ジュネーブ州は、学生の学校・職業訓練校の中途退学を予防する策として、来年から義務教育期間を18歳まで引き上げると決めた。同州はスイスで退学率が最も高い州の一つ。
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ジュネーブ州は先月、新学年開始の2018年9月から義務教育期間を18歳まで(現在は15歳まで)とすると発表外部リンクした。学位を持たない中退者は将来に不安を抱え、生活保護に頼る傾向や失業するリスクがより高くなる。同制度は若者に将来、雇用市場でより良い見通しを与えることを目的とし、スイスでの導入は初。スイスでは義務教育制度の政策決定は州が行う。
新制度では、様々な研修センターでの3ヶ月の職業体験や、事前資格取得クラスが学生に提供される。このプログラムは資格取得のトレーニングコースや職業訓練校からの中退予防のためでもある。ジュネーブ州は、卒業率を3年以内に95%に近づけることが目的だ。
同州教育省のアン・エメリー・トラチンタ氏は、「18歳までの義務教育制度は奇跡の解決策ではないが、中退に歯止めをかける重要な要素だ」と話す。
スイスの平均退学率を上回るジュネーブ州
ジュネーブ州は、「毎年学校を中退する若者は全体の10~15%、約1000人で、そのうち550人が18歳以下」だと述べている。これはスイスの平均退学率5.6%をはるかに上回っている。
またフランス語圏スイス公共放送は、スイス連邦統計局の調査で、学位を持たない中退者は生活保護に頼る可能性が4倍高いことが分かったと伝えている外部リンク。失業率は9.3%と、学位取得者の2倍高く、さらに就労者は、収入が平均26%少ない傾向にあると発表された。
フランス語圏教師連合外部リンクのサミュエル・ロールバッハ会長は、ジュネーブ州の新制度は「資格を持たない若者の問題に対する良い対応だ」とし、「必要な資金と人材が調達できることを願っている」とスイスインフォにコメントした。
州が教育制度における多くの自治権を持つ一方、スイスでは、州で異なる教育制度の統一に取り組んでいる。全国的な「HarmoS」(適応されていない州もある)や、言語地域別では、ドイツ語圏「Lehrplan 21外部リンク」と、フランス語圏「フランス語圏地域学校協定/CSR外部リンク」に統一制度がある。
ロールバッハ会長は「CSRはスイスのフランス語圏の義務教育学校の統一を強化した。例えば、学校の開始年齢を4歳、修業年数を11年に固定した」と述べ、さらに「州はまだ操縦の余地が大きい。例えば、時間割設定や生徒数の合理化などだ」と説明した。
良いニュース
しかし、スイス全体をみると、他のヨーロッパ諸国と比較して、学校や職業訓練学校の中退率は低い。
EU統計局の統計では、連邦統計局とわずかに異なる基準を使用しているため、スイスの中退率は4.9%となっている。中退率が低い国は、クロアチア(2.8%)とリトアニア(4.8%)のみで、反対に中退率の高い国は、マルタ19.7%、次いでスペイン19%。欧州連合の平均は10.7%。
(英語からの翻訳・上條美穂)
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