プライバシーを侵害する電気メーター
個人情報を守ることは現代社会の大きなテーマの一つ。特に、情報技術が進むにつれ、個人情報が漏えいする危険は高まる。
チューリヒ州には市民のプライバシーを守る役割を担っている情報保護委員会 ( Datenschutzbeauftragter/dsb ) があり、公共機関が扱うあらゆる情報データの収集方法や保管方法について、助言する。その助言は、法的拘束力を持つ勧告になることもある。
コンセントに潜む情報スパイ
4月20日、情報保護委員会を通し、新型の電子式メーターが個人のプライバシーの情報源になることを指摘し、現在事前調査をしていることが明らかになった。
新型の電子式メーター「スマートメーター ( Smart Meters )」 は、将来のエネルギー不足を想定とした新技術だ。スマートメーターを各家庭に取り付けると、電気使用量の変化が詳しく把握できるため、電力をより効率的に各家庭に送電することができる。すでに欧州の一部の国の電力会社が導入している。スイスでは全国に先駆けチューリヒ電力 ( EKZ ) が導入を検討している。導入前に情報保護の安全面のチェックを情報保護委員会に依頼した。
「電気量の変動が分かるということは、いつ留守にしているか、いつ就寝しているかという、生活スタイルさえも知ろう思えば分かる」
と情報保護委員のブルノ・ベリスヴィル氏は説明する。民間企業のマーケティング垂涎の、利用価値の高い情報になりうる上、不法操作される危険もある。さらに、収集された情報の伝達の安全度も大きな問題だ。
最終使用量と電気料金が1年に1度しか通知されないチューリヒ州民にとって、随時使用量を知ることは便利だ。インターネットを通し、各家庭で使った電気量を個人が調べられるようにするのか、各家庭に設置されたメーターに限るのか。便宜性を優先するのか、情報保管の安全性を優先するのか。インターネットやワイヤレス回線に情報を載せれば、情報が漏えいする可能性は高くなる。
チューリヒ電力のプリスカ・ライアイダ広報担当者によると、5月には、対応できるインフラのある住宅で、実験台となることを了承した家庭およそ1000軒が実際にスマートメーターを取り付け、2年間の実証試験が始まる。2012年に導入の是非を決めるが、各家庭に設置されるまでには10年ほどかかるという。ライアイダ氏は
「情報を集める間は、チューリヒ電力でも情報源は分からないようになっている。請求書の作成時に識別するだけであり、情報の漏えいはない」
と語った。
プライバシーにかかわるデータは多くなるばかり
情報保護委員会はスマートメーターのほか、情報技術が進歩し、多くの情報が作集められていくに従い、その情報が個人のプライバシーにより深く係わったものになると指摘している。たとえ教育のためとはいえ、4年ごとに行われる調査の結果である学校ランキングや教師の評価をインターネットに載せることは、プライバシーの侵害であるという。
安全性の面から設置される監視ビデオの問題も注目されている。公共の場に設置されたビデオは10年前から増加の一歩をたどっている。最近になって、学校や病院、スポーツスタジアムなどがこぞってビデオを設置するようになった。
「施設へのいたずらを防ぐ効果は大きいが、プライバシーを侵害するものとなるのは、問題だ。記録されたビデオの保管方法や、保管期間など、技術を導入する前に、情報保護委員会の検査を受ける必要がある」
導入した後では、既に情報は漏れている可能性があるとベリスヴィル氏は語る。
佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch
チューリヒ電力が導入しようとしているのは、各家庭の電気使用量を把握する装置。
エネルギー節約のために、電気機器の使用情報を把握し、配電の効率化を上げることができる。欧州諸国で導入されている。日本では東京電力が今年度下半期に実証試験を行うことを決定した。
スマートメーターより1歩進んだ技術がデジタルメーター。家庭内の家電にチップを埋め込み電力会社とは無線でつながる。電力会社からの指令で、家電の使用状況により、電気機器のスイッチを入れたり切ったり、暖房機器の温度の調整をしたりして、配電量を調節することができる。スイスでは、今年秋から市場にお目見えする予定。
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