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アラブの春から2年、スイスから民主化を支援

スイスに住むアラビア人たちは連携し合い、アラブ諸国の民主化への道を支援する swissinfo.ch

中東・アラブ世界を中心に起こった大規模な民主化運動「アラブの春」から2年。さまざまな困難が民主化移行を阻みながらも、革命の熱狂が「民主主義の未来」への考察へと変わっていく中、スイスにおけるアラブ人活動家たちに焦点を当てた。

 2年前の12月17日、チュニジアの青果商の青年モハメド・ブアジジが度重なる当局の取り締まりに対し抗議の焼身自殺を行った。これを発端にチュニジア全土に民主化運動が起こり(ジャスミン革命)、それはエジプト、リビアへと広がっていった。

 2年後の今、ブアジジが灯した革命の炎は消えることなくイエメン、バーレーン、クウェートにも広がっている。

 一方、チュニジアやエジプトでは民主主義の構築へ向けての模索が続く。それは、民衆が自分たちの権利を一歩一歩獲得していくための長い道のりだ。

スイスのアラブ人活動家たち

 こうした中、スイスのアラブ人活動家たちは民主化への過渡期にあるアラブ諸国を支援する目的でさまざまな行動を起こしている。それは、特に政治、人権、経済の分野で行われている。

 スイスインフォが話を聞いた活動家たちは、皆口をそろえて「アラブの春を経験した国々の状況を評価するのは、まだ時期尚早だ」と言う。それでも「革命後の今」は、こうした活動家のさまざまな証言を通して明らかになってきた。

 例えば、ジュネーブに本部を置くアラブ人権保護団体「アルカラマ『尊厳』(Al-Karama)」の設立者で現会長のラシッド・ムサリ氏は、「エジプトやチュニジアでは、基本的自由は侵害されることもあるが、以前と比べるとずいぶん尊重されるようになった」と話す。

自由の拡大

 リビアでも似たような状況だという。「自由権と人権に関するリビア国民議会」のメンバー、カレッド・サレー氏は、「状況は劇的に変化した。自由の領域が大きく拡大されたのだ。まず、デモや政治グループへの参加を禁止する法律が廃止された。そして今や、表現の自由への道が開かれた」と語る。

 しかし、「治安部隊が、過去長期間にわたって独裁者側の手中にあったこれらの国々では、まだまだ解決すべきことは山積みだ」と、前出のムサリ会長は指摘する。

スイスのアラブ人活動家たちは、これまで全体主義体制に苦しんできた国では、自由を確立し法治国家を構築することが、大きな挑戦になることを熟知している。

 ただ、活動家たちは希望を捨てたわけではない。むしろ、独自に民主化へのロードマップを作成し、それを尊重しながらこれまでに成果をあげた「アラブの春」諸国に満足している。いくつかの国では革命後、正当な国民選挙にこぎつけた場合もあるからだ。

 これらの国の憲法制定草案については、「新しい草案は積極的で建設的な多くの要素を持つとしても、まだ完璧ではない」とムサリ会長は認める。ムサリ会長によると、例えばエジプトの憲法案は拷問を禁止する国連協定を反映していないという。 

調停に向けた自主的活動の拡大

 ここで、前出の人権擁護団体「アルカラマ」の役目は、その他の革命支援組織と同様、単なる受け身の傍観者にとどまらないということに言及する必要がある。アルカラマは、例えばエジプトの政治機関や議員にさまざまな助言を与えてきた。

 しかし、この積極的な活動も衝突なしには進まない。ローザンヌに拠点を置き、チュニジアで人権を擁護するNGO「真実と行動(Vérité et Action)」のサフワ・イサ会長は、(革命後の方向性に関し)二つの陣営が対立する場面に度々遭遇してきた。思想と信教の自由を主張する陣営と報復の理論に駆り立てられて行動しようとする陣営だ。

 こうした困難を自覚しながらも、スイスのアラブ人コミュニティーは調停に向け自主的な活動を拡大してきた。「在スイス・チュニジアコミュニティー 」のモハメド・エルジュリビ会長は説明する。「革命以前は、それぞれのアラブ社会が分散して努力を続けていたが、現在は相互に協力して働こうと努めている」

 CTSはいったん途切れていた会員とのつながりを回復し、学位取得者によるセミナーを開催している。チュニジア人に、母国で何が起きているのかを分かりやすく解説するのが目的だ。そのセミナーの一環として、チュニジアから制憲国民議会議員が招かれ、スイスの同胞に新憲法の枠組みが紹介された。

アラブコミュニティーの多岐にわたる活動

 CTSが憂慮する切迫した問題の一つに、不法移民問題がある。その対策としてCTSは緑の党(GPS/Les Verts)及びヴォー州と連携して、(チュニジアからの)移民に職業訓練の機会を与え、経済的支援をし、最終的に祖国に戻れるよう促すプロジェクトを整えている。

 別のコミュニティーでは、別の自主的活動が行われている。2011年、スイス在住のリビア人によってソロトゥルン州オルテン(Olten)に通信社が設立された。

 革命前リビアで何が起こっているかを知るためには、現地の通信員や知り合いに頼るしかすべがなかった。ディレクターのサレー・マグドウブ氏は、打ち明ける。「当初私たちの仕事は、第一に、革命がもたらした政治路線の変化と、民主化移行の経過を把握することだった」

 今、リビアが新しい局面を迎えたことによって、通信社はリビアにその活動拠点を移し、現地からラジオとテレビを使って情報を発信している。

革命は、アラブ諸国へ貧困と社会的危機をもたらした。この状況を受け、スイス国内でもアラブ諸国に対する連帯が生まれ、募金活動や開発援助が始まった。

「スイス・エジプト代替医療援助(SEAMA)」は、その一つ。1998年設立。拠点はチューリヒで、医療ケアの提供と経済的支援が目的。最近、新しく医療施設がエジプトに建設された。また、エジプト社会から取り残された人たちに将来の可能性を提供するため、簡単な計画やわずかな経済的支援ででも新たな人生のスタートが切れる人たちを救おうとしている。

「持続可能な発展のためのスイス・チュニジア協同組合(CSTDD)」もある。これは、スイスのフランス語圏を中心に積極的に活動しており、チュニジアで貧困にあえぐ人々を援助し長期的なサポートを目指す。

その他にも、「シリア医療援助団体連合(UOSSM)」がある。UOSSMはパリに事務所を持ち、スイスを含めたヨーロッパ各国に代表者を置き、医薬品、医療用品、救急処置のための物資などをシリアへ運んでいる。

政治色を持たず、宗教的に中立で、非営利の「在スイス学位取得チュニジア人の会(TUNES)」は2011年5月に設立された。TUNESは連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)からも正式に認可されている。

TUNESの若い会員たちは、大学などスイスの高等教育機関の出身。

TUNES の第一の使命は、スイスのチュニジア人留学生を支援し、スイス生活のサポートをすること。

現在二つの計画が進められている。一つは、チュニジアの学校などに文具や学用品を送り、教育分野の支援をする社会的プロジェクト。これはスイス企業や銀行の協力によって実現されている。

もう一つは、長期的経済支援。チュニジアに投資家を誘致し、現地の同業者との連絡や交渉をサポートする。

(仏語からの翻訳・編集 由比かおり)

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