スイスの大学は世界ランキングで上位に食い込んでいる。だが大学自身はどうとらえているのか?ランキングによって順位が大きく異なるのはなぜか?
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世界大学ランキングはグローバル化や競争の激化、多様化が進む中で大学の質を見る大きなヒントになる、と考える人もいれば、大学がランキングで評価される研究ばかりに目を向け、真の教育や社会的責任がおざなりになる、と顔をしかめる人もいる。ランキングの評価軸が上位200位の大半を占める欧米の大学が有利になるようにできている、との批判もある。
スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)外部リンクは総じて国内最高の評価を得ている。姉妹校の同ローザンヌ校(EPFL)外部リンクが2番目だ。今年のノーベル物理学受賞者2人を輩出したジュネーブ大学も、次のランキングでは順位を上げる可能性がある。
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スイス人科学者マイヨール、ケロー両氏にノーベル物理学賞
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スイス人科学者のミシェル・マイヨールとディディエ・ケロー氏は宇宙の謎の解明に貢献した功績で、米国のジェームズ・ピープルズと共に2019年度のノーベル物理学賞を受賞した。スイスでは9、10人目の快挙だ。
スウェーデン王立科学アカデミーは8日、ジュネーブ大学のマイヨール氏、ケロ氏による「太陽系の星を周回する太陽系外惑星の発見」に対し、2019年物理学賞を授与すると発表した。
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タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)世界大学ランキング2020では、スイスは200位以内に入った大学の数が人口当たりで世界一だった。
スイスにとって重要なランキングは?
スイス連邦教育研究革新事務局(SERI)外部リンクはオンラインプラットフォームuniversityranking.ch外部リンクでTHEとクアクアレリ・シモンズ(QS)、上海交通大学の世界大学学術ランキング(ARWU)、オランダのライデン大学CWTSランキング外部リンクを紹介している。このサイトは上海交通大学が2003年に初めて大学ランキングを発表した際に関心が高まったのを受け、06年に開設された(大学ランキング自体、歴史は割と新しい)。SERIはスイスインフォの取材に対し、4大ランキングに序列をつけるわけではなく、スイスの大学が異なるランキングでどのような位置に立つかを要約するものだと説明した。「評価手法を解説し、何より人々がランキングを誤解しないようにするのが目的だ」という。
SERIは、ランキングがさらに高い教育・研究方針を立てるために存在するのではなく、上位の大学が為政者や将来の学生に売り込むのを助けるとも話した。
スイスの大学の意見は?
スイスの大学はランキングの長所・短所に気づいている。THE2020で13位タイと、米英以外の大学で最高位に立ったETHZを見てみよう。
「ランキングは複数の大学を比較するのには便利だが、大学の一面しかみていない」。ETHのジョエル・メソット学長は書面で説明した。「ETHZの運営方針は基礎研究や専門家の育成を行い、新しい知識を経済・社会に届けるという連邦政府からの使命に基づいている。こうした環境のもとで、ETHZは世界最高の大学の一つに位置づけられるのは大きな成果だ」
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THE2020では144位だったジュネーブ大学は、順位を上げるために特段の取り組みは立てておらず、「教育と研究の向上」に集中しているという。広報のマルコ・ゲラルド・カッタネオ氏は、2人のノーベル賞受賞者は「どのくらいかは言えないが、ランキングにいい影響を与える」ことが期待されると話した。
THEの上位200校は世界の大学の上位1%を占め、学者・学生への影響は無視できないとも語る。だがランキングがすべてではなく、特に「順位の上昇・下落に過剰反応するべきではない。たいていは方法論の変化が原因」で、取り扱いには注意が必要だという。
ランキングは何を評価している?
THEのランキングは5分野(指導・評判、研究、被引用論文、国際性、産業収入・イノベーション)13項目の評価軸に基づく。QWの評価軸は5項目で、最も比重が大きいのは学術的な査読(40%)だ。ARWUは賞や被引用論文の数など研究により重点を置き、ライデンは書士統計学的な指標に基づき科学的な成果を重視する。
こうした違いにより、ETHZはTHE2020で13位、QS2020では6位という違いが生じる。
一体どれが最高の大学なのか?
判断は難しい。THEのフィル・バティ最高知識責任者ですら、ツイッターで「正確・厳格な大学ランキングは存在しない」と述べている。
バティ氏はチューリヒで開かれたTHEサミットで、スイスインフォの取材にランキングは「採用する評価項目や関数、比重により大きく異なる」と話した。
「ランク付け機関として正直でいなければならない。誰かが(意図的に)ETHZが世界で13番目に優れた大学で、オックスフォードがトップになるような細工はしていない」。ランキングの結果はあくまでも「業界との協議で決定された」特定の評価グループに基づくと話した。
そのため、バティ氏は自分の用途に応じてデータを「分解」することを勧めている。例えば学生なら教育に関する指標を重視し、博士号研究者は引用数や評判を見る、といった具合だ。
THE2020で38位だったEPFLは、ホームページでランキングの抱えるジレンマをこう語る。「これらのランキングはどれも完全ではないが、調査した大学に一定の光を当てている。それらのランキングがグローバルなものであることを鑑みれば、学術機関の相対的な重要性や認知度、実績に関して相当信頼できる見解を与えているといえる」
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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