スイスではさまざまな自殺防止策が取られているが、それぞれが十分に連携しているとは言いがたい。連邦政府は10日の世界自殺予防デーにあわせ、改善策を打ち出した。
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連邦政府は世界自殺予防デーの10日、自殺予防のポータルサイト外部リンクを立ち上げた。自助団体、アドバイスや資料の検索が簡単にできる。スイス全土のさまざまな公共機関や専門家をワンストップで探せるようにした。
政府はこのサイトを、自殺予防の分野で活動する人々が協力し、支援の網の目をなくすのに役立てたいと発表外部リンクした。
連邦内務省保健局によると、スイスでは1日2~3件の自殺がある。特に多いのは75歳以上の男性で、身体的な負担を主な自殺原因にしている。「自殺する人の大半は本当に死にたいわけではない。自殺への衝動は一時的なもので、誰にでも生じうる」
連邦政府はサイトを通じて各自殺防止団体を支援し、政府の掲げる自殺撲滅計画の達成に繋げたい考えだ。政府が2016年にまとめた同計画には、簡単ですぐにたどり着ける支援策を提供し、国民の関心や国内外の好事例を広めることなどを盛り込んだ。
計画は、国民10万人当たりの自殺者数(自殺ほう助を除く)を2030年までに4分の1減らすことだ。人口増を計算に入れると、年間約300件減らす必要がある。
自殺予防団体は政府の取り組みに好意的だ。農家支援団体・プロメテールのベアトリス・マンソー氏は「新しい試みはどんなものでもありがたい。それをきっかけに支援を効率化したり自殺予防について議論したりできるからだ」と述べた。同団体は農家の経済状況の向上を目指す「ヴォー州の哨兵プロジェクト外部リンク」に取り組んでいる。統計によると、農家は特に自殺しやすい傾向があるためだ。マンソー氏は「包括的な協力体制を組むことは、知見を交換するのに役に立つ。だが大事なのは、何よりもまず現場で、地域レベルで支援することだ」と話す。
無料電話相談を手がける「差し伸べられた手外部リンク」も情報交換の場ができたことを好感する。フランコ・バウムガルトナー事務局長は「だがプラットフォームという形式はこれまでのところ成果が出ていない。試みが機能するよう、改善が必要だ」と語った。
バウムガルトナー氏もスイスの自殺予防団体には連携が足りないことを指摘する。「連邦は団体同士の協力関係を強めることを約束した。だが目標を達成するための資金が足りない」
2018年の世界自殺予防デー外部リンクのキャッチコピーは「自殺をなくすためにみんなで協力を」。
国際自殺予防学会はこの日、周りの人と対話し、耳を傾け、場合によっては相手が抱えている悩みを見つける時間を取るよう呼びかけている。
また同日午後8時にロウソクを窓辺に飾り、自殺防止への決意を示す呼びかけもある。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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スイスは自殺ほう助の先進国だ。年老いた人が自殺する権利は事実上規制されておらず、外国人が安楽死を求めてスイスを訪れる「自殺ツーリズム」がブームになっている。このリベラルな現状を見ると、スイスでは自殺ほう助が肯定的に受け止められているような錯覚に陥るが、実際は違う。自殺ほう助は政治や宗教、社会通念や倫理などといった価値観との戦いの連続だ。たとえ差し迫った状況にあるからといって、人の命をどうするか、そもそも問うていいものなのか。自殺ツーリズムを法で規制するか否かの議論はいまだ消えることはない。
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農薬が自殺手段として使用されることが多い国では、農薬販売を規制して衝動的な自殺を予防するプロジェクトが進んでいる。世界では自殺者の約3割が農薬を使用しており、農薬会社にも自殺予防への取り組みを求める声が上がっている。
スリランカでは2008年、農薬業界に衝撃が走った。同国の農薬に関する技術勧告委員会が、パラコート、フェンチオン、ジメトエートなど一部の農薬を市場から回収するよう命令したからだ。回収の理由は、これまでのように人や環境に与える危険性を回避するためではなく、農薬を使った自殺が同国で多発しているためだった。
世界保健機関(WHO)は、今年9月に発表した自殺防止に関する初の報告書で、農薬による自殺の多さを問題に取り上げている。その数は世界の自殺者の約3割に上ると推測されており、12年だけでも24万人が農薬を服用して自殺したとみられている。特に、農村人口の多くが小規模農業に従事する途上国や新興国で、農薬による自殺が拡大している。
企業責任
農薬が自殺の手段となっていることに対して、スイスの農薬大手シンジェンタなどのメーカーに責任を求める声が上がっている。しかし、「薬物や薬を使った自殺があるからといって製薬会社が責任を持つべきか、と尋ねるのと同じだ」と、国際自殺防止協会(IASP)のヴァンダ・スコットさんは話す。
