連邦内務省保健局が先月14日に開始したキャンペーン「LOVE LIFE 〜 No Regrets」のポスター。HIVだけでなく、淋病、クラミジア、梅毒などの感染予防と根絶を呼びかける
Keystone
12月1日は世界エイズデー。スイスではどのようなHIV(エイズウイルス)感染予防の取り組みが行われているのか。またスイスの今日のセックス事情は?
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2016/12/01 11:00
大野 瑠衣子
2004年から日本およびスイスの映像・メディア業界で様々な職務に従事。
今日、スイスにおけるHIV感染者の割合は0.3%と比較的低い。国連合同エイズ計画(UNAIDS)外部リンク が今年発表した世界のエイズ事情によれば、新規HIV 感染者は2010年以降、全世界で6%減少し、15年の新規 HIV 感染者は、10年の220万人から210万人に減少。HIV感染予防とその撲滅をミレニアム開発目標(the Millennium Development Goals)の一つとして掲げる世界保健機関(WHO)もまた、国際的な努力により、世界規模で780万人もの命が救われたと報告している。
しかし連邦内務省保健局外部リンク によれば、スイスは未だ、国際連合エイズ合同計画によって「HIV流行が濃厚な国」に指定されているという。
HIV流行が濃厚な国、スイス
その理由は、男性同性愛者の約1割がHIV感染者であること、またサハラ以南のアフリカ諸国のHIV流行国からの移民と薬物使用者のHIV感染者は3割と、高い数字を示していることにある。
スイス国内の同性愛者の数は、同性愛者の定義がはっきりしないなどの理由から未だあいまいなままだ。しかし1912年に創立された青少年の権利保護団体「プロ・ユヴェントゥーテ(Pro Juventute)外部リンク 」は、スイスの同性愛者は全人口の3~10%だと推測。当局によれば、男性同性愛者による同性間性的接触での感染率は比較的高い傾向にあるという。事実、スイスでは2002年以降、男性同性愛者の感染率が継続的な増加を見せている。
また、今日スイス人口の25%を占める外国人においても、言葉の問題や、育った文化を背景とする意識の違いなどから感染者が増える傾向にあり、スイスは世界の諸国同様、男性同性愛者、サハラ以南のアフリカ諸国からの移民、薬物使用者を「特に感染予防が必要なグループ」として位置付けた。
国籍や性別も関係なくあらゆる人へメッセージ
そのような背景もふまえ、当局は世界エイズデーを前に、先月14日からキャンペーン「LOVE LIFE 〜 No Regrets外部リンク 」最新版を開始。毎年行われる同名のキャンペーンでは、HIVだけでなく、淋病、クラミジア、梅毒などの性病も予防対象とし、その感染予防と根絶を呼びかけている。
広報担当のアドリエン・カイ氏は今キャンペーンについて、「スイスの(同性愛者や移民を含む)性的な活動がある、全ての人を対象に行われている。同性愛者や移民を対象にした特別な取り組みも用意している」と話す。
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また今キャンペーンでは、「パートナーを変えても、安全なセックスはそのままで」をモットーに、女性と男性、男性と男性、また肌の色が違う男女が顔を近づける写真を大胆に使ったポスターが、スイス全国のあちこちに貼られている。
「特に今回は複数のパートナーとの性的接触に焦点を当てている。性的接触によって感染する性病を撲滅するためのカギとなる」(カイ氏)。
スイスのセックス事情
11月にスイスで18~64歳の成人3万人を対象に行われた、セックスに関するオンライン調査「スイスのセックス事情外部リンク 」では、スイス人男性がこれまでに性的接触を持ったパートナーの数は平均で6.9人、スイス人女性では5.6人であることが明らかになった。過去1年間を平均すると、男性は2.1人、女性は1.5人だった。
男性のほぼ4分の1にあたる23%がこれまでに20人以上とセックスしたと答え、女性は14%が同様の回答をした。
また女性同性愛者が性的接触を持ったことのあるパートナーの数が平均6.1人であるのに対し、男性同性愛者の平均は14.7人と比較的多い。ちなみにバイセクシャル女性は13.5人、バイセクシャル男性は11.3人だった。
HIV感染者の割合が低いとされるスイスではあるが、同性愛者の感染率の高さや外国人の割合の多さ、そしてスイスのセックス事情における調査結果などから感染予防の取り組みが行われ、同時に性病への感染予防活動も積極的に行われている。
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教会のルールに厳密に従うべきか、それとも同性カップルを祝福すべきか。こうしたジレンマに悩む神父は近年多くなっており、中にはどの信者も教会から祝福を受ける権利があると考える神父もでてきている。
ゲオルク・シュムッキさんは同性婚を支持する神父の一人。これまで数組の同性カップルを祝福してきた。最初の1組目は内密に行ったが、次第に教会内で祝福するようになった。しかし、このことを聞きつけたザンクト・ガレン司教のマルクス・ビュッヒェルさんは、教会のルールに反しているとシュムッキさんをとがめた。今のところそれ以降の処分は行われていない。
ビュッヒェルさんは、同性カップルが役所で式を挙げることに問題はないとする一方、カトリック教会がこうしたカップルを祝福することに反対している(スイスで結婚する場合、カップルは役所で公式に結婚を認めてもらわなければならない。キリスト教信者はそれに加え、教会で式を挙げ、教会からも結婚を認めてもらう)。
ビュッヒェルさんはまた、同性カップルを祝福すれば、結婚は男女の結びつきとする教会の考えに反すると主張する。
レズビアンカップルのブリギッテ・レースリさんとマヌエラ・ウールマンさんは近年、教会で式を挙げた。敬虔なキリスト教信者だった二人は、教会で愛を誓いあうことが大事だと考えていたからだ。挙式には大勢の人が駆けつけたが、中には「神への冒涜だ」と出席を拒む人もいた。
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