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ジェンダー平等達成にかかる時間 1世代分遠のく

キッチンに立つ女性
ジェンダー平等の実現には、あと1世代かかるという Akg-images / Horst Maack

育児や介護といった「ケア労働」が有償の仕事と認められたら、スイスで最大の経済部門になるだろう。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で深刻な負の影響を受けたのは、まさにこのケア労働だった。

スイスでは、有償の仕事よりも無償のケア労働の方が多い。パンデミック中は、まさにこの無給の仕事が最も多く行われた。

ケア労働の大部分を担う女性が、パンデミックのツケを払うことになってしまった。その結果、人類は世界の男女平等への道からまた一歩後退した。

経済学者でパブリシストのハンス・ルシネク氏はドイツのラジオ番組で、ケア労働を一般の経済学の「盲点」と表現。「思い浮かべてみてほしい。経済情勢を分析するときに、最大のセクターを含めるのをすっかり忘れてしまっていたら、ということを」と皮肉交じりに語った。

単に無視される存在

ビールの消費量や自動車の生産量はバランスシートに記載されるのに、経済が依存する介護や環境などの分野は隠れたままだ。その結果、例えば女性の子育ての仕事は、経済とは全く切り離されてしまったという。

ザンクトガレン大学で経済の変化を研究し、博士号を取得したルシネク氏は「三重の皮肉だが、ケア労働の役割はほとんど重要視されない。しかも無給か低賃金で、主にそれを担っているのは女性だ」と指摘。この経済論理の結果が、現実のゆがんだ理解につながっているという。

無償の労働とは、金銭が支払われないが、理論的には第三者が報酬を得て行うことが可能な活動のことを指す。家事や家庭内の労働、団体や組織でのボランティア活動(制度化されたボランティア活動)、世帯を異にする知人や親戚のための個人的な手伝い(非公式なボランティア活動)などが含まれる。

引用:連邦統計局

このように、経済的にも社会的にもケア労働を軽視する考え方が、以下のような現状を生み出している。貧困撲滅を目指すNGOオックスファムの昨年の調査によると、世界の女性の平均収入は男性よりも23%少なく、不安定な仕事や低賃金の仕事をしなければならないという結果が出た。

さらに、男性の所有財産は女性よりも50%多かった。女性は社会的に十分守られておらず、年金を受給する可能性も低い。定年時に年金受給のない人の約65%が女性だ。

女性は男性より長く働く

オックスファムは、この差は女性の労働時間が男性よりも短いか、あるいはほとんど働いていないか、という要因が関係していると指摘する。だがこの仮定は間違いだ。世界のどの地域でも、1日の平均労働時間は女性の方が長い。男性と異なるのは、女性の労働の半分以上に報酬が支払われていないことだ。

オックスファムによると、世界で不平等の主な要因となる無償労働、つまり家事、介護、(他人の)世話の4分の3を女性が担っている。

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世界経済フォーラム(WEF)のマネージング・ディレクター、サーディア・ザヒディ氏は「コロナ危機がこうした不平等をさらに悪化させた」と話す。パンデミックは、職場や家庭内平等に甚大な影響を与え、ジェンダー格差改善における長年の進歩を後退させてしまったと言う。

WEFの報告書「グローバル・ジェンダー・レポート2021外部リンク」によると、世界のジェンダーギャップを解消するために必要な時間は、これまでの99.5年から135.6年へと1世代分増えた。

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その理由には、コロナ危機の中で「典型的な女性の仕事」が求められたからだ。マーケットリサーチ会社IPSOS外部リンクの調査によると、感染対策措置としてケア関連施設が閉鎖されると、家事や育児、高齢者の介護などの責任が女性に偏り、ストレスの増加や生産性の低下につながったことが分かった。

ケア労働は女性の仕事

さらに、ロックダウン(都市封鎖)の影響が最も大きかった職業に従事するのも、女性の方が多い傾向が出た。WEFの分析では、自宅介護が理由でさらなる困難も生じていたことが分かった。

スイスでも、ケア労働はほぼ女性の仕事だ。連邦統計局の今年の報告書によると、パートナーと15歳未満の末子を持つ母親は、家事に費やす時間が父親の約2倍の週30時間に増えた(前年は週17時間)。育児も同様で、母親は週22.3時間だったのに対し、父親は週14.7時間だった。

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WEFは、複数の大規模経済・産業で、男女平等への進展が遅れていると指摘する。教育・健康セクターではほぼジェンダーギャップが解消されつつある(解消まで14.2年)が、ビジネスセクターでは依然、ギャップが最も大きい。

このギャップが閉じるまでには、あと267.6年もかかる見込みだ。このプロセスの遅さは、逆方向のトレンドが原因になっている。つまり有資格の専門家に占める女性の割合は上昇し続ける一方で、賃金格差は依然残り、幹部職に就く女性は少数というトレンドだ。

未来は明るくない

ケア労働の負担だけでなく、ほかにもジェンダー格差を今後さらに悪化させる要因がある。それは女性が社会的な職業に関心が高く、給料の高い技術職にはあまり就いていない、ということだ。

これらはWEFがまさに「明日の仕事」と期待する職業だ。例えば、クラウドコンピューティングでは、従事者に占める女性の割合は14%、エンジニアリングでは20%、データ処理・人工知能では32%にとどまる。

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オックスファムによれば、「報酬が支払えない、そして無償の」ケア労働は多くの場合、得るもののより少ない雇用を意味する。その結果、経済的・文化的参加が制限され、政治の場で意見を反映されることも少なくなる。酷い場合、待っているのは老後の貧困だ。オックスファムの見解では、この「苦い真実」は、結果的に矛盾を生む。ケア労働は社会にとって豊かなものであるにもかかわらず、ケア労働を担う多くの女性を貧困に陥れている、という矛盾だ。

改善策は?

この差別を解消するために、WEFなどは政界に対し、ケア産業への投資や、働く男女が平等に育児休業を取得できる制度作りを求める。

「男女の職業差別」を克服するための対策や「ジェンダーの視点を考慮した、キャリア途中での効果的な資格取得措置」も求められるという。さらに管理職に対し、採用・昇進を決める際には「賢明で偏りのない」手法が必須だとした。

オックスファムはさらに、分配ベース・ジェンダー対応型の税制を推奨する。例えば、世界の1%の最富裕層が0.5%の富裕税を払えば、介護、教育、健康分野で最大1億1700万件の雇用に必要な費用が捻出できるという。

(独語からの翻訳・宇田薫)

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