ドイツ、フライブルク・イム・ブライスガウのフライブルクの荷積み場。列車が走る間休息を取れるため、 目的地に着いたらすぐにハンドルを握ることができる
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スイスでは、北はバーゼルから南のキアッソ(Chiasso)まで、高速道路がずっと続いている。にもかかわらず、列車でスイスを縦断するトラックは年間10万台を数える。「走る高速道路」の上では、ヨーロッパ各国の運転手が同乗者用車両で休息を取りながら夜を明かす。
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2012/08/27 11:00
ペーター・ジーゲンターラー, フライブルク・イム・ブライスガウ(ドイツ)にて, swissinfo.ch
オレンジ色のオーバーオールを着た操車作業員に羨望のまなざしが向けられることはあまりない。猛暑の中、防災ヘルメットの下に覗く顔は汚れ、汗が幾筋もの線になってしたたり落ちている。ここはドイツ、フライブルク・イム・ブライスガウ(Freiburg im Breisgau)の町外れにある積み込み駅。真昼の野外の敷地には影がほとんどない。そんな場所で彼らは、最後尾の車両に荷役用の可動式プラットホームを装着する力仕事をこなしていく。
その線路の脇にある、アスファルトで舗装された駐車場には、約20台のトラックが4列に並んで列車に乗るのを待っている。運転席にはほとんど誰もいない。ここから歩いて駅の窓口まで行き、輸送の手続きを行わなければならないからだ。
トラックは東欧のナンバーが多い。しかし、そこから運転手の出身地や荷物の産地まで知ることはほとんど不可能だ。トラックを一番に重量計の上に載せたクリスティアンさんはルーマニアの出身。この日は、オーストリアの輸送会社の運転手として、ドイツからイタリアへと金属を運ぶことになっている。走る高速道路と呼ばれる、トラックを乗せて走るシステム「ローラ(Rola)」の重量制限は、車両1台につき44トン。スイスの道路に適用されている最大重量は、それより4トン少ない40トンだ。
イエローカードとレッドカード
「44トンは間もなく、例外ではなく普通になる」と言うのは、車両寸法の検査を担当するヴォルフガング・ツィーボルト氏だ。「鉄道の緩い重量制限を、経費の面で大きなメリットと考えている運送会社は少なくない」
ツィーボルト氏の右の胸ポケットにはイエローカードが、左にはレッドカードが入っている。「これは世界中の運転手にわかる言語だ」。イエローが出るのは「例えばアンテナを外していないときや、積み荷をきちんとまとめてもらいたいとき」だ。
ほとんどの場合、運転手は車両をその場で規定通りに整備できる。しかし、列車の3本に1本の割合で、積み荷が荷崩れしそうだったり、シートが破損していたり、車両が高過ぎたりするために、レッドカードを出される運転手が現れる。
道路を走る際にも同じ規定が適用されることから、このような不備があるトラックは道路を走ることも本来なら許されないところだ。だが、鉄道会社はそこまで口を出さないため、違反者が告発されることはない。ローラ・スイス(Rola Schweiz)の運営会社「Rアルピン(R・Alpin)」の生産部門責任者マルティン・ヴァイデリ氏は「車両の責任を負うのは運転手なのだから」と言う。
貨物積み下ろしホームにトラックを乗り入れるときには精密さが求められる。タイヤの左右両側の空きスペースはほとんどない。にもかかわらず、ほとんどのトラックは失敗することもなく、スムーズにホームに乗り入れる。
9時間の列車の旅の間、運転手たちは同乗者用車両で過ごすことになっている。夜間および休憩時間の規則で定められている最低休息時間も同じ9時間。そのため運転手は、イタリアのノヴァーラ(Novara)に着いたらすぐにまた走り出せる。「これは、大切なセールスポイントの一つだ」とヴァイデリ氏は言う。
