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人種差別対策、予防としての教育や被害者への援助を促進

「多様性。これこそスイスの価値では?」というタイトルのポスター。スタッフにおいて、人種、国籍が最も混在する場所の一つが病院だ semainecontreleracisme.ch

3月21日は「国際人種差別撤廃デー」。この日からの1週間をカナダのケベック市が「人種差別撤廃の週」と定めた。スイスのフランス語圏6州とイタリア語圏のティチーノ州は、今年この週に合同キャンペーンを張った。

キャンペーンでは、イベントが各州で実施される一方、「多様性。これこそスイスの価値では?」というタイトルのポスターが共同制作された。4カ国語が公用語のスイスは、まさに多様性の上に成立する小国。だが、外国人が170万と人口の約22%を占める今日、人種差別問題は複雑さをきわめる。具体的対策では、差別予防の教育や、人種差別の被害者援助などが始まっている。

 スイスのフランス語圏では1950年代、まずイタリア人が建設やホテル業界で働く移民としてやってきた。次いでスペイン人、ポルトガル人が続いた。彼らはカトリック教徒の上、言語の類似性もあり、フランス語圏社会にスムーズに融和していったといわれている。しかし、今日でもポルトガル人を差別する隠れた言動などが学校などで存在する。

 さらにフランス語圏では言語のせいもあり、北アフリカやサハラ砂漠以南の国々からの移民も多く、中には違法入国し仕事につかず街にたむろしたり麻薬のディーラーを行ったりする若者もいる。

 一方、ドイツ語圏では初期はイタリア人、続いてコソボ自治州のアルバニア人、そしてドイツ人が労働者として移住してきた。ところが、病院の医師など知的職業をドイツ人に奪われているチューリヒ州などで、今日ドイツ人への反感が高まっている。

 病院などの仕事場でフランス人に対する差別は、フランスに国境を接するジュネーブ州でも顕著だ。

 こうしたドイツ人、フランス人への仕事上での差別は人種差別(レイシズム)とは異なり、むしろ差別(デスクリミネイション)という表現がふさわしい。こうした定義の問題を、ジュネーブ州の外国人融和対策課のアンドレ・カステロ氏は次のように説明する。 

 「厳密には、主に肌の色や宗教などで他者を排除するものが人種差別。これは他者に対する恐れとして人の心の中に確実に存在する。ところが、ドイツ人への反感などは差別、他者の排斥だ。州や自治体の対策では人種差別を他者の排斥・差別として同じカテゴリーの中で扱う」

人種差別は密かに行われる

 ジュネーブ州ではこの4月から、人種差別の被害届けを電話で受け付け、その後実際に会って具体的援助を提案するプライベートの「電話相談・対策機関」が開設され、州がその資金を出す。

 前出のカステロ氏は州の職員としてこの機関を担当するが、今後考えられる被害届けの内容について、「例えば黒人がアパートを借りようとして断られるケースが考えられる。しかし貸し手は、もちろん黒人だからという理由ではなく、ほかの理由を言ってくる。人種差別は微妙に密かに行われることが多いのだ」と言う。

 被害者への援助方法には色々ある。この黒人が仲介者を立て穏便に事を運びたいのか、それとも、スイスでは差別的言動は刑事法によって裁かれるため裁判に持ち込みたいのかは自由だ。いずれの場合も支援することになるという。

 

 「ジュネーブでは、とにかく住居が絶えず不足している。それは緊張、不満を生み出し、人種差別となって現れる。仕事が見つからない。それが心の中に潜む人種差別となって噴出する」とカステロ氏は続ける。

 大切なのは、こうした心の中に潜む、人類にとって普遍的な「人種差別の芽」を、幼い時から認識させることだ。「こうしたものがみんなの心の中にある」と知ることでかなりの予防になると考えるジュネーブ州では2014年から小学校低学年に人種差別についての授業を導入していくという。

