スイスの主要都市ベルンとチューリヒで昨年、10代の自殺未遂件数が急増したと地元紙が報じた。専門家は、国の登録簿を作り、現状の把握改善に努めるべきだと指摘する。
このコンテンツが公開されたのは、
ドイツ語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングによると、ベルン大学児童・思春期精神医学・心理療法クリニックの救急病棟では昨年、自殺念慮を抱く未成年者の受け入れ数が50%増加した。同様の増加が2019年~20年にもみられた。
同クリニックのミハエル・ケース院長は同紙に「秋から冬のある時期に、自ら命を絶とうとしたり、その寸前まで追いつめられたりした患者が複数訪れた」と語った。
同クリニックで治療を受ける若者の数は、救急病棟の収容上限のほぼ3倍に上る。休暇中の夏は通常、青少年のストレスは軽減されるが、昨年は異なった。ケース氏は「2度目の(新型コロナウイルスの)パンデミック(世界的大流行)の年は、7月や8月でさえもほぼ満杯だった。今は完全に過負荷の状態だ。入院患者数は爆発的に増加している」とした。
国内の10~19歳の死因で最も多いのが事故で、その次が自殺だ。連邦統計局によると、10~19歳の若者約35人が毎年、自ら命を絶っている。全年齢層の自殺率はここ数年、大きな変化はない。
「このままではいけない」
ゾンタークス・ツァイトゥングによると、チューリヒ大学病院精神医学クリニックも状況は深刻だ。
児童・思春期精神医学・カウンセリング主任医師のグレゴール・ベルガー氏は「緊急事態なのに、我々は火消ししかできない。このままではいけない」と危機感を募らせる。同クリニックが認知した若者の自殺件数は昨年、278件に上った。ただ同氏は、州全体の件数の1割に過ぎないだろう、とみる。
同氏は「パンデミックで、思春期の子供たちは大人よりも遥かに苦しんでいる」と指摘。しかし、若者の間では過去10年でこうした現象が増加していると強調する。
同氏は国内の状況を明らかにするために、自殺未遂件数に関する国の登録簿を作成するべきだと話す。
「起こったケースは体系的に記録する必要がある。そうすることでしか、若者の多くが心理的危機に陥り、最悪の場合、死を唯一の出口だと捉える原因を理解することはできない」
連邦内務省保健庁もデータ不足を認識している。しかし、登録簿を作るための法的根拠がなく、データ保護の問題もあるため作成は不可能だとしている。
おすすめの記事
命を救う後部座席のシートベルト スイスで義務化30年
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは、30年前から車の後部座席のシートベルト着用が義務付けられている。スイス事故防止協議会(BFU)と連邦統計局の最新データによって、この安全対策の有効性が裏付けられた。
もっと読む 命を救う後部座席のシートベルト スイスで義務化30年
おすすめの記事
アムヘルト大統領、岸田首相と会談 FTA改定を改めて要望
このコンテンツが公開されたのは、
訪日中のヴィオラ・アムヘルト大統領兼国防相は7日、官邸で岸田文雄首相と会談し、日本・スイス間の自由貿易協定(FTA)改定というスイスの要望を改めて表明した。
もっと読む アムヘルト大統領、岸田首相と会談 FTA改定を改めて要望
おすすめの記事
UNRWA、「イスラエル襲撃に関与した可能性」の9人を解雇
このコンテンツが公開されたのは、
国連は5日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員9人が昨年10月7日のイスラム過激派ハマスによるイスラエル襲撃に「関与していた可能性がある」との内部調査を発表した。
もっと読む UNRWA、「イスラエル襲撃に関与した可能性」の9人を解雇
おすすめの記事
スイスで小児科医が不足
このコンテンツが公開されたのは、
スイス小児科医協会は医師が足りず、特に地方部で子どもが十分な治療を受けられなくなる可能性があると警告する。背景には柔軟な働き方を求める世代の増加や役所・企業の「官僚主義化」があると批判する。
もっと読む スイスで小児科医が不足
おすすめの記事
コロナ再流行のスイス、ワクチン不足に
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは現在、新型コロナウイルス感染症が再び流行している。それ自体はさほど深刻ではないものの、ワクチンを受けたくても薬局や診療所に在庫がない事態が発生。背景には7月初めの制度変更がある。
もっと読む コロナ再流行のスイス、ワクチン不足に
おすすめの記事
スイスで人身取引被害が増加
このコンテンツが公開されたのは、
「人身取引と闘うプラットフォーム(Plateforme Traite)」は2023年、スイスで197件の人身取引(人身売買)事案を記録した。前年比で11%増加した。
もっと読む スイスで人身取引被害が増加
おすすめの記事
スイス最高裁、中期中絶に父親の発言権認めず 「被害者ではない」
このコンテンツが公開されたのは、
妊娠中期に中絶した女性を元恋人の男性が告訴した事件で、スイスの連邦裁判所(最高裁)は25日、男性は「被害者」に当たらないとして訴えを却下した。
もっと読む スイス最高裁、中期中絶に父親の発言権認めず 「被害者ではない」
おすすめの記事
「建国記念日に花火欠かせない」半数 スイス世論調査
このコンテンツが公開されたのは、
スイス人の半数が、打ち上げ花火は8月1日の建国記念日に欠かせないと考えていることが最新の調査で分かった。しかし、回答者の大多数は個人での花火打ち上げに反対している。
もっと読む 「建国記念日に花火欠かせない」半数 スイス世論調査
おすすめの記事
スイスで水の事故相次ぐ 週末に3遺体発見
このコンテンツが公開されたのは、
スイス各地で気温が上がった20~21日の週末、水の事故が相次いだ。
もっと読む スイスで水の事故相次ぐ 週末に3遺体発見
おすすめの記事
スイス、EV・ハイブリッド車が好調
このコンテンツが公開されたのは、
スイス自動車輸入組合オート・スイスの最新データによると、今年上半期のスイスの新車登録台数の58%はハイブリッド車と電気自動車(EV)だった。
もっと読む スイス、EV・ハイブリッド車が好調
続きを読む
おすすめの記事
コロナ危機 大学生のメンタルヘルスに大きな影響
このコンテンツが公開されたのは、
学生たちが大学へ戻る準備をする中、過去18カ月の間で学生たちのメンタルヘルスにいかに影響を及ぼしたかを示す複数の調査が発表された。
もっと読む コロナ危機 大学生のメンタルヘルスに大きな影響
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。