多い競合、少ない給料
そこに、「ルポを書くなら、フライブルクじゃなくてイタリアのノヴァーラ(Novara)で取材した方がいい」とドイツ人の運転手が横やりを入れてきた。「そこの運転手用衛生設備は、とても人間が使うものとは思えないようなものだ。シャワーはもう4週間前から温水が出ない。洗面台もシャワー室も壊れているし、トイレなんかはもう汚過ぎて…」
Rアルピンのヴァイデリ氏は、「そのことは聞いている。それはイタリアの協力会社が改善すべきことだが、こちらでなんとかしよう」と運転手を慰め、「8月中には解決する」と約束する。
この言葉を聞いて少し落ち着いたドイツ北部出身の運送屋ハンス・ペーター・ベーレントさんは、それでもほぼ毎週ローラを利用している。それはひとえに「夜のひとっ跳び」のためだ。「今日みたいにルール地方から走り出す場合は、スイスのどこか、たぶんエルストフェルト(Erstfeld)かゴッタルドを越えた後に休憩しなければならない。つまり、10時間走り続けたとしても、これより遠くには行けないんだ」
また、輸送市場の競争は激しく、とにかく費用節減が一番肝心だとベーレントさん。「欧州連合(EU)の東方拡大以降、過剰供給になっている。列車の中を少し覗いてみたら分かることだが、東欧諸国の運転手が低賃金で西欧の大運送会社の仕事をするようになったんだ」
ドイツ北部の町ハーゼリュンネ(haselünne)出身のアンドレアス・シェファーさんは、危険物を積んでいるときしか列車を利用しない。危険物を積んだトラックはゴッタルドトンネルを通ることができないからだ。この日は、爆発性のニトロセルロース22トンを、ニーダーザクセン州オスナブリュック(Osnabrück)からイタリアのミラノ地域まで運ぶことになっている。
快適さに感謝
運転手たちが過ごす同乗者用車両は真新しく、冷房もついている。強い日差しの中に停められていたにもかかわらず、列車の中は気持ちよく冷えている。
イタリアの輸送会社ピリアチェッリ(Pigliacelli)の運転手3人が、小さなキッチンの脇にある長いテーブルについた。上にはメロン、チーズ、パンが並べられている。
隣のテーブルから聞こえてくるのはスラブ語だ。クロアチア出身の運転手は、15年来オーストリアの運送会社ベルガー・ロギスティック(Berger Logistik)の仕事をしているという。「運転手をこき使わないきちんとした会社だ。長距離輸送では必ずどこかで遅れが出ることをよく分かってくれている」。今は、ミネラル・ウォーター製造会社サン・ペレグリノ(San Pellegrino)の空の容器を南に運ぶ途中だ。
折り畳み式の簡易ベッドがある一角ですでに休んでいるのは、オランダの企業ダスコ(Dasko)で働くポーランド人の運転手たち。機嫌がよく、新しい同乗者用車両の快適さにも満足している様子だ。午前中、オランダの工場で荷積みした生肉をモデナ(Modena)に運んでいる。
彼らの外国での仕事は3週間続く。その間の休みは2日。「終わったらトラックをオランダまで走らせ、バスでポーランドへ帰って1週間休む」。ダスコの労働条件は普通だ、と彼らは言う。「月給は1600ユーロから1700ユーロ(約15万8000円から16万8000円)」だ。
ルーマニアの運転手は「イタリアの雇用主は月給を3000ユーロ(約29万6000円)から2700ユーロ(約26万6000円)に下げようとしている」と愚痴をこぼす。そして、録音マイクのスイッチを切った後にこう続けた。「今、休みなしで1カ月30日間働いたんだ」
ローラ・スイス(Rola Schweiz)
ドイツのフライブルク(Freiburg)とイタリアのノヴァーラ(Novara)の間、スイスのレッチュベルク(Lötschberg)-シンプロン(Simplon)線を通る区間では、毎日、「ローラ(走る高速道路)」を使った最大積載数21台の列車が上下合わせて最高11本運行されている。バーゼルとキアッソ(Chiasso)を結ぶゴッタルド(Gotthard)線では毎日1本運行、最大28台のトラックを輸送している。