 最後にカステロ氏は、こう付け加える。「麻薬ディーラーや多数の盗難被害、暴力事件などがあるものの、州民の4割が外国人であることを考慮に入れればジュネーブ州はほかの都市などに比べ、外国人との共存がスムーズに行われている方だ。アフリカ人やアラブ人も他州より、外国人に慣れているジュネーブの方が住みやすいと話している」

具体的な対策を講じるローザンヌ市

 これに対し、外国人が34%を占めるヴォー州ローザンヌ市の行政官、オスカー・トサト氏は、不法移民などが引き起こす事件をより深刻に受け止めている。「人種差別には、解決の難しい人類に普遍的な差別という現象と、一方で行政がきちんとした対策を行わないが故に起こる犯罪行為や移民問題がある。この二つは分けて考える必要がある」と強調する。

 「ローザンヌ市で家の放火や車の放火があり、犯人を捕まえてみれば外国人。通りでたむろする麻薬ディーラーも不法移民の若者。結局こうした問題は都市で起こり、都市が解決法を探っていかなければならないのだ」と話すトサト氏は、しかし政府も都市の行政に法的レベルで支援を行うべきだと主張する。

 例えば、こうしたビザなしの不法移民の若者に見習いなどの教育をローザンヌ市では試みている。教育を与えて社会に融和させなければ、永遠に街にたむろして事件を起こし、それがひいては人種差別を引き起こすからだ。「ただし、現行のスイスの法律では、不法移民名族の子どもや不法移民の若者に対する教育義務はない。したがって政府は連邦議会で早急に法改正を行い、彼らに教育を与えるべきだ」

 また、ジュネーブ州やローザンヌ市で急増しているひったくりやスリ、強盗事件。中・東ヨーロッパの国々からの不法移民が事件を起こしているといわれるが、これに対しても「ローザンヌ市はまず警察官の数を増やしている。ただ、こうした軽犯罪者を刑に処すことはできない。さらにこうした外国人を生活できる環境に持っていくことが大切なのでは」とトサト氏は言う。

 トサト氏は、ローザンヌ市が行う軽犯罪者に対する対策の改善を図ろうと、実は昨年、コソボやイタリア、フランスの警察を訪ねた。「どこも外国人の軽犯罪者で溢れ、これ以上拘束はできないと嘆いていた。他人の財産に頼って生活すると決めた人は世界中に存在するのだ」

 しかしトサト氏はあくまで前向きだ。「拘束ではない解決法を探っている。人間は罰を与えられて向上することはないからだ。だが、こうした外国人に対する対策は必ず存在する」

3月21日は「国際人種差別撤廃デー」。カナダのケベック市は2000年、この日からの1週間を「国際人種差別撤廃の週」に定めた。

スイスのラテン系の州(フランス語圏6州とイタリア語圏のティチーノ州)は、今年初めてこのケベック市の提案に参加し、合同のキャンペーンを行った。

その他の国際的動きとして、2004年に人種差別に反対する世界の都市の連合組織「国際人種差別撤廃連合都市」ができた。現在、104都市が加盟。スイスの加盟都市は、ローザンヌ、ジュネーブ、ベルン、ヴィンタートゥール、チューリヒ。

「人種差別・反ユダヤ主義撲滅基金(GRA)」によれば、2011年に問題となった人種差別の件数は66件。2010年は109件。2007年は139件だった。従って件数は減りつつある。

20年間統計を取り続けている同組織のロニー・ベルンハイム氏によれば、「政治的に右派政党による攻撃的な外国人排斥の言動が2011年は少なかったことが影響し、また種々の組織による努力が実を結びつつあるからだ」という。

(以上は、2012年3月12日付け外電(SAD/ATS)による)

一方、2011年6月に発表された「人種差別に関する連邦委員会(CFR)と「人権協会共同のレポート」によれば、2010年は、肌の色やイスラム主義への反感、外国人嫌いが原因の人種差別が多かったとしており、件数もGRAのものより多く、178件。

また、2010年の人種差別による被害者の件数を出身地域別で以下のようにレポートしている。サハラ砂漠以南(42件)、中央ヨーロッパ(26件)、北アフリカ(23件)。

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