1月に行われた記者会見外部リンクのなかでスイス学生連盟(VZZ / UNES)が説明したように、他にも次のような複数の障壁が立ちはだかっている。
- 難民申請者をスイスの各州に割り当てる際、申請者の語学能力は考慮されない。つまり、フランス語を母語とし、ドイツ語を全く話せない難民がドイツ語圏の地域に住むことを強いられる場合があり、彼らには後に居住地を変える権利も与えられない。
- 入学の条件として高等教育機関は、ヨーロッパ言語共通参照枠(ヨーロッパ全体で外国語学習者の語学習得状況を示す際に用いられるガイドライン)のC1レベル相当の語学力を要求している。だが、難民が語学講座のために政府から経済的援助を受けられるのは、B1もしくはB2レベルに達するまでだ。
- 難民は、自国の高校卒業証や大学入学資格証がスイスの大学に認められない場合、スイスの大学入学資格に相当する試験を受けねばならない。この試験の準備クラスは民間の学校しか開催しておらず、授業料は8千フラン(約91万円)から2万5千フランに上る。これはとても難民が払えるような金額ではない。
- スイスでは、正式に難民と認定された人のみが奨学金を受ける資格を持つが、内戦を逃れてきた人たちの大半には、仮の難民認定証しか発行されない。
こうした現状を踏まえて、スイス学生連盟は、難民が大学などでの教育を受けやすくなるように次の4点について改善を要求している。難民を各州に配置する際に彼らの語学力を考慮すること、入学に際して設定されている語学能力の条件をより緩やかにすること、スイスの大学入学資格に相当する試験の準備クラスを公立の学校で提供すること、仮の難民認定証しか持たない者に対しても奨学金を受ける資格を与えること。
同連盟は数年前から、語学講座の企画などの活動を通して難民たちの援助活動を行っている。
特別扱いはしないが支援はする
チューリヒ大学の学長でスイス大学連盟外部リンクの代表を務めるミヒャエル・ヘンガルトナー氏は、同記者会見で「スイス学生連盟の要求はすでに届いている」と話し、スイスの高等教育機関はすでに難民向けのさまざまな支援プログラムを計画・実施中であると加えた。
だが、同氏は、入学条件である語学能力の基準を「実情に即した方法で」緩やかなものに変えるというスイス学生連盟の要求に対しては慎重な態度を示した。「特定のグループに対してだけ入学許可の基準を下げれば、法律上の問題が起きる」と説明した。
(フランス語からの翻訳・門田麦野)
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