年間およそ10万台のトラックがスイス・アルプスを抜けて輸送される。ヨーロッパの道路の通行許可を得ている車両なら、ほぼすべて輸送可能。
ローラの利用が適しているのは特にハイテク製品、食品、危険物など、取り扱いに注意が必要な貨物の輸送。ローラを利用すれば、夜間や日・祝日でも関係なく、24時間アルプスを縦断できる。
所要時間は約9時間。運転手には休憩時間となる。
ローラの短所はエネルギー・バランス。コンテナ輸送と比較すると空荷状態の重量が大きく、列車の長さを単位とした貨物積載量が少ない。
貨物輸送を道路から鉄道に移行する政策では、ローラの重要度は低い。スイスの交通政策の目標は、例えばドイツのルール地域からイタリアのミラノまでというふうに、スイスの国境に入ってからではなく、出発点から目的地までの全行程をなるべく鉄道で輸送すること。それでも、ローラは種々の交通機関を組み合わた輸送における重要な補足機関であり、スイス政府は費用の3分の1を負担している。
アルプスを縦断する貨物輸送(鉄道と道路)全体におけるローラ利用の割合は4.7%(鉄道輸送のみでは7%)。
2011年にスイスのアルプスを縦断した貨物の63.9%は鉄道を利用。道路輸送は36.1%。
オーストリアのブレンナー(Brenner)を抜けるローラは2011年、スイスよりも3倍多い数のトラックを輸送した。しかし、その距離はスイスより大幅に短い。フランスのモン・スニ(Mt. Cenis)の輸送量はスイスよりも断然少ない。
(出典:R・アルピンおよび連邦運輸省交通局/BAV/OFT)
(独語からの翻訳、小山千早)
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スイスは道路交通網が最も普及している国の一つだ。道路インフラの維持や建設計画には多額の費用がかかるため、政府と連邦議会は「国道と都市交通のための基金(NAF)」の設立を目的とした憲法改正を呼びかけている。長期的な道路計画を可能にし、また財源を確保することが狙いだが、これには左派や環境派の一部が反対している。
国道の主な財源はこれまで、鉱油税(石油、天然ガス等)と高速道路料金からの収入(いわゆる道路事業費)だったが、政府と連邦議会は財源不足を警告している。なぜか?
自動車および自動二輪車の交通量は1960年以降、5倍以上に増えた。それに伴い渋滞時間も増加。騒音対策、自然保護、災害保護を求める社会からの要望も重なり、インフラの運営費や維持費が増えた。
それと同時に収入が減った。燃料に課される鉱油追加税はここ数十年間、物価上昇に合わせられておらず、1974年以来ガソリンおよびディーゼル1リットルにつき0.3フラン(約34円)に据え置かれている。
政府の主張では、このまま対策を取らなければ国道の財源は今後数年で赤字に転じる。そのためNAFに追加資金を注入し、道路事業に関するすべての収入を今後は特定財源にすべきだとしている。NAFが設立されれば、特に混雑の激しい道路区間の整備や狭い道路の拡幅整備、またヴォー州ローザンヌ・モルジュ区間の迂回路建設や、チューリヒ州グラットタール地域にある高速道路の渋滞解消が実現できると、政府は説明する。国道だけでなく、都市近郊地域の道路計画もNAFの恩恵を受けるという。
政府および連邦議会の圧倒的過半数はこの基金の設立を支持。「(基金があれば)問題は解消され、国道網の効率性は維持される」とドリス・ロイタルト運輸相はメディアに語っている。
国庫を略奪
基金設立に反対する声は議論が開始した当時からあまりなかった。なぜなら、鉄道にはインフラ整備・拡充のための基金が存在しているからだ。道路事業への巨額資金注入を目的にした「乳牛イニシアチブ」の是非を巡る昨年6月の国民投票では、NAFが設立されればバランスの取れた財政モデルを国民に提示できると政府は主張していた。
