スイスでは住宅価格が上がり続けている。マイホームの夢は非現実的になるばかり。スイス第三の銀行ライファイゼンが、スイスで住宅購入に必要なお金を試算した。
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スイスの不動産はこれまでも高かったが、輪をかけて価格上昇が進んでいる。ライファイゼン銀行外部リンクによると、4~6月期の住宅価格は戸建てが前年同期比5%、共同住宅は1.6%それぞれ上昇した。
限られた収入
不動産市場の金利は現在、歴史的に低い水準にある。住宅ローンを組むにはこれまでにない好環境のはずだが、家の購入を促す状況ではない。
ライファイゼンのチーフエコノミスト、マルティン・ネフ氏は「規制上の制限や急速な価格上昇により、住宅の購入希望者はより多額の自己資本と所得上昇の見込みがなければ、資金繰りができない」と話す。
戸建てを購入する自己資産のある人の割合は、州により18~44%と試算する。
さらにローンの返済に十分な高い所得となると、「多くの場合は難しく、ほとんど克服不能な障害といえる」(ネフ氏)。試算では、100万フラン(約1億800万円)の住宅を買うには自己資本20万フラン、最低17万6千フランの年収が必要だ。
不動産購入の条件
巨大な負債の山
スイスの不動産市場にはもう一つ特徴がある。住宅ローンの返済が異様なほどゆっくり進むことだ。
多くの国では、ローンは一世代、つまり20~25年で完済されることが想定されている。だがスイスでは一生かけても返済できないことも珍しくない。購入者自身ではなく土地に対するローンは通常、次の世代に引き継がれる。
それには二つの理由がある。第一に、不動産価格が上がりすぎたため、短期間で返済するのが難しくなったことだ。第二に、住宅ローン金利の支払いは所得税の控除の対象になるため、ローンを組む誘因になっている。
スイスは個人の抱える負債額が世界でもトップクラスだ。昨年末には住宅ローンの負債総額が1兆フランの大台を超えた。
スイスでは、原則として住宅価格の8割まで銀行でローンを組める。残りの2割は自己資本で購入者が手当しなければならない。
かつてこの自己資金は、日本の厚生年金にあたる企業年金(被雇用者は強制加入)の前借り金で賄うことができた。だが2013年7月1日以降は、少なくとも1割は他の資金源(貯金、任意加入の個人年金積立金、家族内の借金など)で工面しなければならなくなった。
政府はこの措置により、バブルが発生するリスクを抑えるとともに、老後の資金を十分に確保させることを狙った。
以降、スイスでの不動産購入はさらに難しくなった。1割の自己負担のほかにもさまざまなコストを自分の財布から出さなければならない。購入価格の最大4%に相当する額で、企業年金からは支出できないコストだ。
例えば100万フランの土地であれば14万フランは「真の」自己資産から負担しなければならない。
ライファイゼンは、借金にかかる費用も計算した。基準金利が平均で5%、減価償却と維持費が毎年不動産価格の1%かかる場合を考えると、これらの費用が総年収の33%以下でなければ購入できない。
100万フランの不動産を購入する場合は、20万フランを自己資産で払い、80万フランのローンを組むことになる。金利の返済が4万フラン、減価償却と維持費が1万フランずつかかり、合計で年6万フランが必要だ。これはライファイゼンによると、最低17万6千フランの年収がある世帯でなければ購入は不可能だ。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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2015年1月のマイナス金利政策の導入以降、スイス国立銀行(中央銀行)は現金を金庫に眠らせる国内銀行に30億フラン(約3400億円)以上を課してきた。
超法規的な政策金利はこの数年、伝統的な投資に対し大きな損害を与えてきた。銀行や保険会社、資産管理会社や年金基金などが保有する国債がその代表だ。
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メーダー教授は社会格差が生まれる原因を長年研究。10億フラン以上の資産を持つ大富豪に関して「コツコツと自分の力で上り詰めた人はいない」と指摘する。
スイスインフォ: 調査によれば、スイスには莫大な富が集まっています。大富豪をこれだけ魅了する理由は何でしょうか?
