髪型を表現するのは難しい?手話で「アラン・ベルセ」と伝えるアラン・ベルセ大統領
SRF-SWI
ユーモアに言葉の壁はない。2018年のスイスの手話の流行語大賞「サイン・オブ・ザ・イヤー」に、輪番制の大統領を今年担ったアラン・ベルセ氏が選ばれた外部リンク のもその一例だ。だがスイスの手話そのものにも「壁はない」と言えるのだろうか?
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2018/11/29 06:00
2018年のスイス連邦大統領を手話で示すのは極めて簡単だ。親指と人差し指で、頭髪がない様子を表現すればよい。
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スイスろう連盟外部リンク がスイスドイツ語圏を対象に手話の流行語大賞を設けたのは16年。「ドナルド・トランプ」が初代大賞に輝き、昨年は「ロジャー・フェデラー」が受賞した。
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「アラン・ベルセ」の語源は?
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2018/11/29
「アラン・ベルセ」を表す手話の誕生秘話。
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スイスで「アラン・ベルセ」の名が綴りではなく手話の一つに昇格したのは、同氏が8月1日にリュトリの丘で建国記念日の演説をしたときからだ。今年初めて、スピーチと国歌が手話で伝えられた。これはスイスで手話に対する認識が高まっていることを示す。だが果たしてスイスの手話環境はどれほど整っているのだろうか?
手話は独自の文法を持つ独立した可視性の伝達方法だ。スイスでは三つの公用語にあわせ、ドイツ語、フランス語、イタリア語の手話があり、方言もある。 だが手話は単に話し言葉をジェスチャーに置き換えただけではない。他のすべての言語と同じように、時とともに独自の発展を遂げている。
正確な統計はないが、スイスのろう者は1万人、難聴者は60万人いるとされ、その多くが手話を活用している。
手話による政治情報を求めて
スイスは14年、国連の障害者権利条約外部リンク に批准した。障害を持つ人も持たない人と同じ権利を有し、社会に参画できるように環境を整えることを定めたものだ。障害者は何かが「欠けている」との偏見を打ち砕き、ただ「異なるニーズがある」と謳った。
今のところ手話はスイスの公用語ではないが、チューリヒ州とジュネーブ州では州憲法に明記されている。この点でスイスは障害者権利条約の定めを満たしていないと、スイスろう連盟は指摘する。話し言葉と手話が完全に分離してしまっているためだ。
スウェーデンでは手話は少数派の言語として認められ、ニュージーランドでは正式な公用語だ。
2017年秋、ろう・難聴者がオンラインで手話による政治情報を視聴できる環境の整備を求め請願活動を行った。首都ベルンなど一部の都市では障害者らが手話によるテレビ電話で対話するなど、そうした社会が実現可能なことを証明して見せた。
手話を禁止する学校も
スイスの学校では長い間、手話は「サルの言語」とさげすまれていた。ジュネーブやチューリヒでは1980年代まで、ザンクト・ガレンでは90年代まで学校での使用が禁止さえされていた。話し言葉に悪影響が出るのではないかと教師らが懸念を抱いたためだった。
ろう・難聴の子供は授業中に手話を使うと指を叩かれるなどの罰を与えられた。特別支援学校でさえ、ろう・難聴の子供は話し言葉や書き言葉を覚えるよう強いられた。
今日では障害のある子供も多くは普通の学校に溶け込んでいる。ただ問題がないわけではなく、みな授業についていくのに大変な思いをしている。高等教育や大学への進学は大きな壁だ。聴覚障害者が「バイリンガル」授業を熱望する理由はここにある。
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シカラさんは、聴者の教師とともにろうの子供たちを教えている。それによって、子供たちは手話と、口述と筆記の口話の両方を同時に学ぶことになる。 スイスろう連盟によると、このようなバイリンガル教育は非常に効果的だが、スイスの…
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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スイス大統領の目線
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アラン・ベルセ氏は年末をもって輪番制の大統領の務めを終える。一年を通して、ベルセ大統領には一人の若いカメラマンが付いていた。彼の任務は、一貫して大統領の視点から撮影するということだった。
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聴覚障害のある子供たちのニーズに応える
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スイスでは、ろうの子供の多くが一般の学校に通う。しかしスイスろう連盟によると、その大半が苦労しているという。同連盟は、手話と口話(聴覚障害者が、相手の音声言語を読話によって理解し、自らも発話により音声言語を用いて意思伝達を行うこと)に同等の比重を置いた、よりバイリンガルな対応を求めている。
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手話の流行語大賞、「ロジャー・フェデラー」に
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スイスろう連盟は6日、手話の流行語大賞「サイン・オブ・ザ・イヤー」に男子テニス選手の「ロジャー・フェデラー」を選んだと発表した。フェデラー選手は連盟のサイトで、覚えたての手話を使ってファンに喜びのコメントを送っている。
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政治情報を手話で スイス人ろう者たちが要望
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2017/10/08
国民投票の情報冊子や連邦政府の法案の解説を、インターネット上で手話で提供してほしい。そう主張するスイスろう連盟(Swiss Federation for the Deaf)が、連邦内閣事務局に誓願書を提出した。
「聴覚障害者の言葉は手話だ。書き言葉のドイツ語は外国語であり、読めるようになるのに大きな労力を要する。この外国語で複雑な政治的内容を理解しなければならないことが、情報へのバリアフリーアクセスを定めたスイス国内法および国際法に反する、不必要な障害となっている」という。
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第1回サイバスロン熱闘 身障者とロボ技術開発者が一丸に
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スイスのチューリヒで8日に開催された国際競技大会「サイバスロン」には、ロボット工学の研究者やベンチャー企業など、世界25カ国から70以上のチームが参加。選手と開発チームが一丸となり、それぞれが開発した身体障害者のための補助器具の性能を競った。参加した7つのスイスのチームのうち、脳コンピュータインタフェースレース部門で「ブレイン・トゥイーカーズ(Brain Tweakers)」が、電動車いす部門では「HSRエンハンスド(HSR Enhanced)」がそれぞれ優勝し、FESバイク部門では「IRPT/SPZ」が3位に入賞した。
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