左派や環境派からもNAFに対する反対意見は基本的に聞かれない。だが、社会民主党のエヴィ・アレマン下院議員は、「連邦議会はNAF設立に関する草案を大幅に変えた。これでは国庫が略奪されることになるだろう」と話す。
基金設立の反対キャンペーンを張る環境派の団体「スイス交通クラブ」の会長を務める同氏は、「期限を設けないNAFの存在を憲法改正で固定してしまえば、国のほかの支出に比べNAFの方が優遇されてしまう」と批判し、こう続ける。「憲法改正が通れば道路事業の財源は極端に膨れ上がる。国庫の負担は重くなり、とりわけ公共交通分野が費用削減の対象になるだろう」
現在は鉱油税の5割が道路事業に定められているが、実際にNAFが設立された場合はその割合が6割になる。また自動車輸入税の税収は国庫ではなくNAFに入る。さらに、鉱油追加税は、自動車の燃費が以前より向上したことを踏まえ、ガソリンおよびディーゼル1リットルにつき0.30フランから0.34フランに引き上げられる。ロイタルト運輸相によれば、増税の開始時期は早くとも19年からだ。
NAFへの批判は、緑の党からも出ている。同党は今月に開かれた党大会で有権者に反対票を投じるよう呼びかけた。「我々が反対してきた乳牛イニシアチブは、国民投票で大差で否決された」と同党のレグラ・リッツ党首は話す。保守派が過半数を占める連邦議会は「この明らかな教訓」からあまり学んでおらず、NAF設立で「乳牛イニシアチブの半分」を実現させようとしていると、同氏は主張。「国の財政が非常に厳しい中で、きわめて寛大な法案が決議され、道路網が拡大されるということが過去にあった」と語る。
しかし、社民党も緑の党も、反対キャンペーンにさほど労力も資金も注いではいない。社民党の連邦議会議員の大半がNAF設立に賛成していることからも分かるように、環境派および左派の間で意見が食い違っているからだ。
NAFに賛成しているのが、影響力のある自動車連盟のツーリングクラブ・スイス(TCS)と保守派政党。「道路での渋滞時間は年間2万2千時間。これは約20億フランの損失に値する。道路インフラを現在の交通量に合わせるにはNAFが必要だ」とヴァルター・ヴォブマン下院議員(国民党)は話す。
「乳牛イニシアチブの半分」と揶揄されるNAFが連邦議会を通過したことに、ヴォブマン氏は安堵したという。同氏は「NAFが設立されれば、道路事業に約7億フランが追加される」と語り、その資金はもっぱら自動車ドライバーの財布から出ると言う。
結束を強める
中道派のキリスト教民主同盟もNAFに賛成の立場だ。「公共交通においても、個人が自動車、オートバイ、自転車などを利用する場合においても、スイスのインフラはとてもよく整っている。これは国が経済的に繁栄する上で重要なことだ。インフラが整えば、山岳地や遠隔地は都市と結ばれる」と同党のヴィオラ・アムヘルド下院議員は語り、こう続ける。「良い交通網は、国の結束を強めるのだ」
その一方で、NAFが設立されれば環境破壊が進むと、反対派は主張する。スイスでは住宅地や道路の建設目的で1日にサッカー場10面分の森林が伐採されている。NAFが実現し、道路事業により多くの資金が流れ込むことになれば、森林伐採は進む一方だと反対派は考える。これに対しアムヘルド氏は「NAFの目的は、緑地を道路で潰すことではない」と反論。「計画的に、重点箇所に的を絞って問題を解消し、道路整備を長期的に保証することが目的だ」と話す。NAF設立に30億フラン
国道と都市交通のための基金(NAF)には年間30億フラン以上が注ぎ込まれる。収入の内訳は以下の通り。
・ 鉱油追加税:19億フラン
・ 自動車輸入税からの収入:4億フラン
・ 高速道路利用ステッカーの販売による収益:3億2千万フラン
・ 鉱油税の1割:2億5千万フラン
・ 電気自動車への自動車税課税(2020年以降):9千万フラン
・ 州道から国道への切り替えによる州からの補償金:6千万フラン
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