ウエリ・メーダー: 安定した政治と(大富豪にとっての)有利な税制だ。とりわけ資産と遺産関連の税制が魅力で、海外から多くの資金が集まっている。優れた投資コンサルティングもある。一部の経済界では、非常に高額の給料がもらえることも一因だ。
スイスインフォ: 大富豪はどのようにしてこれだけの富を得たのでしょうか?
メーダー: 裕福な家庭の生まれか、その一族と結婚して資産を相続するなどのケースが多い。2016年に1年間連邦大統領を務めたヨハン・シュナイダー・アマン経済相や元閣僚のクリストフ・ブロッハー氏の子孫などが有名な例だろう。
スイス国内全体の遺産相続関連資産の4分の3を、相続者全体のわずか1割が独占している。この国である人の資産が急激に増加した場合、例えば国内の億万長者上位300人が資産を1千億ドルから6千億ドルに増やしたとすると、それはだいたいが遺産相続によるものだと想像できる。
また、特定の経済界で法外な給与が支払われていることも、億万長者を生んでいる理由の一つ。働き者で斬新なアイデアを持つことも確かにその理由に挙げられるが、過大評価されている面が否めない。大富豪の多くは斬新なアイデアなど持っていない。地価の上昇で利ザヤを得るなどのマネーゲームをしているだけだ。
スイスインフォ: 億万長者は外国人とスイス人のどちらが多いのでしょうか?
メーダー: 億万長者の約半数が国外から移住してきた人だ。彼らにとってスイスが魅力なのは、スイスの納税額には上限があり、一定のラインを超えるとその額が変わらないこと。過去には銀行の秘密主義も外国人を魅了した。現在では、大企業関連の富も多く集まっている。
スイスインフォ: 良い学校を出てまじめに働き、運にも恵まれて巨万の富を得た人はいないのでしょうか?
メーダー: 資産家の大半は何もしなかったのではなく、何かしら自ら努力している。しかし、金融ビジネスなどでここ10年の間で急激に資産を増やしたケースを見ると、自ら汗を流してきたとは言えない。
スイスインフォ: 例えば皿洗いから大金持ちにのし上がる人もいます。まじめに働いて大富豪になれるのでしょうか?
メーダー: そのようなまじめな人はいない。これらの富は常に他の人の犠牲の上に成り立っている。大富豪の多くは、あたかも自分の力で苦労して富を増やしたかのような感情を抱いているが、それはまやかしだ。
バーゼルで私は時折、経営者に会う機会がある。一人がこんなことを言った。「メーダーさんは、助けを必要としている人に常に手を差し伸べるのですね」と。そういう彼自身が経営する会社は親から受け継いだもので、資産だって自分が稼ぎ出したものでないことに、彼自身全く気付いていない。
スイスインフォ: しかし「幸福は自らの手で築くもの」「努力なくして成功なし」ということわざがあります。これは間違いなのでしょうか?
メーダー: スイスにはフルタイムで働いているのに成功していない人はたくさんいる。給料が少ない業界にいるからだ。まじめに働いたら富を築けるという保証はどこにもない。
スイスインフォ: この国では資産家は歓迎されています。多くの地方政治家が、資産家に有利な施策を打って富裕層を呼び込もうとしています。これは地元社会にとって良いことなのか、それとも悪いことなのでしょうか?
