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いろんな墓碑があっていいじゃない

チューリヒ市ヴィティコン墓地。故人は、生前ヨットを愛したのだろうか swissinfo.ch

何事にも細かな規定を作り、美観と秩序を重んじる国スイス。それは人が最後に行きつく場所、永遠の眠りのために確保された一角でも同じことだ。

墓地に建てられる墓碑もこれまでさまざまな制約に縛られてきたが、チューリヒ市はこのたび94年前に定めた規定を緩和することにした。墓地も近代化というわけだ。

墓地にふさわしい素材

 チューリヒ市ヴィティコン(Witikon)地区のヴィティコン墓地。青々とした芝生が広がる中に小川あり、灌木(かんぼく)群ありと、公園と見間違えそうな雰囲気だ。木陰を挟んで、墓石の一群がここそこに散らばる。

 スイスでよく見かける、日本の墓石を薄くしたような縦長の墓石が10列、20列と整然と並ぶ。高さは最高110センチメートルまで、幅は最高60センチメートル、厚さも最高40センチーメートルと定められている。石の色はさまざまだ。

 十字架の形をした石や木が墓碑になっている墓も少なくない。自然石のほか、錬鉄、硬木、ブロンズも墓碑の素材として認められている。一方、鋳鉄や針金、モザイク、エナメル、ガラスなどはご法度だ。

 「例えば錆びやすい鋳鉄は以前、錆びたときの『見た目が良くない』と取られ、『劣等』だと判断されたのではないか」とその理由を推測するのはチューリヒ市埋葬・墓地局墓地・墓碑文化担当のクリスティーネ・ジュースマン氏だ。

 また、モザイクやエナメル、ガラスなどの光沢物はこれまで目立ちすぎるという理由で禁止されてきた。「芸術性の高い墓碑のデザインが目立つならともかく、素材が目立ちすぎるのは認められなかった」。だが、新しい条令では創造に必要な1要素としてこれらの素材も認められるという。

墓碑文化の衰退から脱する

 ヴィティコン墓地の墓碑群の中には、「普通」の墓石に交じって、石の上に等身大ほどのバンビや本を読む男性のブロンズ像が載せられたものや、規定内の大きさの四角いステンレスの枠の中に大きさも色も形もさまざまに異なる石を積み重ねてはめ込んだ墓碑もある。

 奇抜なのは墓石の中をくりぬいてガラスをはめ込み、その中に大きな白い歯の模形を据えた墓碑だ。故人はおそらく歯科医師だったのだろう。これらの一風変わった墓碑は禁止されているが、市はこれまで目をつぶって特別申請を認可してきた。

 チューリヒ市の墓碑に関する規定はもともと1917年に導入された古いもの。それをベースに1964年条令として発効、1986年に一部改正された。導入当時の墓地にはピカピカに研磨された墓石もあればガラスの墓碑もあり、石の色もさまざま、故人の写真や宗教的な飾りが添えられるなど、墓地内は雑多な雰囲気にあふれていた。

 この多様性は20世紀初頭、「墓碑文化の壊滅的な衰退」であり「墓地文化の荒廃」だと受け止められた。「死んだらみな同じ」という原則に重きが置かれ、墓碑は目立ってはならず、「美観を保ち、周囲との調和と墓地の静かな雰囲気を壊さない」ものに制限されていた。

何が美で何が醜か

 しかし、現在では個性が尊重されるようになり、何が「美」であり何が「醜」なのか、意見の一致をみるのが難しくなっている。そのため、墓碑の規制から「美」の条項を取り除き、今後は墓地全体の雰囲気、安全性、差別的メッセージの禁止を中心に、墓碑申請の認可を行うことになった。

 「実際には、認可の基準は多くの観点でもうすでにかなり前から緩くなっている。今回の法改正は現実に合わせたもの」とジュースマン氏は言う。新条令は今年9月に施行される予定だ。

 これにより、遺族はこれまでより自由に故人の生前の特徴を墓碑に表すことが可能になった。墓地は最近、憩いの場としても活用されるようになってきているが、これからは芸術作品のような墓碑を楽しみながら散策する人が増えるかもしれない。

現行の条令は1917年に定められた市営墓地の墓碑と植樹に関する規定をもとに、1964年に条例発効、1986年に一部改正された。

その細かな制限は現代の多種多様な創作意図に対し、時代遅れとなった。現在、墓地や霊園の在り方は変わり、規定外であってもその中に完全に溶け込む墓碑が多くなった。現条令では、そのような墓碑を建てる場合にも特別な申請が必要。

美的感覚も変化し、「美」を認可の判定基準にして墓碑のデザインを制限することが難しくなった。

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