ギフテッド・チャイルドへの支援が不十分なスイスの教育
生まれながらに驚異的な学力を持つギフテッド・チャイルド。スイスではそのような子供の5人に1人が学校から十分なサポートを受けていない。スイスドイツ語圏の教師連盟(LCH)は、今こそ対策を取るべきだと提唱する。
スイスの教育制度は様々な学力レベルの子供に対応する統一モデルを採用しているが、焦点が当たりやすいのは特別支援学級の子供だとLCH外部リンクのベアト・A・シュヴェンディマン氏は説明する。
だがギフテッド・チャイルドも特殊なニーズがあり支援が必要だ。シュヴェンディマン氏はswissinfo.chのメール取材に「ギフテッド教育はオプショナルな追加教育と見なされていることが多い」と答えた。だが本来、学校にはすべての子供の才能を伸ばす責務があるという。
複数の調査で、学校児童・生徒の15~20%は成績がクラス平均をはるかに上回ることが分かっている。
こうしたことを背景にLCHは昨年、スイス全土・全教育課程で高い潜在能力を持った子供に対する教育の整備を義務付けるよう意見書外部リンクを発表した。シュヴェンディマン氏は「各学校に1人、ギフテッド教育に特化し、他の教員や校長にアドバイスできる教員を配置するのが理想的」だと話す。
州ごとの違い
現在、ギフテッド・チャイルドへの教育方法は州によって異なる。そもそも教育制度が州の管轄なため、飛び級やメンター制度、放課後活動や特別支援学校なども州ごとにばらばらなのだ。教員は授業で成績優秀な子供に追加教材を与えることも可能だが、シュヴェンディマン氏によるとそうした取り組みを重視している学校は数校にとどまる。ギフテッド教育の予算も州によってばらつきがある。LCHの意見書は、ギフテッド教育課程を教育システム全般・全学年に広げるよう気付きを促す目的があった。
州ごとにアプローチ方法が異なるため、スイスを他の国と比較するのは容易ではない。「だがスイスの学校がギフテッド・チャイルド支援で長い伝統を持つ国から学ぶべきことは確かにある」とシュヴェンディマン氏は強調する。
ガリ勉?
LCHは意見書で、高い潜在能力のある子供を見出すのは必ずしも容易ではない、と指摘する。能力がテストの点数に表れるとは限らないためだ。授業をつまらないと感じていたり、「ガリ勉」と回りからレッテル貼られることへの恐れがギフテッド・チャイルドの成績に影響を与えることもあるからだ。苛立ちが反抗や攻撃的な態度に表れるケースもある。LCHが早期にギフテッド・チャイルドを発見し適切な支援を与えることの大切さを強調する理由もそこにある。
シュヴェンディマン氏は「ギフテッド教育は学校の教育課程の一部であり、相応の予算と質の管理を受ける必要がある」とコメントした。
意見書の執筆に関わった教育の専門家マルグリット・シュタム氏は、ドイツ語圏日刊紙アールガウアー・ツァイトゥングに対し、スイス全土でギフテッド教育を義務付けるのは難しいかもしれない、と語った。多くの州はそのための十分な予算を持っていないという。知的レベルの低い子供に資源が集中する傾向もある。チューリヒ州では6割の子供が療育や作業療法など何らかの治療を就学前に受けている。小さな子供は発達ペースのばらつきが大きいので、例えば夏ではなく冬にも新学年を始めるなど、就学に柔軟性があることが必要だとシュタム氏は主張する。
同紙はスイスでも最も有名な数学の天才、マクシミリアン・ヤニッシュ君の生活も紹介。彼が受けた教育は「柔軟性に欠ける」もので、教育制度をうまくやり抜くには大きな苦労があったと書いた。
シュヴェンディマン氏によると、多くの学校が個別の学習課程を用意しギフテッド・チャイルドにも対応する手段を持っている一方、特別な支援を全く行っていない学校もある。同氏は「全ての生徒に平等な機会を提供するには、全ての学校がギフテッド・チャイルドへの支援を用意する必要がある」と結んだ。
スイスの神童
2003年ルツェルン州生まれのマクシミリアン・ヤニッシュ君はスイスで最も有名なギフテッド・チャイルドだ。IQ149(かそれ以上)の数学の天才児は、15歳にしてチューリヒ大学に入学した。スイス最年少の大学生だ。
マキクシミリアン君は学校システムが自身の高すぎるIQに対応していなかったと振り返る。8歳で高校に通い、1年後には大学入学資格のマトゥーラ(マチュリテ)に合格した。だが彼は大学に入学する資格のある年齢まで待たなければならなかった。
父で元数学教授のトーマス・ドリッシュ氏は、スイスではSTEM(数学、技術、工学、数学)教育が十分にサポートされていないと語った。
(引用:アールガウアー・ツァイトゥング外部リンク)
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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