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バカンス土産の植物は持ち込み禁止

蘭はバカンスの土産に買われることが多い植物の一つ Keystone

スイスの専門家は、バカンスの旅先から珍しい植物を持ち帰って自宅の庭に植えないよう警告している。

外来の植物の中には、病気や害虫を持っていたり、急激にはびこって地元の植物を締め出したりするものもある。また絶滅危惧種のために採取を禁止されている植物もある。

検疫の水際作戦

 連邦経済省農業局 ( BLW/OFAG ) の管轄下にある連邦経済省農業研究センター「アグロスコープ ( Agroscope ) 」の植物保護査察部の部長マルクス・ビュンター 氏はこの問題を熟知している。ビュンター氏の部署は、バカンスの土産に海外から植物を持ち帰らないよう呼びかけている。
「それらの植物は外国から来たものです。ということは、異なる気候条件が存在し、植物の中に異なる生命体が存在するということです。それらはヨーロッパとスイスに大きなダメージを与える可能性があります」
 とビュンター氏は語る。

 スイスで最も知られている例は、約100年前にブドウの木に大打撃を与えたフィロキセラ ( ブドウの根に寄生するネアブラムシ属の昆虫 ) だ。もっと最近の例では、北アメリカからやってきたと考えられている火傷病 が主にスイス北部のリンゴの木をむしばんでいる。

 もし税関検査の際に旅行者の荷物から禁止されている植物が発見され、必要な書類が付いていなかった場合、それらの植物は処分される。

 疑わしい植物が見つかったときは、ジュネーブ空港の植物検疫検査官ジャック・ウンベルト・ドロ氏に検査の呼び出しがかかる。

サボテンと蘭

 ドロ氏はタイからのサボテンと蘭を検査することが多い。
「バカンス先で美しい蘭を見つけて持って帰っただけだという人がいます。しかしそれはできません。ヨーロッパ圏外の国からの植物をスイスに持ち込むには植物の検疫証明書が必要です」
 とドロ氏は説明した。検疫証明書は、その植物に害虫が付いていないか検査され、輸出許可が降りたことを意味する。

 ヨーロッパ圏内からスイスへの輸入が禁止されている植物は、火傷病のバクテリアを持っているコトネアスター ( バラ科コトネアステル属の常緑低木 ) とレッド・ロビン( バラ科カナメモチ属の常緑小高木 ) の2種類だけだ。

 こうした規制の存在を知らない人々もいるかもしれないが、中には規制をかいくぐって持ち込もうとする人々もいる。
「最大の問題は、植物のコレクターです。彼らは自分たちが何をしているのか承知しています」

招かざる客

 外国からの蘭もまたアザミウマ科の昆虫のような招かざる客を運び入れ、スイス国内で栽培されている蘭に広がる可能性がある。
「最新の問題は、ゴマダラカミキリムシの一種の大きな昆虫です。樹木の中に隠れてやってきてスイスの環境に非常によく適応します。オランダの虫です」
 とウンベルト・ドロ氏は説明した。

 「例えば盆栽の木の中にも住みついていて、外からは見ることができません。そして時がたつと出てきて飛び去って行くのです」
 この昆虫は樹木に深刻な被害をもたらす。

 果物や野菜も有害な生命体を運んでくる可能性があるため、貨物もまた検査される。

 もう一つの問題は侵入植物だ。ビュンター氏は、かつて観賞植物とみなされていたが、現在は脅威と考えられているアキノキリンソウを挙げた。アキノキリンソウはあらゆる場所に広がり、自然保護地域にも侵入し地元の植物相を脅かしている。そしてブタクサもまた侵入植物の一つだ。

 ジュネーブ空港でドロ氏は、シンガポールやマダガスカルから来る水槽用の植物にも問題の可能性があると言う。
「それらの植物が無害、またはスイスの開放水域に入る可能性はないとは言い難いです」

絶滅危惧種

 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約 ( CITES ) 」で国際的に承認された絶滅危惧種のリストに挙げられている植物をスイスへ持ち込むことはできない。

 ドロ氏は、植物を摘んでそれを持ち帰ることが地元の植物の生態に被害を及ぼすことになると知らない人もいると指摘する。
「条約に従って、証明書の提出には30日間の猶予が与えられます。もし証明書を提出しなければ罰金を科せられ、その植物がまだ元気ならば植物園へ持って行かれるか州の所蔵となります」

 ビュンター氏もウンベルト・ドロ氏も、旅行者は旅先で足跡を残すのみにとどめるべきだと言う。
「もし外国から本当に植物を持ち帰りたいならば、それらの植物を輸入するのに必要な条件を事前に調べておくべきです」
 とビュンター氏は主張する。バカンス先の空港にも植物検疫局があり、植物を検査し証明書を発行してくれる。

 いずれにせよ、珍しい植物も今ではスイス国内にある苗床園やガーデン・センターで見つけることができると専門家は指摘する。

 アグロスコープの推薦事項はもう一つある。それは、バカンスの土産として植木鉢だけ買って帰り、家に着いたらスイスの植物を植えることだ。

イゾベル・レイボルド・ジョンソン、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

外来種は、スイスの植物の約10%を占め、10種のうち1種が侵入植物と考えられている。
現在ではブタクサの発見通報と駆除が義務付けられている。その結果、収穫減少に苦しむ農家は、政府の補償やブタクサ駆除の費用に対する補助金を特定の状況において受け取ることができる。
スイス中央部のウーリ州は、外来種に対抗する為の強硬手段を発表した。駆除リストの上位には、炎症を起こす有毒成分を含む液汁を持つオオブタクサのほかに、アキノキリンソウ、ヒマラヤ・ホウセンカ、イタドリなどの植物が揚げられている。
またヴィンタートゥール ( Winterthur ) の200m2の森林区で24人の若者が夏休み中に侵入植物の駆除を行っている。

EU圏外からの植物の輸入は、通常検疫証明書を要するが、輸入免許が必要なこともある。また木材のパッケージに入った商品の輸入は特定の規制に従わなければならない。
荷受人が非営利の場合、EU圏内からの輸入ならば通常書類は必要ない。
科学的な研究のための植物や、有機体に汚染された疑いのある ( または汚染が明らかになっている) 植物を隔離し検査する研究所に送るよう委託された植物を輸入する場合は、連邦経済省農業局 ( BLW/OFAG ) の輸入許可証が必要。
営利を目的とする荷受人によるEU圏内からの輸入で、プラント・パスポートが必要な繁殖材料用の植物の定期的な輸入の申請があった場合、原産国の植物検疫局での登録が必要。
プラント・パスポートが不要な繁殖用の植物は、検疫のほかの書類も不要。
( 出典:アグロスコープ )

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