スイスは欧州では珍しく、過大債務者の債務を帳消しにする法制度がない。連邦議会はこの状況を変えようと法改正に動き出した。
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スイスで過大債務を負った人は債務の返済に苦労している。法律で決められた救済策は基本的にごくわずかな資産を持つ人にしか適用されない。連邦内閣は個人の債務免除に関する報告書外部リンクで「多くの債務者は、債務ゼロになる現実的な道筋がつけられない」と記した。
法改正手続きの第一歩として、上下両院は4日、社会民主党のクロード・ヘッシュ上院議員の提出した動議外部リンクを全会一致で可決した。動議は連邦政府に対し、過大債務者があまり時間をかけずに経済的に社会復帰できるよう、貸金徴収・破産法外部リンクの改正を求めた。一定の条件を満たせば債務が免除されるよう仕組みの導入も提案した。
スイスは例外
スイスのように過大債務者に対する免除規定がない国は欧州では少数派だ。欧州委員会や国連、経済協力開発機構(OECD)や世界銀行はこうした仕組みを導入するよう奨励している。債務者に2度目のチャンスを与え、起業家精神を支えた方が、社会全体にかかるコストは安上がりだからだ。
「スイスがグズグズと一歩を踏み出さないのは、国会議員の関心が薄いからだ」。スイス債務相談所外部リンクのセバスティアン・メルシエ事務局長はこう言い切る。「スイスのシステムは過大債務者を生み、さらに債務を増やしている」
現状では、借金が膨らんでしまった人は収入に抵当権をつけるか、自己破産を申告するか、債権者または裁判所と債務返済契約書を直接交わすしかない。これらの手続きは多大なお金と時間がかかり複雑なため、債務者が借金地獄から抜け出すのを難しくするだけだ。新しい借金を作り債務を長引かせるのを防ぐこともできない(抵当権の時効は20年)。
データ不足
スイスの債務者の実態を示す統計は多くない。最も新しいのは連邦統計局が2013年に発表した「所得・生活状況に関する統計(SILC)外部リンク」だ。それによると、全世帯の31.8%は少なくとも1本の借金を抱え、18.5%はリースやローンなど2種類以上の借金を負っている。
メルシエ氏は「スイスに過大債務の問題があるなんて直視したくない。2013年のSILCも概観しかつかめず、徴収局は個人と企業を区別していないので、正確な統計がない」と嘆く。2008年のSILCでは、問題のある借り越し口座や未払い債務を抱える人は57万人にのぼるとの試算が示された。「この数値は現実味がある」(メルシエ氏)
過大債務が生じる道のりは長く複雑で、多くは複数の要因が絡み合う。メルシエ氏は「最もよく相談を受けるのは失業や離婚、病気、独立の失敗だ」という。「加えて組織の問題や事務的なトラブルに巻き込まれたケースもある」
総じて、事前に予測していなかった出来事が発生し、全ての費用を支払えなくなるパターンが多い。山積みの請求書を前にあたふたし、急を要するものから支払っていく。「税金の支払いは後回しになり、延滞金がかさんでいく」とメルシエ氏。「債務返済にかかる社会的コスト、特にコミュニティに生じるものは莫大だ。過大債務はストレスになり、栄養不足や病院を控えるといった過度な節約で健康問題をも引き起こす」
連邦政府は今後、改正法案をまとめ議会に提出することになる。連邦内閣が導入を検討しているのは、債務者への友好的な和解の義務付けと、一定の条件下で債務を免除できるようにする仕組みだ。
メルシエ氏は「今回の動議可決は第一歩だが、より多くの債務者を救済する方法を見つける必要がある。本当の仕事はこれからだ」と指摘する。「すぐに実行できそうな良い方法は、今ある手続きの改善だ」。クロード・ヘッシュ議員はそれを盛り込んだ議員立法外部リンクを提出したが、まだ議会で審議されていない。メルシエ氏は、今の仕組みで借金から解放されうる人を苦しめるような法改正にならないことを祈るばかりだ。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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