スイスの行政機関、外国人の間で信頼が厚いのはなぜ?
スイスの行政機関に対しては、スイス人よりも在住外国人の方が厚い信頼を寄せている。その理由については諸説ある。
非政府組織(NGO)「スイス公益社会(SSCG)外部リンク」が18日に発表した「ボランティア・モニター2020外部リンク」は、スイスのボランティア活動に関する基礎的な調査報告書だ。ボランティア活動は信頼やコミットメント(約束)と密接に結びついていることから、人々が周りの人や当局・組織によせる信頼も分析している。
注目すべき点は、「スイスに住む外国人は、スイスの行政機関への信頼度がスイス人よりも高い」ということだ。その差は歴然としており、行政機関を高く信頼していると答えたのは、スイス人が半数にとどまったのに対し、外国人では約3分の2だった。
「外国人」といっても一様ではない。だがこうした結果は2016年の全回調査でも見て取れ、連邦統計局の調査でも似たような結果が出ている。
スイスに有利な比較?
この差はどこから生まれるのか?考えられるのは、外国人は自国と比べてスイスの行政機関が効率的・誠実と考えるということだ。理論的には、スイスよりも非民主的な国の出身者にとっては、こうした仮説がよく当てはまるとみられる。
だが統計局の出身国別の内訳を見ると、北欧・西欧からの移民も全般的に行政機関への信頼度が高い。他にも主観的な要因が働いているようだ。
「ルールを守ることへの圧力が高まっている」
ジュネーブ大学社会学研究所で移民問題を専門とする社会学者のサンドロ・カッタシン所長は、主に外国人が「ルールに従うことへの圧力が高まっている」と感じていることの表れだとみる。「受け入れ先の国で受け入れられるために、移民は現地の人々よりも法律をよく守って振る舞わなければならないというプレッシャーを感じている」
これは、政治や団体への過剰なコミットメントをもたらし、全般的に「国家は正しい」と考えるようになりうる。ボランティア・モニターの執筆にも加わったカッタシン氏は、「スイス人なら行政機関への不信感を表明する余裕があるが、外国人はそうはいかない」と話す。
移住の「破壊的プロセス」
移住先の行政機関への信頼度が高まる傾向がみられるのはスイスだけではない。ヌーシャテル大学で移民政策を専門とするアニータ・マナチャル助教授は、2010年に行ったヨーロッパ20カ国の移民の政治的信頼と満足度に関する調査で、信頼の醸成は「移住プロセスに連動した主観的統合要因」と結論付けた。
ナチャマル氏は「国を変えるという破壊的なプロセスを経てきた移民1世は期待値が低く、移住先の社会を肯定的に評価する傾向が強い」としている。移民2世は、信頼と政治的満足度の高さは現地人と同程度だった。
ボランティア・モニターの調査結果は、これらの議論を裏付ける。二重国籍者の当局への信頼度は57%で、スイス国民と外国人のちょうど真ん中だ。社会への統合や実体験に伴い、知覚ギャップが縮小することを示唆する。
英NGO「Wellcome」の調査外部リンクによると、スイス当局は世界でも最高レベルの国民の信頼を得ている。連邦制や直接民主主義、機関と国民の距離の近さが背景にあるとされる。
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