農薬メーカーは農家を対象に、製品の安全な取り扱いに関する講習会を企画しているが、一方で農薬が本来の用途以外で使用されることについてはあまり関心がないようにもみえる。
シンジェンタの広報担当者は「農薬の事故と自殺目的での服用を分けて考える必要がある。使用説明書に沿って本来の用途に使用される限り、農薬は安全で効果的な製品だ」と話す。
自殺予防団体や研究者たちは、農薬メーカーの置かれている微妙な立場を認識している。
インドの自殺予防団体「スネハ(Sneha)」を設立したラクシミ・ヴィジャヤクマールさんは「死と結び付けられる製品を好む人などいない。農薬メーカーは問題に取り組む道を模索してはいるが、同時に、製品を売らなければならない」と言う。
農薬メーカーは、農薬の不正使用に対する直接的な責任は認めてはいないが、農薬へのアクセス制限が自殺予防につながるとの考えを示している。
スイスの農薬メーカー、バイエルクロップサイエンスの広報は「農薬を鍵のかかった場所に保管し、限られた人しかアクセスできないように制限することで、事故や自殺を防ぐことができる」と話す。
シンジェンタもまた、農薬の安全な保管方法を確保するために研究者や団体と協力する必要性を認めている。「私たちだけでは問題を解決できない。そのため、WHOやIASPと5年以上協力し、メンタルヘルスや農薬の安全な保管方法などを中心とした自殺予防プログラムを支援している」(同社規制管理部)
安全な保管方法の確保
自殺予防分野のトップ研究者たちが集まった07年のWHOの会議では、アジアの農村地帯で農薬を鍵付きの棚で安全に管理した場合に、どれほどの自殺予防の効果があるのかについて調査することが決まった。農薬の管理方法に注目されたのは、精神的に悩みを抱える人が簡単に農薬を入手できないようにするためだ。
調査国としてインド、スリランカ、中国が選ばれた。インドでは、農薬による自殺は首つり自殺の次に多く、自殺方法の第2位だ。
インド政府によれば12年の自殺者13万5445人中、約15%にあたる2万人以上が農薬を使って命を絶った。しかし、インドでは自殺が社会的に恥で、犯罪行為であることなどを考慮すると、報告されていない自殺も多い。
農薬を鍵付きのロッカーで集落ごとにまとめて管理する試みは、10年に初めてインドのタミル・ナドゥ州の二つの村で実施された。
「この村では花が栽培されており、15日ごとに農薬が散布される。農薬の使用頻度が高いことからこの村が選ばれた」と、調査を進めているヴィジャヤクマールさんは説明する。
当初、二つの村は共同の保管ロッカーの導入に消極的だった。畑とロッカーの間を行き来しなければならなくなるからだ。だが、通うのに便利な場所にロッカーが設置され、また定期的に店に農薬を買いに行く必要もなくなるので、最終的には人々に受け入れられた。
「初めは理解を得られず、保管ロッカーの利用率は4割だった。だが、今は満杯で、もう一つ保管場所を確保しなければと考えているところだ」(ヴィジャヤクマールさん)
結果としては、二つの村では導入から18カ月間で自殺者は26人から5人に減り、自殺防止に効果がみられた。
農薬へのアクセスを制限することで、さらにマハーラーシュトラ州やアーンドラ・プラデシュ州、チャッティースガル州、カルナータカ州などの半乾燥地域でも自殺防止が見込まれている。この地域では、農業従事者の6割が自殺し、農薬を使った自殺が多い。
農薬の入手制限プロジェクト
農薬の管理方法を変えること以外にも、「有毒な農薬の一部を販売禁止にすれば自殺予防に大きな効果が期待できる」とヴィジャヤクマールさんは指摘する。
例えばスリランカは1995年、WHOが最も毒性が高いとする農薬の輸入・販売を制限し、98年には殺虫剤に使用されるエンドスルファンも制限した。これにより、同国ではこの時期の自殺者数が減少。規制実施後の10年間(1996~2005年)では、それ以前の10年間(1986~95年)と比べ、自殺者は約2万人少なくなった。
WHOは自殺防止に関する報告書で、管理方法の見直しや販売制限など農薬へのアクセスを制限することは「このおびただしい数の自殺者を減らす手段として、大きな可能性を持つ」と指摘している。首つりや、薬物や銃による自殺に比べ、農薬自殺の危険のある人は見つけやすく、農薬に近づけないようにすることも簡単だからだ。
英エディンバラ大学の研究員、メリッサ・ピアソンさんは現在、農薬を安全に管理し自殺予防を試みるプロジェクトをスリランカで進めている。「農薬自殺の多くが、衝動的で発作的なものだ。インドや中国、スリランカのこれまでの調査から、自殺率の高い他の国で見られるような、死に対する強い決意があるわけではないことが分かっている」
ピアソンさんのプロジェクトはスリランカの162の村で2010年に始まった。農薬の入手制限による自殺予防計画では最大規模の試みで、注目が集まっている。プロジェクトの成果報告書は、インドと中国の調査データと同様に、16年に発表が予定されている。
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