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2017/10/04 14:20
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10月4日は「International Walk to School Day外部リンク (国際徒歩通学デー)」。スイス交通クラブ(VCS)の最近の調査によれば、スイスでは児童の75%が徒歩で通学している。英国や米国の2倍近い数字だ。だが、地域によって事情は少し異なる。
スイスの、とりわけドイツ語圏では、幼い子供も歩いて学校や幼稚園に行く。だが、多くの子供が車やバスで通学する国から来た外国人の親は、この風習に戸惑いがちだ。
今月は国際徒歩通学の日にちなみ、世界の多くの地域で、子供たちが歩いて登校する日が設けられている。スイスでは先月22日に特別行事外部リンク が行われた。
スイス交通クラブによると、学校に歩いて通っている子供はスイスでは75%。英国と米国では約3~4割、ドイツでは2012年の5割が最高だった。
歩いて通学する子供が多いのはなぜ?
同クラブの広報担当マティアス・ミュラー氏は、徒歩通学が多い理由の一つにスイスの伝統を挙げる。昔は大半の母親が主婦だったため、自分たちで子供たちの登校グループを作り、一人の大人が交代で付き添って学校まで歩いて行っていた。今日では働く母親が増えたものの、子供を徒歩で通学させる習慣は残ったと言う。
早い段階で自主性を促進させることもできるといい、ミュラー氏は「スイス国内における連邦国家の伝統と深いつながりがある。自分のことは自分でするという、リベラリズムの健全な感覚だ」と話す。
また、スイスはロンドンやシドニーのような大都市に比べ交通量が少なく、安全なことも理由だという。
一方、6~9歳の子供を車で送迎する親は増えている。同クラブの調査によれば、その数は過去10年間で4割増加した。
「パパママ・タクシー」
親が子供を車で学校に送迎する「パパママ・タクシー」は、特に国内のフランス語圏、イタリア語圏地域で広がっている。ドイツ語圏では、少なくとも週1回、車で学校に送り届けてもらっている子供は全体のわずか11%だが、フランス語圏は5割、イタリア語圏のティチーノ州では63%に上る。
ドイツ語圏の親たちは、特に学校周辺の道路に速度規制(時速20~30キロメートル制限など)があるため、通学路が安全だと感じているとミュラー氏は指摘する。同氏によれば、こうした配慮は他の地域ではあまり見られない。
スイス交通クラブは、学校の校門前に車が並び、そこから子供たちが降りてくるのは危険につながると指摘。徒歩通学は子供の健康にも良いという。
教師たちもこの意見に賛成だ。スイス教員連合のベアト・ゼンプ会長は、子供の徒歩通学に関するウェブサイト「Walk to school外部リンク 」上で、「生徒たちに、毎朝親が車で送り迎えする『Backseat Kids(後部座席の子供たち)』になってほしくない」とコメント。「初めは歩いて通学し、それから自転車に変える方が道理にかなっている。子供の自信や社会性を鍛えられるし、健康的で、肥満防止につながる」とメリットを語る。
フランス語圏の取り組み
スイス交通クラブは現在、徒歩通学を奨励するキャンペーンを展開している。その中でも象徴的な取り組みが「Pedibus外部リンク 」だ。これは4~8歳の子供のグループに一人の親が付き添い、一緒に登校するもの。とりわけフランス語圏では15年前から続いており、地域に浸透している。
同クラブはまた、交通管理体制の向上と自転車専用道路の増設も求めている。
一方、スイスインフォに勤務する親への聞き取り調査では文化の違いが見て取れた。ドイツ語圏の都市近郊では、歩いて学校や幼稚園に行くことが奨励され、子供たちは地元警察の登校訓練も受けていた。一方、都市部では親が交代で子供たちに付き添い登校。チューリヒでは警察が「通学路安全マップ外部リンク 」を発行し、ベルンに住む親は、歩いて登校することで子供の自主性が育つと回答した。
Pedibusの取り組みはフランス語圏の都市ローザンヌを中心に広がっていると報告されているが、フランス語圏では、歩いて登校する習慣があまり一般的ではないようだ。親たちは、学校までの距離が遠い都市近郊ではスクールバスが頼みの綱だと話した。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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親の干渉なしに自由に外で遊んだり出歩いたりするスイスの子どもたち。近年、巷にあふれる凶悪事件の報道が親の不安をあおり、スイスのこの古き良き伝統が危ぶまれつつある。
クリストフ・フンツィカーさん(ビジネスコンサルタント)が赴任先のペルーから家族と一緒にベルンに帰国したのは、今から1年以上前。親の心配をよそに、6歳の息子は初登園日から2日目には、1人で幼稚園に行くことに慣れてしまった。
自宅から数百メートル先にある幼稚園への道のりは大半が団地を通る細い道だが、1回だけ駐車場の前を通らなければならない。日が経つうちに、この場所を安全に通り過ぎることが、やがて大切な儀式のようになった。
「1人で通園するようになってから息子は前よりも自立してきた。より成長したし、責任感も芽生えたようだ」とフンツィカーさんは言う。
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小学校の外国語科目は1カ国語にすべき?
