スイスにやってきた1万2千人の中国人団体観光客はどんな人たち?
スイス史上最大規模の観光団体が中国から押し寄せている。ツアーを主催した米ジュネス・グローバルはなぜこんな大盤振る舞いが可能なのか。ツアー参加者にとって何が魅力なのか。ツアー客に突撃取材した。
ベルンのアーレ川をまたぐニーデック橋の前で、ある中国人男性は30秒ほどツアー客の塊を離れた。団体の誰もが彼を知っているようだった。だがスイスインフォが取材を願い出ると、実名を明かすのを拒否した。写真や動画の撮影も断った。
男性は計1万2千人が参加する観光ツアーの第2弾としてスイスにやってきた。ツアーを企画したのは米ジュネス・グローバル。世界中に広がる中国人脈を使って健康・美容製品を販売するマルチ商法企業だ。
1980年代生まれの男性は、中国のメッセージアプリ「微信(WeChat)」のプロフィールで「独立した起業家」と自己紹介している。他のツアー客が男性を知っているのは、その多くを彼が販売員に勧誘したからだった。
男性がジュネスの会員になったのは2017年。以来、17カ国4000人以上の会員を直接・間接に増やしたという。年収は150万元(約2400万円)。裕福な沿岸部の出身とはいえ、中国ではかなりの高収入だ。ただ男性の話を立証できるものはなかった。
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眉をひそめる
ジュネスの大観光ツアーは、その異例の規模が話題となった。一つの団体客としては過去最多で、4千人ずつ3グループに分かれてスイスを巡っている。
スイス政府観光局がいわくつきの企業が主催するツアーを受け入れるべきだったのかどうかについても、物議を醸した。
ジュネスの販売員は主に健康補助食品を購入し、他の会員に販売するとポイントがもらえる。ポイントは現金化するか、スイス旅行に交換することができる。
ジュネスはフェースブックのプロフィール外部リンクで「潜在能力を高め合いながら互いに励まし、若くみられたい・若々しくありたい人への応援を通じて世界に良い影響を与える」とうたう。
中国の国営通信・新華社は、ジュネスのビジネスモデルを批判外部リンクする。同社がピラミッド構造を作っていると訴えた米国の集団訴訟は、昨年自主的に取り下げられた。理由は明らかにされていない。
スイス政府観光局は、ツアー主催者の調査は任務ではないと話す。「出張でスイスを訪れる企業がどんなビジネスモデルをとっているかは(営業時の)考慮に入れていない」とメールで答えた。
ジュネスが中国でどのように活動しているかは分からない。中国商務省外部リンクの直販業界の登記簿にジュネスの名はみつからなかった。取材した男性会員は、申請手続きが長すぎて申請が遅れたが、会員になることができたと話した。
男性会員に、社内でどのような地位を築いているのか尋ねたが、はぐらかされた。「私たちは健康と美のコンセプトを世に広め、価値ある商品を良い値段で販売しているに過ぎない」
「最も重要なのは製品」
中国での立ち位置はともかく、ジュネスは巨大企業のようだ。スイス政府観光局の試算によると、同社はスイスの巨大ツアーで最大1400万フラン(約15億円)をスイスにもたらした。
スイスにもジュネスの会員がいる。そのうちの1人に取材したが、「販売活動に支障が出るかもしれない」という理由で個人を特定されることを拒んだ。17年に入会したその女性会員はローザンヌを拠点に、中国語を話す住民を対象に勧誘している。ジュネスに対する批判は否定した。「議論されているからといって問題があるとは限らない。私にとって最も重要なのは製品だ」
彼女は中国でマルチ商法が批判されているのは、マルチ商法というビジネスモデル自体ではなく、極めてあくどい特定企業の悪評判が原因だとみる。ベルンで取材した男性会員も同じ意見だった。
広州からツアーに参加した頼永蘭さんは、「(企業が)大きな影響力を持つ限り、批判の声は出るだろう」と話す。「だが製品が私や私の知人・友人の役に立つ限り、部外者が何を言おうと気にしない」
今のところ、ジュネスの宣伝企画は吉と出ている。頼さんらツアー客が撮ったラインの滝など観光名所の写真が山のように中国のソーシャルメディアに投稿され拡散している。ジュネスの会員もスイスへの観光客も増えるという一挙両得となりそうだ。
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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