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在宅勤務のすすめ

在宅勤務は、生産性を高め得る Keystone

ゆっくりと起きて朝食をとる。出かける必要はない。のんびりとした土曜の朝のように聞こえるが、これは在宅勤務が可能な仕事に就いている人々の一日の始まりかもしれない。

環境相の承認のもと、明日5月18日にスイス初の全国的なイニシアチブ「ホーム・オフィス・デー 」が実施される。これは、オフィスで働く労働者に時間の柔軟性を、そして環境に休憩を与えることを目的としている。

けがの功名

 「在宅勤務の将来性は大きいと確信しています」
 とモリッツ・ロイエンベルガー環境・エネルギー相は、ベルンで行われた記者会見でホーム・オフィス・デーの構想を紹介した。

 4月にアイスランドの火山が噴火し、ヨーロッパ中の空の便が停滞した。このため、ヨーロッパ諸国の大臣とのテレビ会議にロイエンベルガー氏も参加することとなったが、結果的にこれは非常に良い経験となった。
 「何人かの運輸大臣が、『こうした機会をもっと持ちましょう』と発言した」
 とロイエンベルガー氏は語った。

 ホーム・オフィス・デーを共同推進している企業や組織もある。マイクロソフトのスイス支社もその一つだ。このアイデアは、豚インフルエンザ感染の恐れが起きていたときに持ちあがった。

 マイクロソフト社の広報担当バーバラ・ジョセフ氏によると、公衆衛生が危機的状態にある間は、在宅勤務は賢明な選択だと同社は決定した。豚インフルエンザは下火になったが、このアイデアは残った。
  

もっと時間のフレキシビリティを

 ホーム・オフィス・デーの推進者は、在宅勤務は労働者、雇用者、そして環境と全てにとってメリットがあると主張する。
 「3つのメリットがあります。まずはフレキシビリティです」
 とジョセフ氏は言う。例えば、通常通勤に割いている時間を家族や余暇の活動に充てることができる。それによって仕事と生活のバランスを向上させることができる。

 またスイスの子どもたちは自宅で昼食を食べるために帰宅することが許されているため、在宅勤務によって親は子どもたちの昼食や放課後をどうするかというプレッシャーから解放される。

 第2のメリットは、雑音やその他の理由で仕事の中断が減り、生産性が上がることだ。ザンクトガレン大学のテクノロジー・マネジメントの教授オリビエ・ガスマン氏の研究によると、典型的な内勤労働者は1日平均44回仕事を中断させられる。

 「記事の執筆やプレゼンテーションの準備など、何か複雑なことをしなければならない場合、わたしは大抵家でやります。家ならば、中断する相手を限定できます」
 とホーム・オフィス・デーを支持する数人の政治家の1人、社会民主党 ( SP/PS ) のマリオ・フェール氏は語った。

ムダの削減

 ガスマン氏の統計によると、一般的な労働者は、会議の準備や出席のために1週間につき平均24時間を費やしている。そしてそのうちの多くは予定外の会議だ。1週間に1日在宅勤務をすることによって、生産性の低い会議のために費やされる時間を最高5時間まで削減することができるとガスマン氏の研究は分析する。

 また、ガスマン氏によると、在宅勤務という特典を利用できる労働者は、病気やバーンアウトになりにくく、在宅勤務を許可する会社に勤続する傾向が見られる。従ってスタッフの入れ替わりが減少するなどの理由によって生産性が一層向上する。
「条件が整っていれば、ホーム・オフィス・デーの実施は、意欲と生産性のほかにも集中力と創造性を向上させます」
 とガスマン氏は語った。

 在宅勤務の最後の、そして最も重要なメリットは、通勤をする人間の数が少なければ、環境にもプラスになることだ。在宅勤務は、通勤時に各人が消費するエネルギーの削減に加え、交通渋滞緩和によるエネルギーの削減にもつながる。

 一方、ピーク時に電車、バス、トラムなどの公共の交通手段がいつもより混んでいなければ、それらを利用する魅力が増加する。

ガイドラインがカギ

 こうした全てのメリットはさておき、ホーム・オフィス・デーの成功にはカギとなるポイントがいくつかある。「スイス民間企業被雇用者協会」の代表フェール氏は、在宅勤務の明確な規範を定める事は絶対に必要だと主張する。重要項目として、情報の安全と技術的なサポートの供与、そしてラップトップコンピューターやほかの機器を誰が提供するのかを明確にすることなどが挙げられる。

 職場にいる管理者は、スタッフが家で本当に働いているのかどうやって確認することができるのかと疑問に思うだろう。しかしジョセフ氏はこの点について即答した。
「あなたはオフィスにいる人々をどのように管理していますか? 非常に忙しいふりをしていても、バカンスの計画を立てたり、インターネットショッピングで靴でも注文したりしているかもしれません。考え方を変えることが必要なのです。これが、このイニシアチブを成功させるための最も重要なポイントなのです」
 とジョセフ氏は語った。

 「明確な条件があれば、誰もが在宅勤務のメリットを享受することができると思います。そうした条件を書きだしてみるのはいい考えです」
 とフェール氏は説明し、ホーム・オフィス・デーには具体的な業務を割り当てることを勧めた。

非常に満足

 具体例をあげると、ルツェルンに本拠地を置きビジネス書の要約事業を行う「ゲット・アブストラクト ( getAbstract ) 社」は、長年ホーム・オフィス・デーを実施している。
「通勤について社員が不満を言っていたときに、『この方法なら社員を自宅近くの企業に奪われることを防ぐことができる』と考えました。そしてうまくいったのです」
 と同社の広報担当マヌエラ・ニート氏は語った。

 ニート氏自身も一週間に最低2日は家で働き、非常に満足していると語る。
 「ルツェルンに住んでいる社員でさえ、時にはホーム・オフィス・デーをとっています。これは単に、在宅の方が仕事を中断されることが少なく集中しやすいからです」

 ホーム・オフィス・デーが普及してもしなくても、社内で直接顔を合わせることによって生まれるチームワークが廃止されるわけではない。ジョセフ氏が強調したように、
 「社員を永遠に自宅勤務にさせておくわけではありません。これはオフィスでの労働に対する一つの代替手段にすぎません」

スーザン・フォーゲル・ミシカ 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

1999年:総労働人口に対する在宅勤務者の比率は、スイスでは4%、ヨーロッパでは6%
2001年:時折在宅勤務をするスイス人の数は34万5000人。
2005年:ヨーロッパの在宅勤務者の数は約1600万人。そのうち630万人が定期的に在宅勤務を行っている。
2006年:スイスでは約19万1000人が在宅勤務の契約を交わしている。
2010年:スイス初の全国ホーム・オフィス・デーを実施。

ホーム・オフィス・デーの推進者は、スイスの専門職の労働者の半分は知識労働者と推定する。そのうち20% ( 約45万人 ) が1週間に1日の在宅勤務が可能と予測される。

統計によると、労働者の平均通勤距離は1日約24kmで、大半が自家用車を利用している。もしそれらの労働者が1週間に1回在宅勤務をすると、年間6万7000tのCO2の排出を防ぐことができる。

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