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2016/07/12
チューリヒ州の公立小学校で行われている英語、フランス語の二つの外国語科目について、住民らが言語の習得に十分な授業数が確保されていないなどとして、1カ国語に絞るよう求めた提案を発議した。小学校での外国語教育をめぐっては、国際共通語の英語だけとする方針を打ち出した州もあるが、公用語の一つであるフランス語がないがしろにされれば他の言語地域との連帯感を失うと反発は大きい。
ドイツ語圏地域では近年、児童に何カ国語を教えるべきかという議論が高まりを見せている。チューリヒ州では現在、児童は7歳(小学2年)から英語を学び、11歳(小学5年)からフランス語を学ぶ。
ただ、スイスにとってはセンシティブな問題でもある。公用語が4カ国語あるこの国では、国際共通語の英語を優先するか、他の地域の言語を学ばせて地域間のつながりを維持するべきかというジレンマに突き当たるからだ。
冒頭の発議は住民ら15人が提起。発起人らは、学校で2カ国語を教えること自体に反対はしていないが、小学校で一度に2カ国語を学ぶことが好ましくないと主張している。
発起人の一人でチューリヒ州のハンスペーター・アムシュトゥッツ州議員(福音国民党)は、「ほとんどの児童が、2カ国語の外国語学習で良い成績を出せていない。授業は週にそれぞれ2時間しかなく、言語の習得には不十分だ」と訴える。
アムシュトゥッツ氏は中学校教諭でもある自身の経験から、2カ国語教育についていけるのは成績の良い児童だけで、大半は問題を抱えるという。教師にとっても負担が大きく、外国語以外の科目がおろそかになると訴える。
この住民発議はチューリヒ教職員連合など、複数の州教職員連合が賛同。小学校でまず第1外国語に集中し、中学校で第2外国語を学ぶシステムにすれば、2カ国語を一度に勉強するより、第2外国語の習得が早いとしている。ただ、英語とフランス語のどちらを先に教えるべきかには触れていない。
なぜ住民発議なのか
なぜ住民発議が必要だったのか。それは、小学校のカリキュラム変更には州法改正が必要だからだ。通常は州教育委員会が決定するが、住民が発議を通して法改正のきっかけを作ることができる。
アムシュトゥッツ氏は「州の教育方針はこれ以上動かない。外国語教育が、教育にかかわる政治家の威信につながってしまっている」と批判。そのため、住民発議で政治的な議論を呼び起こし、スイス相撲「シュヴィンゲン」の投げ技のように「(制度改革に反対する)相手をひっくり返したかった」と話す。
住民発議の提起には6千筆以上の署名が必要だが、アムシュトゥッツ氏らは9270筆を集め、今年2月26日に州の司法当局に提出。3月14日に受理された。
一方、同州では2006年11月にも似たような発議が住民投票にかけられたが、59%の反対で否決された経緯がある。
アムシュトゥッツ氏は「あれから10年近く経ち、人々は(早い時期に二つの外国語を同時に教えることが難しいという)事実を知って我に返ったはずだ」として、前回と同じ結果にはならないと期待する。
フランス語?英語?それとも両方?
小学校で何カ国語を教えるべきか、また英語、フランス語のどちらを先に教えるか。ドイツ語圏のトゥールガウ州、ルツェルン州、グラウビュンデン州では新たな教育方針などをめぐって波紋が広がっている。
トゥールガウ州は2018年以降、小学校の外国語の授業は英語だけとし、フランス語は中学校から始める方針を4月に決定。
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