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コロナ危機が照らした持続可能農業への道

野菜
ゴットリーブ・ダットワイラー研究所の専門家は、動物性たんぱく質から脱却する時だと訴える © Keystone / Christian Beutler

新型コロナウイルス危機は世界の食料システムの弱点を浮き彫りにし、同時に改革への道筋も照らした。専門家は自然、人工、ハイテク技術を融合した新たな食料生産を呼び掛ける。

チューリヒ近郊にある経済社会シンクタンク、ゴットリーブ・ダットワイラー研究所外部リンク(GDI)のダヴィッド・ボスハルト氏は「パンデミック(世界的大流行)のショックから学んだのは、すでに壊れた食料システムに我々がどっぷり浸かっている、ということだ」と話す。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界的なロックダウン(都市封鎖)は国際・地方レベルの食料サプライチェーンに大きな混乱を引き起こした。

農家は通常、市場に行って飼料、種、肥料を購入したり、そこで製品を販売したりするが、移動の制限によって市場へのアクセスが限られてしまった。輸送システムの停止により、生鮮食品は投棄するか、破格で直売するようになった。

スイスでは2020年3月17日深夜零時、必須サービスを除く全店舗・商業施設の営業停止が始まり、ホテル、レストラン、ケータリング部門が一夜にして姿を消した。新鮮な食材を売る青空市場、小規模小売業者も同様だった。

外国から出稼ぎに来る農業労働者も渡航制限で足止めされ、バングラデシュから米国に至る世界各地の農場で、新鮮な農産物が行き場を失った。と殺場は規模を縮小して稼働し、世界中の食肉処理場が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のホットスポットになった。

間違った軌道

GDIが主催した食品の将来に関するオンライン討論会で、ボスハルト氏は現行システムが間違った軌道にあると指摘した。特に懸念しているのは、このシステムが増え続ける世界人口を養うため、生産を増やし続けなければならない点だという。世界の食料生産は2050年までに50%増やす必要があると言われている。

現状のまま進めば、「森林とサバンナが耕作可能な土地に転用される。それによって生態系が失われ、集中的な単一栽培によって、より多くの土地が劣化する」。ボスハルト氏はそう警告した。

農地の3分の1はすでに劣化している。環境への負の影響は別として、自然界に農業の多大な影響を及ぼすと、野生生物から家畜、そして動物から人への病気の感染リスクが高まる。

それを裏付ける事例が今回の新型コロナウイルスだ。このウイルスはコウモリ由来で、中間種を媒介してヒトに達したと言われている。

養殖の肉

よりクリーンな農業システムを実現するためには人間が食生活を変えなければならない、とボスハルト氏は言う。動物性たんぱく質は現在、世界で消費されているたんぱく質の3分の1を占め、同時に人工温室効果ガスの14.5%を生成している。ボスハルト氏は、このような動物性たんぱく質から脱却する時だ、と呼び掛ける。

動物性たんぱく質の代替品には、植物性たんぱく質、養殖肉、発酵性たんぱく質がある。

GDIの討論会に参加した、イスラエルで食品技術スタートアップ企業支援を行うフレッシュスタートのタミー・メイロン氏は、バイオリアクターと呼ばれる装置で組織サンプルから培養できる養殖肉の開発を議論した。

メイロン氏は「これらのテクノロジーはスケールアップ(規模拡大)、手頃な価格設定という課題が残る。だがニーズが非常に強く、将来性もあるため、いずれそこに到達するだろう」と強調した。 「植物ベースのたんぱく質と養殖肉のたんぱく質を組み合わせたハイブリッド製品から始めたい」

メイロン氏は、これらの製品が今後10年以内に広く受け入れられるとみる。「今後3〜5年のうちに、最初のパイオニア的製品が小規模で市場に出てくるだろう」

都市農業

パンデミックはまた、グローバル化されていない食料サプライチェーンの必要性を浮き彫りにした。その主な要因は、世界規模の都市人口の増加だ。2050年までに世界の推定68%が都市に住むようになるといわれ、2016年の55%から増加している。

有機農業研究所のウルス・ニグリ氏は討論会でこの問題を取り上げ、メキシコシティやイスタンブールなど1千万人超の人口を抱える大都市は特に脆弱だと語った。食料生産の依存性を低くするには、農村部からの輸入ではなく地産地消が1つの方法だという。

ニグリ氏は、都市の食料生産には2つの傾向があるという。1つは個々の市民による都市部のガーデニング、そしてもう1つはハイテク技術を使った生産場だ。「将来、すべての食料の5%~10%が都市で生産される可能性がある」。

ニグリ氏は「私たちは100%人工的な条件下で、優れた食品を生産できる。工業用の建物や屋根の上だけでなく、空き地に多くの畑を耕し有機栽培が行われるようになるだろう」

しかし、農家や食品加工業者は依然、主要なサプライヤーでであり続けるという。そうした人々もまた、様々な科学的知見を持つ研究者と協働し、より環境に優しいソリューションを模索していくことが必要だという。

ニグリ氏は、研究界について「優れた知識を持つが、持続可能な農業システムを効率化できない。それにはシステムの実情をきちんと理解しなければならないからだ」と語った。

ソーセージよさようなら?

ニグリ氏は持続的な畜産も可能だとしたが、食肉価格の上昇などは避けられないと語った。

現在、世界の穀物の3分の1は、主に鶏肉と豚などの家畜用飼料に使われている。ただこれほどの規模を無限に続けることは不可能だ。世界では毎年、推定500億羽のニワトリ、15億匹のブタが食用に屠殺されている。

ニグリ氏は「私たちは今後、食品廃棄物を鶏や豚のえさにするという方法に行き着くかもしれない。そうすればそのセクターを完全に失うことは防げるが、それでも人間と動物の間で穀物の取り合いが生じ、大幅に削減されるだろう」という。

パンデミック中は食品廃棄物の問題も浮き彫りになった。動物が何の理由もなく処理され、畑では農産物が収穫されぬまま腐っていった。

連邦環境省環境局によるとスイスの食料消費では通常時、年間280万トンの回避可能な食品廃棄物が出ている。これは国内、国内の食物連鎖のすべての段階を考慮した数値だ。

ボスハルト氏は「この危機を無駄にしないでほしい」という「『ニューノーマル』は来ない。旧来のノーマルは、悪いものだったのだから。不適切な食料生産が続く不健康な星に、健康な人が住むことはできない」

(英語からの翻訳・宇田薫)

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