メーダー: 私たちに利益は生じない。確かに、資産家が支払う多額の税金は小さな自治体においては影響が大きい。だが第一に、彼らに自治体が依存するようになってしまう。さらに自治体と州の間で税率の引き下げ競争が始まり、結果税収が減って不動産価格と地価が上昇してしまう。第二に、例えばある富を複数の人間が少しずつ分け合っていたとする。この場合、各個人の所得税などの税額は上昇する。一人が同じ富を独占し多額の税金を払うのと全体の税収額は結果的に変わらない。
社会の連帯と平和な労使関係を重要視する民主主義国家にとって、富がより良く分配される方が確かに好ましい。
私は裕福な人を非難しているのではない。ただ、お金持ちが地元に住んでいるからといって感謝する必要はない。一方では生計を立てるのに身を粉にして働いている人がいて、他方では裕福な家庭に生まれ苦労を知らない人がいる。そんな格差を目の当たりにするとやりきれなくなるが、それでもお金持ちが地元にいることに感謝してしまう、そういう気持ちは残念ながら文化的に根付いてしまっている。
スイスインフォ: スイスでは第二次世界大戦後、コツコツ働いてそれなりの富を蓄えた中流階級がかなり増えました。
メーダー: 1950~70年代、幅広い層が経済的に豊かになった。72年の国内の失業者はわずか106人だったという。社会的補償というリベラルな概念が根付いたのはその時だ。勤労と資産はバランスのとれた関係であるべきだ。ここ数年、あるパラダイムシフトが起きている。今日では、仕事よりお金の方がはるかに重要になってきているのだ。お金が物事のすべてになってしまっている。多くの人は社会的な格差を問題視することなく、それを社会の活性化のしるしだととらえている。
スイスインフォ: スイスの状況はそれほど悪いのでしょうか?
メーダー: 最後に一つ肯定的なことを言うならば、私は資産家を何人か知っているが、彼らは現在の状況に批判的で、そこに潜む危険性をよく分かっており、抑制的になるよう呼びかけている。富の格差
経済協力開発機構(OECD)の2015年調査によれば、億万長者が人口に占める割合はスイスが世界で最も高い。スイス国内の大富豪上位300人は、3人に1人が10億フラン以上の資産を保有。これは世界の大富豪の14人に1人がスイスに住んでいる計算になる。
スイス労働組合連合の16年の報告によると、スイス国内の高額納税者の2.1%が持つ純資産は、残りの97.9%が持つすべての純資産と同じ。約4分の1の納税者については、純資産が非課税。
資産の配分を示すジニ係数は、0~1の数値を取り、1だとすべての資産を1人が独占している状態で、0だと資産が均等に分配されている状態。つまり、1に近いほど格差が大きく不平等になる。公式な統計では、スイスのジニ係数は0.8で、世界で最低ランク。
自分の力で大富豪になれるのか?
「コツコツ働いているだけでは莫大な財産は得られない」という説には、研究者の間でも異論が出ている。社会奉仕活動に詳しいバーゼル大のゲオルグ・シュヌルバイン教授は「経営者家族の下に生まれた人が優れたアイデアを考案し、それがビジネスとして成功した場合、それは間違いではない」と指摘。「ビジネスの発展には、ある種の徹底した厳しさが背景にあったということは否定できない。しかし、裕福になった人が必ず悪いことをしたと考えるのは間違いだ。貧しい人自身にも責任はない。裕福になるのはその時の社会環境も理由の一つだ」
同教授によれば、スイスは多くの大富豪から恩恵を受けているという。例えば同教授は社会、文化、環境団体は「金持ちの慈善行為に依存している」と指摘する。
国内にいる大富豪の大半は経済界で財を成した人たちだ。海外からの移住者が多いのは、魅力的な税制、地理的な利点、治安の良さと安定した政治、金融の中心地があることなどのスイスの特性が大きな理由となっている。
自治体が富裕層をうまく呼び込めるかについて、シュヌルバイン教授は「内的矛盾をはらんだ戦略と言える。少数の人間が予算を支えている場合、リスクは極めて大きい。この少数の人間はいずれ別の場所に移住するかもしれない。それまで潤沢な財政を背景に予算を組んでいた自治体は窮地に陥る」と話す。
また同教授は、私有財産が非常に増加してきたとし、「一部の人間は巨万の富を得た。グローバリゼーションの影響で、富があるところにさらなる富が集まるようになった。ある一定のレベルに達すると、富を得るために何もしなくてもよくなる」と話す。
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