スイスで原子力発電が商用化されたのは50年前、スイス初の原子力発電所、ベツナウ第1原発が稼働した年だ。今も稼働する原子力発電所としては世界最古の原子炉の一つだ。
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ベツナウ第1原発は同第2原発とともにスイス北部、アーレ川の中州に建つ。稼働を始めたのは1969年12月9日。これより古い原発はインドや米国などわずかしかない。
稼働は中止になる寸前だった。同じ年の1月にスイス西部リュサンにあった研究用地下原子炉で、一部メルトダウン(炉心溶融)が起きたからだ。これにより、原子力発電で完全自給を実現しようというスイスの野望は破れた。
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米国の原発技術を使ったベツナウ原子炉の稼働は、スイスのエネルギー政策の歴史に新たな1ページを刻んだ。ベツナウ第2(1972年)、ミューレベルク(1972年)、ゲスゲン(1979年)、ライプシュタット(1984年)原発も稼働し、この15年間でスイスのエネルギー供給の4割をカバーするまでになった。
広がる反対論
ベツナウ原発が作られたのは、原子力発電に対し幅広い国民の支持を得られた時代だった。新しいエネルギー源の平和利用によって、エネルギー不足を恐れる必要のない社会が到来すると世界が陶酔した。
風向きが変わったのは1970年代初めだ。原発に反対する組織が次々と生まれ、反対運動が定着した。原子力エネルギーのリスクと放射性廃棄物の処理問題に対する懸念により、世の中の風当たりはますます強まっている。
1975年、アールガウ州カイザーアウグストの原発建設予定地を数千人が占拠した。この時から、原子力発電はスイス社会で激しい論争の的になった。
その後数十年間、スイスの有権者は原発政策を繰り返し国民投票にかけた。直近は2017年で、原子力発電の段階的廃止を求めた新エネルギー法が可決された。
広がる抗議の声
建設当時、ベツナウ原発に抗議する声はなかった。だが近年、原発が注目を浴びる機会が増えている。2014年3月、環境団体グリーンピースがベツナウの敷地を占拠し、原発の閉鎖を要求した。同団体のメンバーは1993年にも敷地に立ち入っていた。
2015年3月、ベツナウ原発は原子炉圧力容器に異常が発見されたため運転を停止した。運営する電力会社アクスポは検査の結果、安全性の問題はないと結論付けた。
スイス連邦核安全監督局(ENSI)はアクスポの検査結果を受け入れ、2018年3月に原子炉の再稼働を承認した。だがこの決定に対しては、このような古い原発の安全性は保障できるはずがないという批判が出ている。
アクスポは安全確保のために何百万フランも投資していると主張し、ベツナウは今後数年間稼働を続けられるとみる。ドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版は6月、スイス連邦エネルギー省の専門家は国内の原発が今後60年間は稼働を続ける可能性があると語ったと報じた。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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二国のエネルギー政策を取り巻く環境は共通する面が多い。日本とスイスはともに代表民主制を採る。輸出中心の工業立国であり、数十年間核エネルギーが重要な役割を担ってきた。2010年時点で両国とも原子力発電が電力総需要のほぼ3分の1を占めていた。
だが原子力の平和利用は核だけでなく現代社会を分裂させる。日本でもスイスでも、最初の原子力発電所の設立計画が動き出した1950年代、数百万人が危険な技術に反対してデモ行進をした。
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