スイスで増え続ける肥満 3色の食品ラベルを導入か
スイス人の2人に1人以上が太りすぎだという統計結果を受け、脂肪分や塩分、糖分の高さに応じて食品にラベルを貼るというシステムがスイス国内で検討されている。
チューリヒを拠点にしている「スイス肥満対策財団(SAPS)」は脂肪分などの高さを信号と同じように、赤、黄、緑の3色のラベルを使って評価するシステムの導入を求めている。
その目的は、スーパーなどで販売されているどの食品が肥満による健康問題を抱えている人に悪いかを消費者が簡単に理解できるように警告することだ。脂肪分、飽和脂肪分、塩分、糖分などのレベルが高ければ赤色、中レベルは黄色、低レベルは緑色のラベルで表示する。
「既に太りすぎていて、食品を慎重に選ばなければならない人たちにとってこのシステムは役に立つ」とスイス肥満対策財団の会長、ハインリヒ・フォン・グリューニゲン氏は語る。
財団は以前からこのシステムを導入するように働きかけてきた。そこへ10月中旬に連邦内務省保健局(BAG/OFSP)がスイス人の塩分摂取量が過剰だという詳細な報告書を発表した際に、スイス人の53%が太りすぎだということが明らかになったため、システム導入は緊急の課題になった。
世界保健機関(WHO)の規定では、肥満の程度を表すボディマス指数(BMI=体重[kg]÷身長[m]2)が25以上の場合は太りすぎに、30以上の場合は肥満に分類される。
統計結果に疑いの余地あり
スイス人の肥満に関する最新のデータは衝撃的だった。連邦保健局は5年ごとに調査を行うが、2007年の時点で肥満だと判定されたスイス人は37%で、ほかのヨーロッパ諸国の平均値よりも下回っていた。
しかし、これまでの統計結果はかなり過小評価されていたと財団は判断している。「我々は統計の値が常に低く見積もられていることを知っていた」とフォン・グリューニゲン氏は語る。長時間椅子に座るライフスタイルになり、食生活の変化、ファーストフードの普及によって太りすぎの人々が増え、スイスも世界の国々と同様の問題を抱えている。
そのため「スイス人が同じヨーロッパの隣国で暮らすドイツ人、フランス人、イタリア人よりも体重が格段に軽いということはあり得ない」とフォン・グリューニゲン氏は懐疑的だ。
2007年に行われた調査方法についても疑問が残る。当時は、電話で質問をして調査を行ったが、これはWHOでは認められていないとフォン・グリューニゲン氏は説明する。人は体重について本当のことを語らない傾向があり、実際の体重を知らないという人もいると言う。
塩分摂取について行われた調査は、1445人のボランティアの体重を実際に測定しており、より信頼できる評価指標になっている。しかし「極度の肥満の人やそれが原因で病気になっている人はこの調査には参加していないと判断している」とフォン・グリューニゲン氏は慎重な態度を崩さない。
肥満に関する新しい統計結果は恰好の批判材料になり、肥満対策財団や健康評論家は、当局に対応策を取るよう促している。しかし、全ての人たちがラベル方式に賛成しているわけではない。
3色のラベル案はEU内で否決
イギリスではこのような3色のラベルを使った評価システムを既に数年前に英国食品基準局(FSA)が導入している。しかし、昨年、欧州議会は欧州連合(EU)全域において類似の制度導入を求める法案を否決した。
独立した研究者や英医師会(BMA)といった保健機関は、3種類の色を使うことは食品を購入する際に何が健康な食品かを消費者に知らせる最も簡単な方法だとアピールした。しかし、食品製造業者はこの提案を阻止するために数百万ユーロを投じた巨大キャンペーンを開始した。チーズといったカロリーが高く、ヨーロッパ人に人気のある食品は、この色別システムによって不当に扱われ、汚名を着せられるのではないかと産業界は恐れていた。
また、製造業者は「信号の3色」は消費者を間違った方向に導くと主張している。このシステムは日常の食生活における食品の限度量が考慮されていないからだ。
「当局もまた、このようなシステムは数ある食品を効果的に区分していないと主張している」とフォン・グリューニゲン氏は説明する。例えば蜂蜜は自然食品だが、「100%砂糖」でできているため、赤色のラベルが貼られてしまう。
しかし、スイス肥満対策財団はこういったラベルが貼られた商品を食べるなと言っているわけではなく、単に食品の内容に注意を払うべきだと消費者に示すものだと主張する。EUは信号の色を使うラベルシステムの法案は否決したが、一定量の食品に含まれる栄養素とその容量などの表示を含む「日常摂取量ガイドライン(GDA)」を作る案を採用した。
しかし、このガイドラインは複雑すぎるという批判の声も上がっている。その上、ラベルをわざわざ読む消費者は5%未満だという調査結果も報告されている。
新ラベル導入計画
連邦保健局の広報担当官エヴァ・ヴァン・ビーク氏は最近になり、EUで計画されているものをモデルにした「新しい包括的な食品ラベル」作成に取り組んでいると言う。
しかし、新ラベルシステムを導入するには複雑な手続きが必要になる。2006年に連邦議会が承認した56ページにわたる食品ラベル規定の条件を考慮に入れなければならないからだ。
規定は塩分、糖分、脂肪分、原料、原産国といった内容にわたり、さらに有機栽培食品として認定されているか、有効期限はいつまでかといったことについても定められている。ヴァン・ビーク氏はEU とスイスは本来、異なる法律の下で商業取引を行っているので、スイスもEUと「同じように」食品にラベルを表示する必要があると言う。
ヴァン・ビーク氏は「この新ラベルシステムはすぐに施行されるだろう。2、3年もかからない」と説明するだけで具体的な時期は明言しなかった。スイス政府は「全ての消費者が簡単に利用できるように」新ラベルシステムの内容をインターネットで公開する意向だ。
世界保健機関(WHO)は、太りすぎや肥満は健康を損なう恐れのある脂肪が蓄積した状態だと定義している。
太りすぎは、5番目に多い死因で、世界で毎年280万人以上の成人が太りすぎが原因で死亡している。そのうち41%が糖尿病、23%が虚血性心疾患にかかっていた。太りすぎは癌の原因にもなる(その確率は癌の種類によって7~41%に変動)。
1980年から今日までに、世界の肥満症患者の数は倍増した。2008年、20歳以上の成人のうち15億人が太りすぎだった。このうち、2億人以上の男性と約3億人の女性が肥満。2010年には約4300万人の5歳未満の子どもが太りすぎと報告された。
連邦内務省保健局(BAG/OFSP)の調査によると、2009年にスイスで太りすぎと肥満症の患者を治療するためにかかった医療費は2004年の26億5000万フラン(約2242億8400万円)から57億5000万フラン(約4866億5400万円)に倍増した。2007年に政府が発表した調査によると、肥満症のスイス人は2002年の5%から8.1%に増加した。
スイス肥満対策財団は1998年に肥満症患者を治療する専門医たちによって設立された。財団は太りすぎの問題を抱えるスイス人に毎日午前9時から午後5時まで電話相談を行っている。電話番号:044 251 54 13
財団会長のハインリヒ・フォン・グリューニゲン氏の体重は150kg以上。自ら肥満問題に取り組み、「常に自分の体重調整に取り組んでいるので、太りすぎや肥満に関する問題は全て心得ている」と語る。
(英語からの翻訳、白崎泰子)
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。